大樹の社

なづ

本編 大樹の社

序章 最期の夢

 主様、と呼ぶと、彼はいつも目を優しく細めて、そっと笑って振り向いてくれた。

 でも、そんな彼に、結局私は、どれだけ恩返しできたのだろう、と何度も考えている。そんなの自己愛にすぎない。自己中心的で、どこまでも愚かだった私に、ますます泥を塗りたくるような愚かな行為だ。分かっている、と分かっていない私が口の中で呟く。

「――仕方がなかったんだよ」

「でも……私は……」

「――はなにも悪くない。なにも悪くないよ……」

 ちりん、と鈴の音が鳴る。彼が動くと、そのたびにこの音が鳴る。その音に、私はいつも癒されてしまうのだ。

大きく身幅を取った服に埋もれるように、私の体が彼に引き寄せられている。ぼろぼろと涙がこぼれて、私は鼻を啜った。

 耳を覆ってしまっても、いつまでも鈴の音は付いてくる。

 主様の「あの夢」のときも、なぜかこの音はしていた。

 頭が鈍く痛む。泣きすぎて腫れてしまっているだろう目も、奥から痺れるように痛みを宿していた。


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