前のエピソード――中学二年の息子を持つ母がその担任教師に宛てた手紙

お母さま

お手紙、拝読いたしました。

二年三組担任教師の奥村でございます。

お母さまの子を思う御気持ち、私にも痛い程分かります。

私は教員でありますが、それと同時に一児の母なのです。

私が担当する二年三組の生徒はとても良い子ばかりです。いじめなんて、そんなことは考えられません。ですが、昨今のいじめはとても陰湿で我々教師の目に届かないところで密かに行われているのもまた事実です。

早速息子さんとお話しをしました。

彼と一対一で向き合ってすぐにピンと来ました。彼は何か思い詰めたように俯き一点を見つめていました。お母さまのご指摘のとおりです。大きな悩みがあるに違いありません。まだまだ教師としては未熟な私ですが、こういった直感は鋭いのです。

ひとまずこの場では特に聞き出すような真似はせず「何か悩みがあれば相談して」と伝えておきました。そして彼は勇気を振り絞って「はい」と一言告げてくれました。

今はそれだけで充分です。

まだ、いじめとは確証を得ていませんが、少なくとも彼は思い悩んでいて誰かに助けを求めています。

今回の件はとてもデリケートな問題です。

事を大きくしては返って彼を追い詰めてしまうかもしれません。

私は私で秘密裏に出来る以上の事をします。

お母さまにもご助力いただければと思います。

裏面に私のラインのIDを記載しております。

密に連絡を取り合いましょう。

「追伸」

とても美味しいクッキーの詰め合わせありがとうございます。本来であれば、こういう贈り物は余り良くないのですが、私は甘い物に目がないもので、届いてすぐにペロリと全て食べてしまいました。こんなにおいしいお菓子は初めてです。二つも三つもあればいいのにと思ってしまいます。なんて、ねだっている訳ではありませんのでお気遣いなく。