第113話 これからのこと


「それじゃあ――これからのことについて、そろそろ話をしようか?」


 カルマに促されて、アクシアが口を開く。


「うむ、そのことだがな……この国でやるべきことは、さすがに全てやり切ってしまったであろう? 次こそ本当に、どこへ向かうつもりなのだ?」


 クリスタには申し訳ないと思うが。カルマが目的のために動き始めた以上、ラグナバルに留まっている理由はなかった。

 横目で見ると――そんなこと気にしないでよとクリスタが微笑んでいた。


「まあ、確かにその通りなんだけどさ? 課題も二つあることだし、急いでラグナバルを出て行く理由もないんだよね?」


 三人の注目を集めながら、カルマはしたり顔で笑う。


「課題の件はまず置いておいて……ラグナバルを出て行く理由がないって件だけどさ? 皆も解ってるだろうけど、俺は転移魔法で移動するから拠点ベースは何処だって構わないんだよ」


「へえー……まあ、そうよね……」


 クリスタは無関心を装っていたが、喜ぶ気持ちを隠すことなどできなかった。


「そう言うことだからさ、クリスタさん。これからもよろしくな?」


 カルマは悪戯っぽく笑うと、染まるクリスタの頬に気づかない振りをして、新しい煙草に火を付けた。


「最近になって少しは纏まった情報が入るようになったし、幾つか伝手(つて)もできたけど――所詮はクロムウェル王国と周辺地域だけだ。俺の目的を果たすためには、まだまだ足りないね。だから、俺は暫く単独行動をして、情報収集のための仕掛けを施してくるよ」


「……単独行動だと!!! 何故そういう話になるのだ? 我はカルマの共犯者であろうが!!!」


 全く聞き捨てならないと、アクシアが捲し立てる。


「そうだぜ、魔王様! それじゃ約束が違うじゃねえか!」


 事の成り行き黙って聞いていたレジィも加勢するが――


「あのさあ……話は最後まで聞けよ。何も、おまえたちを放置しようって話じゃないんだからさ?」


 そう言っても、二人はすぐには納得しなかった。

 カルマは苦笑して説明を続ける。


「まずはアクシアの方だけど――さっき話した課題の一つは、おまえの要望を叶えることなんだからな? 俺に鍛えてくれって言ったことを忘れた訳じゃないだろう?」


「なるほど、そういうことか!!!」


 アクシアは掌を返ししたように歓喜の声を上げる。


「これほど早く我の思いに応えてくれるとはな!!! カルマよ、感謝するぞ!!!」


「まあ、おまえに四六時中全部付き合う訳にもいかないからさ? 昨日のうちにハイネルには、おまえの模擬戦の相手をするように頼んでおいたよ」


「ということは……ハイネルの奴もカルマが鍛えてやるのか?」


 厭な感じの嫉妬心がメラメラと燃え上がる。


「あのなあ……実戦に近い形式でやった方が効果が高いに決まっているし、ハイネルクラスの練習相手なんて、そうそう見つからないだろう? あくまでもアクシアがメインなんだから、少しは我慢しろよ?」


 カルマにそう言われて、アクシアは渋々納得した。


「次にレジィの方だけど――おまえが二つ目の課題だな。一応、役に立つことは認めたけどさ? それは探索や索敵能力のことで、戦闘に関しては根本的に問題だらけ目なんだよ」


「何だよ、魔王様! いきなり、酷えじゃねえか!」


 こき下ろされてむくれるレジィに――カルマは意地の悪い顔をする。


「酷いって? おまえは自覚がないようだから教えてやるよ――

 おまえの攻撃は、そもそも単調でパターン化してるんだよ?

 それに自分が不利になるとすぐに頭に血が昇って、さらに攻撃の仕方が単純になる。

 単独行動しか考えていないから、連携も取れないしさ?

 魔法も身体強化系しか使えないから、攻撃に幅が……」


 絶え間なく続く容赦のない口撃に――さすがのレジィも、ついには頭を抱えて蹲ってしまった。


「うぉぉぉ! もう勘弁してくれよ!」


 そんなレジィを――カルマは冷徹な目で眺めながら、皮肉な笑みを口元に浮かべる。


「……なあ、カルマよ? どうせ、これから嫌でも弱点を思い知らせてやるのであろう? だったら今日のところは、そのくらいで勘弁してやってはどうだ?」


 アクシアが見兼ねて助け舟を出してやるくらいだから――レジィのヘコみようは相当なものだった。


「まあ、そうだな……レジィ、おまえは強くなりたいんだろう? だったら、俺のところに来た以上は、徹底的に鍛えてやるよ」


 このときレジィには――カルマの顔が本物の悪魔に見えた。


「そういう訳で、クリスタさん?」


 他人事ながら、初めてレジィ同情心を抱いていたクリスタは――不意に話を振られて、少し引きつった笑みを浮かべた。


 そんな反応が面白くて、カルマは思わず笑ってしまう。


「……何よ、カミナギ?」


 笑われたことに怒ったクリスタは睨みつけてくるが――


「いや、別に……それよりもレジィのことで相談があるんだけどさ? 神聖魔法が使える黒鉄か青銅等級の冒険者か修道士を一人、紹介してくれないかな? レジィの訓練に同行させたいんだよ」


 クリスタは不機嫌なまま応える。


「ええ、別に構わないけど……でも、銀等級以上じゃなくて良いの?」


 レジィのレベルに合わせるなら、銀等級の冒険者でも心もとなかった。


「いや、実力はそこそこで構わないんだ。レジィに守らせるつもりだからね?」


 カルマは意味ありげに笑うと、再びレジィの方を見る。


「なあ、レジィ……おまえには冒険者ギルドに入って貰うからな?」


 カルマが何をさせようとしているのか、レジィには理解できなかった。

 だから、理由を訊こうと口を開き掛けるが――


「――文句なんて言わせないからな?」


 漆黒の瞳に見据えられて――レジィは頷くしかなかった。


「おまえは他の冒険者と部隊チームを組んで暫く行動しろよ。戦い方や縛りとか、全部俺が決めた条件に従って貰う――それが、おまえの欠点を克服するための課題だ」


 レジィに拒否権などある筈がなかった。


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