戦闘と命の覚悟
来る日も来る日もフランとニアと遊んだ。
そこにクララも混じり、計4人で鬼ごっこをしたり隠れんぼしたり、うちへやって来ておままごとしたり。それはもう毎日遊んだ。
フランとニアはクララにも優しかった。もうそれだけで悪いヤツではないと悟ったのであった。
――そして、2人と出会ってから半年が過ぎた頃、事件が起こった。
人気ひとけのない森までやってきたのだ。
俺としても魔物とかいたら見てみたいので願ったり叶ったりだった。
家の近くから一番近い森。歩いて30分あれば着く場所に位置する。
最初に森へ行こうと提案したのは俺ではなく、ニアだ。
クララは興味があったのかニアが言い出すと即答で「行くー!」と元気よく挙手をしたのだが……
「ねぇ、帰ろうよ」
「大丈夫だってクララちゃん! お姉さんがついてるよ!」
少し嫌がるクララにフランは手を繋いで勇気づける。
最初は乗り気だったクララも森へ入った途端、こう怯えてしまったようだ。
それにしてもこの森、
「······薄暗いですね」
「えー、もしかしてクルルも怖いんだぁ?」
「いえ、僕は全然ですよ。さっきからキョロキョロしっぱなしのニアが怖がってるんじゃないですか?」
「ひぇっ! ち、違うもん!」
「へぇー、ふぅーん」
「信じてぇっ!」
そんなやりとりをしながらずんずん森の奥へと進んでいく。
森は昼であるのにも関わらず、薄暗く夕方のような暗さだ。
さっきから、周囲の茂みがカサカサと音を立てている。
音がした方へ確認しに行っても何も無い。これで何度目だろう。
まあ、念には念を、だ。
俺たちは奥へ、奥へと歩みを進めていく。
…………………
………………
……………
…………
………。
どのくらい進んだかわからない。
方角もあやふやだ。どっちから森へ入ったのかもすらわからなくなっていた。
やばいな、完全に迷った。目印でも仕掛けておくんだった。
「そ、そろそろ帰りません?」
「そ、そそそ、そうね! 帰ろっか!」
「う、うん、お腹もすいてきたしねぇ」
「もう帰りたぃ······お母さぁん······」
まずい、クララが本格的にぐずり始めた。
とりあえず泣かないようになだめる。よーしよしよしよし。
どうするか。下手に歩いても危険なだけか······?
うーん、でも動かなければ何も始まらないしな。ここは俺がどうにかしなければ。
そう思ったその時だった。
──ガサガサッ!!
まただ。また茂みが揺れる。
だが、今までのよりも比較にならないほど大きく激しい音だった。
そして、とうとう姿を現した。
ん? 犬? まんまドーベルマンみたいだ。
ゆっくりノシノシと、その犬が近付いてきた。
というか、なんでこんなところに犬が?
そう思って目をよく観察する。
特に変わった点は見つからない……いや、見つけた。
――煌々と光る紅い眼。それは、魔物の証。
「ドーブル······」
フランが目の前の魔物の名前を呟く。
そうだ、確か家にあった魔物図鑑に載ってた気がする。
「グゥルルルルッ!」
「ひゃ!」
ドーブルが威嚇を始め、ニアが小さい悲鳴を上げた。
「ガァァァッ!!」
ドーブルは間髪入れずにニアへ飛びかかってきた。
俺は考えるよりも先に動き出していた。
咄嗟にニアを庇い、足を前へと突き出す。
そのままドーブルの鼻へ、靴の裏が吸い込まれるように直撃した。
「ギャン!!」
ドーブルは前蹴りの威力を殺すように後ろへ飛びながら空中で一回転決め、華麗に着地した。
しっかり決まったと思ったんだがな。
······あれ、帰っちゃうのか?
ドーブルは一度こちらを睨みながら唸ると、もと来た方向へと戻って行った。
「ニア、大丈夫ですか?」
「う、うん大丈夫だよぉ! ありがとうクルルゥ!」
「お兄ちゃん凄い!」
「ふっふっふ、それほどでも!」
妹の黄色い声援に、歯を煌びやかに見せつけながらドヤ顔。
だが、その顔は引き攣ったものへと変わっていく。
3人は気付いていない。
──俺たちはドーブルの群れに囲まれている。
「やばいっ! 逃げるぞっ!」
「「「え?」」」
「ボーッとしてる場合じゃない! 逃げるんだ、超逃げるんだ!!」
俺の剣幕に冗談じゃないと悟った3人は、俺の後ろをついてくる。
適当に方角へ走ってもダメだ。
相手の見た目は犬。嗅覚もすばやさも、見掛け倒しではないだろう。
このままじゃジリ貧だ。3人を逃がさなきゃ。
それで戦える大人を連れてきてもらえれば······。
そう思ったらすぐ言葉に出せた。
「3人は森へ出るんだ! 出たら近くの大人に声を掛けて助けを呼んできてくれ!!」
「お、お兄ちゃんはどうするの?」
「僕はこいつらを、ここで食い止める!」
「それじゃあ、お兄ちゃんが危ないよ!!」
「僕は魔術が使える! 大丈夫だから!」
「やだやだ! お兄ちゃんも一緒に……!」
クララはどうしても一緒にいてほしいようだ。まったく、可愛い我が妹よ。
フランとニアは逡巡し、そして見合わせ頷きあった。
「絶対無理しないでね! 絶対だよ!」
「ダメだと思ったらすぐ逃げてねぇ! すぐ助けを呼んでくるからぁ!」
「あっ、お兄ちゃんっ!」
フランとニアはクララの手を取って走り出す。
そう、それでいい。
俺の意思を汲んでくれた2人には感謝だな。
だが、そこへ1匹のドーブルが3人の行く手を阻もうと駆け出した。が、
「させるわけ無いだろ?」
無詠唱で『風弾ウィンドブレッド』を放った。
「ッ!!」
声にならない声を上げ、ドーブルの胴体には拳大の風穴が開く。
赤黒い血を滝のように垂れ流し、1匹のドーブルはピクリとも動かなくなった。
3人は無事、そのまま走り出し木々に遮られて見えなくなった。
うん、魔物を殺すのに忌避感はない。
3人を逃がすと決めてから魔物の命を奪う覚悟は完了してる。
ならば、やることはただ1つ!
