『怪談』

asteain-ninia

怪談 縮小版

『怪談』dali-einerZy


そう、それは私がまだここの学生だった頃か。彼女はいつも音楽室に居た。

男ばかりの工学校であるのもあって、放課後の音楽室に近づくものと言えば私くらいなものだった。

古い合唱曲を蓄音機で小さく流し、独りで、しかもかすかな声で歌うのだ。初めて聴いた時は空耳かと思ったほどに。今でもあれら全ては空耳であったのではないかと疑いたくなる。

さて、在籍中はそれで良かったが、その内私も卒業の時を迎えた。このままただで聴き、顔も知らずに卒業するのは心持ちが悪い。そう思ってある金曜日、私は音楽室の引き戸を開いた。

そこには誰もいなかった。物音一つなかった。今まで鳴っていたはずの蓄音機さえも黙り込み、唯耳鳴りだけがあった。


これで終わりだ。どうだ、恐ろしいだろう? わかればもう夜中に音楽室へ忍び込むようなことはやめるんだな。君らも幽霊になぞ会いたくあるまいし、そんな歌を聴くのは、音楽教師の私だけで良い。さァ、帰った帰った。

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