第2話

 ゴウウウウン……ゴウウウウン……と機械が駆動する音が聞こえる。

 目覚めた村の跡地を出て、少し歩いた頃。

 遠くで聞こえたその音はじっとりと心臓をなにかで濡らすような不安感を感じさせる。

 音のする方へ、隠れながらゆっくりと近づいてみる。するとどうだろう、運がいいのか悪いのか。


 俺の身長の三倍はあるであろう巨大な正六面体の胴部と、そこから伸びる六本の脚部と四本の腕部。

 見たことのない機械兵だが、そのモノアイの横には軍事国家ベリアルの国章がしっかりと刻まれている。

 つまりは、ここはベリアルの領地ってことになるな。


 ほんとに運がいいのか悪いのか。

 嫌な記憶、感情がふつふつと沸き上がってくるが、ぐっと胸元で潰す。

 下手な戦闘は避けるべき、か。

 そう思い進路を変えようとした瞬間。


「生体反応、及び魔力反応確認」


 気づかれた――――


 ――――ならやるしかない。


「電撃魔法」


 俺は身体に巡る魔力を右手の平に集中させ、魔法を放つ。

 が、その威力に我ながら驚いた。


 聞いたこともない轟音と共に、まるで雷の最大火力、もしかしたらそれ以上の電撃が機械兵に向かって放たれたのだ。


 電撃によってショートしたのか、機械兵は大きな音とともに崩れ落ちる。


 あまりの魔力に、リアが魔力に操られてはいけないと遺した意味がやっとわかった。


 しかし息をつく暇もなく、新たな敵は現れる。

 恐らく、空間転移魔法の類いだろうが、崩れた機械兵の横の空間がぐにゃりと歪み、そこから人が姿を現す。

 白く、長い髪。


 ほんと、何度も言うが運がいいのか悪いのか。


「生体反応と魔力反応が同時に検出される度に現場にいくのも、中々に骨が折れますね」


 聞き慣れた声ではない、しかし確かに記憶された声。

 七百何番だったか、そこまでは覚えていないが、名前はリムっていうことは覚えている。


「やっと見つかったのがあなたとは……確かにあの時殺したと思っていたのですが」

「ああ、確かにあの時俺はあんたに殺された」

「探しているのはリアという女なのですが」

「探してどうするつもりだ」

「不死身ならば、実験台にし放題ですから。あの時逃がさなければと後悔しています」


 リムはゆっくりと手の平をこちらに向ける。


「まずはあなたの息の根を、止めさせてもらいます」

「できるもんならやってみろ……!」


 俺もすかさず手の平を向け、最大火力の魔法をぶつけようと試みる。


「電撃魔法」


 ところが、確かに魔力を手の平に集中させ、放出させた感覚なのだが魔法は発動しない。


「魔法が発動できなければ、あなたもあの女も赤子のように無力ですね」


 詠唱などせずに、無数の光の矢が俺を貫いた。鋭い痛みとともに、血が流れ出る。

 だが、今の俺は不死身だ。

 もう、負けることはない……!


「魔法がだめなら筋肉勝負だ」


 アドレナリンのせいか、痛みに慣れ始めたと同時にリムへ向かって走りだす。

 手を握りしめ、拳で勝負をしかける。


「まさかとは思いましたが」


 ぐん、とリムの腹部に拳を当てると、リムの体は少しだけ宙に浮く。

 すかさずもう片方の拳でこんどはストレートを打ち込む。


「やはり、無力ですね」


 手応えはあった。

 だが気づけば硬く大きい石で殴り飛ばされたような鈍い痛みと激しい衝撃をうけ、体が後方へ吹き飛ばされる。


「ヒューズ様、いまのあなたでは勝ち目はないかと」


 そういえばメイラもいたな。

 草藪の中からひょっこり顔をだしてこちらへ声をかける。


「メイラ、魔術が使えないこの状況で逃げれると思うか」

「それもそうですが……」


 なにか方法はないか、なにか。

 そう考えていると、ふと頭にあの言葉がよぎる。


 魔力を操ることを意識すること、魔力に操られてはいけないから。


 そうだ、この手があった。


 魔力を外にだせないなら、内側で魔力を使うしかない。

 つまりは。

 魔力に操られてみるしかないな。


 心の底、体中に巡る力。

 全てを一点に、体の中心に集める。

 激しい頭痛とともに、背中を裂くような痛みが伴う。


「これはこれは……」


 リムですら驚くのだ、相当醜い姿だと思う。

 背中から二本の長く充血した腕が生え、皮膚は赤黒く変色していた。

 右手の甲には見慣れない紋章が刻まれている。

 だが、不思議だ。


 こんなにもこの姿で戦えることが心地いいなんて。


 さあ、復習劇のはじまりだ。

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