第1話

 小屋のドアを開けて目に飛び込んだのは、村の跡地らしかった。

 自分がいた小屋のほかにもちらほらと小屋が建ち、その小屋と小屋をあぜ道がつないでいる。

 といっても、道もかろうじて道とわかるくらいだが。


「体に不具合がないようでよかったです」


 どこからか声が聞こえた。

 だが振り返ってみても誰もいない。


「下ですよ、あたなが起きてからずっといたんですが……」


 声のほうへ、つまり地面のほうへ目を向ける。

 そこには濃緑の髪に黒縁の眼鏡をかけた、恐らくだが妖精がいた。

 見た感じのイメージは、なんとも真面目そうだ。


「あっ、君は?」

「私はメイラ。目を覚ましたあなたのサポートをするようリア様に言われ、あなたが目覚めるのを長い間待っていました」

「リアが?」

「はい」


 リアとこの妖精、メイラはどんな関係だったのだろう。

 聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず俺はどうすべきかを聞くことにした。


「俺はなにをすればいい」

「生きれば良いのです、あなたの好きなように」

「っていわれてもなぁ」

「もっとも、あなたの今の体では生きる、ということだけで見れば容易なことだとは思いますが」

「どういうことだ」

「リア様がほぼ不死身の体を持っていたことはご存知だと思いますが」

「あぁ、知ってる」

「あなたはリア様の魔力や特性を、上乗せで引き継いでいるのです」

「そうか……だからこんなにも魔力の流れを強く感じるのか」

「これはリア様が遺した言葉の一つですが」


 そう言ってメイラは小さな、妖精サイズの本を取り出し、ページをいくつかめくる。


「魔力を操ることを意識すること、魔力に操られてはいけないから、と」

「魔力に操られる、ね。気をつけるよ」

「私は種族的には妖精という部類なので、魔力に操られるという感覚がわかりかねますが……」

「俺は仮にも人間だからな」

「それもそうですね」

「そんなことより、この服なんとかなんないかな、短パンに半袖シャツは流石にさ」

「なんとでもなりますよ、私も妖精のはしくれですから」


 メイラが指で空になにかを描くと、俺の体は青白い光に包まれる。

 そして光が引くと、まるで旅人のような服をまとっていたのだ。


「へぇ、こういう魔法もあるんだな」

「こういう魔法しか使えませんが、お役に立てれば」

「ありがとう、メイラ」


 メイラには言わなかったが、俺の目的はリアを、俺も生きた状態で生き返らせること。

 そしてそれには二つの問題がある。

 一つは、蘇生には神の水や破邪の杖、賢者の石といった貴重なものとともに、儀式を行う者の命を捧げる必要があるということ。

 もう一つは、リアの体が見当たらない以上、魂をいれる器となるものが必要だということだ。

 しばらくは、この二つをどう解決するか、を探す旅になりそうだ。

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