「今から、実験を始めまーす!
被検体はもちろん────お前たちぃ!」
俺は目を見開き、犬共を凝視する。
総勢50匹程のドーブルの群れとの戦いが始まった。
とりあえず囲まれたらまずいし、攻撃しながらを移動しよう。
「さあさあ、お邪魔ですよ、っと!」
一番近くにいたドーブルの頭を左足で蹴り上げる。
脳が揺れたのかフラついたところに右足で顔面に向かって回し蹴りを食らわせる。
よし、バッチリだ。
前世では喧嘩らしい喧嘩なんてほとんどした事無いが、体を鍛えてるからか良い蹴りが決まった。
クララ達とは逆の方向へ走り出す。
周りのドーブル達には仲間意識というものがあまり無いのか、倒されたドーブルの事を気にもせず、いないものとして扱われていた。とても哀れ。
うぉー、結構な数だし迫力あるな。
俺VS犬50匹!
······なんかちょっとダサくね?
走りながらドーブルの群れに手を向け火弾、水弾、風弾を連続でブッ放す。
様子を観察してみると、ドーブルは致命傷を負うか、体制を崩し転んで群れに踏み殺されるかの二択だ。
再び前を向いて走り出すと前を見ると、先回りしていた3匹のドーブルがいた。
「喰らえ、お注射!」
チョンと地面に触れて、3匹いるうちの外側2匹に向けて土魔術を行使する。
地面から隆起した、コンクリートのように硬く鋭利な土がドーブル貫き、血の雨が降り注ぐ。
突然のことに狼狽える真ん中のドーブル、その頭を踏み付けて飛び上がる。
真上を通過するタイミングで風刃ウィンドブレードを首筋へ放つ。
スポーン、と間抜けな効果音が聞こえてきそうなほど綺麗に撥ね上がった。
スチャッ、と綺麗に着地!
昔のアニメで見たのを真似してみたけど上手くいった!
よし、この調子でどんどん試してみよう!
……と、思ったのだが、森の終わりが見えてきてしまった。
ちぇ、なんだここまでか。
さすがに、もう一度森の中に入って追いかけっこするのは違う気するしなぁ。
よし、こうなったら作戦変更! アレを試してみよう。上手く行けば一掃できるしな。
森の外へ出て振り向く。
だが、ドーブル達は一向に出てこようとしない。
なんだ? 恥ずかしがり屋なのか?
まぁいいや。そっちの方が都合がいい。
魔力の流れを一気に加速させる。
まずは、いつもの火弾を発射させずに手のひらで待機。
そこへいつも以上に魔力を送り込み、どんどんと肥大化させる。
よし、ここからが大事だ。集中集中!
その巨大になった火弾を風魔術で押し込むように一気に圧縮する。
小さく、小さく、もっと小さく……
よし、できた!
片手で包み込める程の大きさの赤く輝く玉がふわふわと浮いている。
そして、狙いを定めて放射。
まっすぐ飛んでいく赤い玉はドーブル軍団のど真ん中に直撃し、
───────チュドーーーーンッ!!!
気が付くと俺は空中に浮いていた……否、爆風に飛ばされた。
迫り来る地面に焦り、大急ぎで風魔術を発動。
落下速度を減速させるが見事に不時着。
バッと、急いで体を起こすと、上空にはキノコ雲が出来上がっているのが見えた。
·········やばいやばいやばい! やっちまった感が半端ない!
大きな森の一部分が不自然に無くなってしまった。現場はまさに焼け野原状態だ。
にしてもやっちまったなぁ。
······まあ、考えるだけ無駄だしいっか! 引きずらないのが俺の長所!
魔石も回収したかったけど吹き飛んじゃったなー。
ちなみに魔石とは魔物の心臓の中にある石のことだ。
これはギルドや商人に売れる。透明に近ければ近いほど高く売れるんだとか。
強さと比例して透明になってくらしい。
ドーブルは弱い魔物だが群れるのでランクはEだ。
あの数だったし結構な額になったかもな······。
あーもったいね。
それから数分後、フランとニアとクララの3人が、ファザーとマザーを連れてきたやってきたのだった。
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