第110話 三色のドレス


 ラグナバルに戻ったカルマたちは、翌日の夜、クリスタを呼んで夕食を共にすることにした。


 とりあえず獣人の件も片付いて、レジィが同行することも決まったので、お互いに現状確認と今後のことについて話をしようということになったのだ。


「だったら……せっかくだから、たまには店もどうかしら?」


 クリスタが勧めた店は――ラグナバルの中心街にある最高級レストランだった。

 当然ドレスコードはあったが、衣装はクリスタが用意すると言った。


「確かにね……これから自分を特別だと思っている奴らとの交渉事も増えるだろうから、あいつらも早めに慣れさせておいた方が良いな?」


「何なら、カミナギの服も私が用意するわよ? こう見えてもコーディネートには自信があるんだから!」


「いや、俺は自分で用意するからさ?」


 断られたクリスタは心底残念そうな顔をしていたが――


 予約した貴賓室に現われたカルマに、思わず目が釘付けになる。


 銀糸で襟飾りと縁取りを施した濃紺のジャケットに、白い太めのリボンタイ。髪を固めてオールバッグにした姿は――何処ぞの貴族の貴公子にしか見えなかった。

 勿論、魔力で外見を変化させただけなのだが。


「カミナギ……化けたわね……」


 そんな軽口を言いながらも――クリスタの頬はほんのりと赤く染まっている。


「何だよ、似合わないかな?」


 カルマが解っていながら惚けて言うと――


「そ、そんなことないわ! すごく格好良いわよ!」


 慌てて否定してから、クリスタは自分が何を言ったのかに気づいて真っ赤になる。


 彼女が纏うドレスは肩を露出させた鮮やかな青で、ぴったりとしたデザインはスレンダーなボディラインを強調していた。


「クリスタさんのドレスも、良く似合ってるよ」


 カルマは屈託のない笑みを浮かべる。


「あ、ありがとう……」


 恥ずかしそうに応えるクリスタは――最早限界だった。


「ほう……我が居ぬ間に勝手に盛り上がっているようだな?」


 次に現われたアクシアは、いつもとは全くイメージが違う純白のドレスを着ていた。

 白が清楚な印象を与えながらも、色艶の良い肌とのコンストラクトと攻撃的な胸元を強調するデザインが、魅惑的な雰囲気を醸し出している。


「カルマに褒められて舞い上がるのは解るが……なるほどのう。クリスタはこういう格好をした男が好みなのか?」


「な……何を言っているのよ! そんなんじゃないから!」


「まあ、そういうことにしておいてやろう……」


 アクシアは意地の悪い顔をするが――当の本人も、全く人のことなど言えなかった。


 今日の席でもカルマに加工して貰ったローブを着ると、アクシアはギリギリまで抵抗していたのたが。

 とりあえず試すだけ試してみろと言われて渋々着替えると――


「へえー、可愛いじゃないか?」


 カルマのその一言で、アッサリと籠絡ろうらくされていたのだ。


「何だよ……アクシア姐さんも『竜殺し』も楽しそうじゃねえか!」


 全く空気を読まない発言をしながら、最後にレジィが現れる。


「あんたらは、よくこんな格好で我慢できるな……特にこの踵の長い靴とか、バランスが悪くてたまらねえぜ!」


 不機嫌に顔をしかめるが――その表情と服装が全く合っていなかった。。


 レジィが着ているドレスは黒のゴスロリだった――彼女の銀色の髪と褐色の肌に不思議と似合っており、黙っていればエキゾチックな魅力に溢れている。


「ガロウナは慣れてないでしょうけど、このくらい我慢しなさい?」


 話題を変える絶好の機会だと、クリスタは素知らぬ顔で飛びついた。


「カミナギと同行するなら、何でもアリだと覚悟しておいた方が良いわよ」


 そう言って冷笑するクリスタに、レジィは舌打ちする。


「……そんなこたあ、てめえに言われなくても解っているぜ!」


 二人のやり取りを見る限りは、相変わらず打ち解けたという感じはなく、互いに譲れない一線を引いてはいたが――


「解っているのなら良いのよ。でも、絶対に忘れないでね」


 今でもクリスタは、レジィには色々と問題があると思っていたが――それでもカルマとアクシアが同行させると決めた理由は解っていた。


 血の衝動に駆られて時々見失しないそうになるが――レジィは自分の全てを賭けて、その先にあるモノを見据えている。


 そういうタイプをカルマが放って置けないことは何となく解るし、アクシアだって無下にはしないだろう。

 クリスタ自身にしたころで――仮にレジィが自分の部下や友人だったら、絶対に突き放したりはしないだろう。


 しかし、今の自分はレジィと直接関わってないのだ。

 だったら――レジィが上手くやれるように気づいたことを伝えるだけだと、クリスタはそう思っていた。


 そして、レジィも――


「ああ……忘れるかよ!」


 何だかんだと言いながら――クリスタの思惑には薄々気づいており、本心では一目置いているのだ。


「とりあえず……皆揃った訳だし。話は後にして、先にメシにしないか?」


 カルマは話を纏る感じで、悪戯っぽく笑った。


「クリスタさん? テーブルマナーとか作法とか、そういう五月蠅いことは言わないよな?」


「ええ勿論よ、細かいことは気にしないで。まずはお腹を一杯にしてから、ゆっくり話をしましょう!」


 ニッコリと笑ってクリスタは、三人をテーブルの方へいざなった。


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