1-3

我先に扉を開けて入って来た彼は、グレーのコートに身を包んでいた。だらし無く着重ねされているため、胸元が大きく開かれている。

腰に巻かれた革ベルトはこれもまただらしが無く、下の方がヒラヒラと舞っていた。巻かれていると言うよりは、ぶら下げている、と言う表現の方がしっくり来るかも知れない。


無造作に搔き上げられた銀髪は襟足まで届き、男性なのに異様な色気を放っていた。

極め付けは、色気を増長させるようなバイオレットの瞳。それが一点を凝視したまま、ツカツカと歩み寄ってくる。


「気が付いたのかい?ああ、やっぱり。君は想像以上に美しいよ!」


「おい、ロドフ。その辺にしておけ。」


至近距離でうっとりとした表情を浮かべて見つめられる。その途轍もない色気に当てられ、さらに瞳の奥に宿る真意がわからずにどうにも居た堪れなくなって視線を逸らした。

すると、後ろに控えていた別の彼と目が合ってしまう。けれど事情を察してくれたらしく、ロドフと呼ばれた彼をたしなめてくれた。


「ああ、レオ。でも君もほら、見ただろう?」


「話を聞け、全く。」


上下純白の洋服に真っ青なマントを羽織った彼は、金髪を一つに纏めて横に流していた。一糸乱れずキッチリとした着こなしはロドフと対照的だ。アイスブルーの瞳からは、気品が溢れていた。


マントからチラリと覗き見えたものは剣。決して小さくも細くも無いそれは、重量も相当だろうと考える。どうにも線が細くスラリとした出で立ちから、剣を構える姿を想像できない。着痩せするタイプなのだろうか。


そんなレオと呼ばれた彼は、ロドフをひと睨みするとこちらに向き直った。

瞬間、フワリと微笑まれる。

安心させるようにと配慮してくれたのだろうが、ロドフとは違う意味で心臓に悪い。この笑顔に悩殺された女性は少なくは無いだろう。


「誰かあ〜手伝ってえ〜フェンに潰されて動けないよお。」


そのまた更に後方を見やると、2人組が重なって倒れていた。


「ロイ、あまり騒ぐな。」


その光景に小さく溜息をついて、1人掛け用のソファーに座っていた黒髪の彼が立ち上がる。


ロイと呼ばれた彼は、潰れる〜!潰れる〜!と、四肢をバタつかせては呪文の様に繰り返していた。

一度自力で起き上がろうとしたのだが、フェンに押しつぶされて「ぐへぇ」と、情けない声を発している。


「クロード、助けてえ…!」


「…はぁ。」


見兼ねた黒髪の彼、もとい、クロードと呼ばれた彼が助け起こしたのだが、再度付いた溜息はわざとらしく隠すつもりが無い。


「助かったよ、でもなんで僕だけ注意するのさあ!」


ロイは口を尖らせて抗議した。

その度に赤い癖毛がふわふわと動き、小動物の毛並みを連想させた。彼女は思わず撫でたい衝動に駆られたが、そう言えば手を動かせないのだと思い出す。…とても悔しい。


ロイの背丈はクロードと呼ばれた彼よりも頭ひとつ分小さい。側から見れば兄弟の様にも見える。黒の厚底ブーツはそれ以上身長差を広げないための努力なのだろうか?

さらに彼は、特徴的な黒装束を纏っていた。まるで何かに帰依する組織の様。その装束の上から、ワインレッドのジャケットを肩で羽織り、チェーンで繋いでいる。



最後に隣に寝転がるフェンと呼ばれた彼は……。

金で縁取られた深緑のマントにすっぽりと包まれており、どこが頭なのか見当つかない。

彼については追い追いわかるだろうと、そっと視線を逸らした。









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