第127話 レジィの覚悟


「カルマさん……どうやって、此処に?」


 当然出現したカルマに、ソフィアは戸惑っていた。

 挑発されて顔をしかめるレジィ以外は、皆が同じ答えを求めている。


「どうやってって、転移魔法を使ったんだよ? そんなことより……おまえらさ? まともに戦えるようになる方法を知りたくないか?」


 転移魔法を発動させるのに転移門が必須なことなんて、こいつらは知らないだろうとカルマはタカを括っていた。

 仮にバレたとしても、さらに適当なことを言って煙に巻くつもりだ。


「僕たちは……もっと戦える筈だ! そのために何をすべきなのか、知っているなら教えてくれ!」


 台詞の後半に食い付いたレオンが、思わず立ち上がって真剣な眼差しを向けてくる。


「ああ、勿論そのつもりだよ」


 カルマは焚火を挟んでレジィの正面に座ると、四人を手招きした。


「だから、そんなところに固まってないでさ? おまえらもこっちに来いよ?」


 四人が焚火の周りに座るのを待って、カルマは語り始めた。


「いちいち細かいことを訊かなくたって、おまえたちの態度を見ればどんな状況だったかは想像できる。その上で言うけどさ――おまえら、馬鹿だろう? やり方が根本的に間違っている」


「……どういうことだ? 僕だって必死に戦った……」


「必死にねえ……、やり方が間違ってるんだって?」


 カルマは揶揄うように笑う。


「さて、問題だ――おまえたちの部隊(チーム)が敵に翻弄される理由は何だと思う?」


「……攻撃力が足りていないからだろう?」


 苦々しげに応えるレオンに、カルマは呆れた顔をする。


「レジィがいるのにか?」


「だから……レジィさん以外の僕たちが、力負けして突破されるからだろう!」


「何だよ、そこまで解ってるのに答えを間違えたのか? 力負けしないための手段は、何も攻撃だけじゃないだろう?」


 カルマにそう言われて――レオンはようやく気づいた。

 自分は火属性の魔術士だから、戦闘時は攻撃するものだと決め込んでいたのだ。


火焔盾ファイアシールド火焔壁ファイアウォール。火属性の魔法にも防御に使える魔法くらいあるよな? それと……ソフィア? おまえも戦士を気取るのは勝手だけどさ、神聖魔法が使えるなら他に出来ることがあるだろう?」


「……聖なる盾ホーリーシールド!」


 さすがにソフィアも、カルマの言いたいことが解った。

 クリスタに憧れる自分は戦うことばかり考えていたが――


「フェンも含めて三人で壁を作れば、セナを守るくらい難しくないだろう? あとはタイミングを計って支援攻撃をしながら、レジィが敵を殲滅するのを待てば良い。

 自分に何ができるか、何をすべきか――そっちを考える方に必死になれよな?」


 カルマはしたり顔で笑うが――レオンは納得していなかった。


「でも、それじゃ……僕たちは唯の荷物で、何の役にも立たないじゃないか!」


「そんなことないさ。怪我をしたらソフィアが必要だし、鍵開けや罠の解除はセナの独壇場だろう……ああ、おまえが魔法でセナの代役をして役に立つって方法もあるけど……」


 カルマは意地の悪い顔をする。


「それでも、おまえが自分が望む方法で役に立ちたいと思うなら――もっと懸命に、徹底的に必死になって考えてみろよ? 少なくともレジィ・ガロウナは、おまえみたいに諦めが良い奴じゃないけどな?」


 話を振られて――レジィの褐色の瞳が、真っすぐにカルマを見据える。


「さてと……レジィ、最後はおまえの番だ。本音を言えば、自分で気づけって言いたいところだけどな?」


「ああ、魔王様……自分が一番不甲斐ないことくらい、俺だって解っているぜ!」


 噛み切った唇から血が流れ出す――レジィは必死だった。

 自分に何が足りないか、如何に自分が使えないか、この二日間で思い知ったが――だからと言って絶対に、このまま終わらせるつもりなどなかった。


 そんなレジィの心理を読み取って、カルマは思う――少なくとも、今回のことに意味はあったかなと。


部隊チームのメンバーに何ができて、何ができないか。それを把握した上で部隊として、どうやって機能させるか――その意味がようやく解り始めたって感じだろう?

 これからおまえは、戦場全体を見据えながら、味方の状況に合わせて自分が何をするのが最適か、それを即座に導き出す術を身に付ける必要がある。誰かに教えられるんじゃなくて、自分自身で考えてな?」


 レジィは覚悟を決めた顔で深く頷いた。


「よし、良いだろう……だったら一つだけ、おまえが他の奴と連携する上で役に立つことを教えてやるよ?」


 カルマは屈託のない笑みを浮かべる。


「おまえってさ、魔力の使い方を物凄く限定して考えてるみたいだけど? 魔術士じゃなくたって、おまえくらい魔力があれば他にもやれることはあるだろう?」


「……魔王様、どういう意味だ?」


 燃え上がるような褐色の瞳に、カルマは応える。


「何、単純なことだよ? おまえの余分な魔力を、他の奴に貸与トランスファーしてやれば良いだろ?」


 レジィは目を大きく見開いた。


「……魔力を貸与トランスファーする? どうやって!」


「いや、理屈で説明するのは簡単だけどさ……おまえは感覚で魔力を操るタイプだからな? 自分でイメージした方が早いと思うけど?」


 そこから――レジィの試行錯誤が始まった。


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