第104話 ハイネル・ヴォルフガルド
黒竜独特の黒焔のブレスは『高温』という点では赤竜に劣るが、あらゆるモノを腐食させる魔法的特性を帯びてる。
それは純粋な魔法的存在や魔法そのものに対しても例外ではなく、相手の魔法や魔力そのものを侵食して無効化、或いは弱体化させる力を持っているのだ。
しかし――カルマにとっては、何の意味もない唯の『
「レジィがいなかったら、アクシアと戦ったときみたいに避けたんだけど。防御するだけじゃ、はっきり言って詰まらないんだよね?」
金色の
力場に色を付ける必要などなく、見えないと不便というだけなら半透明程度でも良かったのだが――慣れてしまえば派手なのも悪くないかと、最近ではすっかり金色で通していた。
「カルマ……そんな昔の話は止めてくれぬか? 我にとっては恥辱以外の何モノでもないわ!!!」
出会った瞬間にいきなりブレスを吐いて、カルマに良いように
「昔ねえ……まあ、良いけどね?」
まだひと月も経っていないだろうと突っ込を入れたかったが――面倒なことになりそうなので止めておく。
「あんたらさあ……この状況で、さすがにどうかと思うぜ?」
何処までも気楽な感じの二人の傍らで、レジィは顔を引きつらせる。
力場の外には黒竜が群がっていた。黒竜はそれぞれが七、八メートルの成竜クラスのサイズであり、中には十メートル近い者もいる。
至近距離から見る竜の迫力は半端ではなく、しかも力場で防御しているとは言っても実際に攻撃を受けているのだから、レジィの反応の方がまともだろう。
「まあ、このままだと時間を浪費するだけなのも事実だな? アクシアなら、こいつらを仕留めるくらい簡単だろうけどさ……今回こそ、話をするだけだからな?」
「ああ、カルマよ。勿論、解っておるわ!!!」
さも当然だという感じで、アクシアは自信たっぷりに笑うが――
(今のアクシアだと……あえて意図的に痛めつけるとか、やり兼ねないからな?)
この点に関しては余り信用できないからと、カルマは別のプランも用意しておく。
「ならばカルマよ……我を結界の外に出してくれぬか? 此奴らに立場というものを理解させるには、我が本来の姿に戻るのが一番早いと思うのだが?」
「まあ、そうだろうな。ここなら他に人目も無いし、別に問題ないだろう?」
カルマは力場を操作して、内側からの魔力を透過するように変質させる。
「おまえの魔力を通すようにしたから、今なら外に出られるよ。短距離転移くらい、自分で発動できるだろう?」
「ああ、ありがとう……それでは行ってくるから、服を預かってくれるか?」
そういうとアクシアは、豪快に
哺乳類ではあり得ないほど張りのある双丘や下半身を露にしても――アクシアは一切恥ずかしがる様子もなく、堂々と全裸を晒した。
「アクシア姐さん、あんた何を……」
レジィは顔を引きつらせるが――勿論アクシアは、そんなことなどお構いなしだった。
「レジィの小娘よ……これから我の本当の姿を見せてやろう!!!」
不適な笑みを浮かべると――アクシアは短距離転移を発動させる。
黒竜たちと城塞の間に転移すると――吹きつける風に、血のように赤く長い髪が後方に流れる。
黒竜たちはすぐに反応するが――アクシアの感覚では余りにも遅過ぎた。
「貴様らは全くなっておらんな!!! そんなことでは真の強敵が現れたら瞬殺されるぞ……ハイネルの小僧には、文句を言ってやらねばな!!!」
アクシアが嘲るように笑うと、その全身を赤い光が包み込み――光は一気に膨張した。
襲い掛かろうとしていた黒竜たちが、何事かと一瞬躊躇すると――
彼らの眼前に、強大な赤竜が姿を現した。
(ハイネル・ヴォルフガルドの眷属どもよ!!! 我は赤竜王アクシア・グランフォルンだ!!! 死にたくなければ、貴様ら雑兵は下がっておれ!!! 我はハイネルの小僧に用がある!!! )
威圧的な思念を浴びせられて、黒竜たちは動きを止めた。
大きく翼をはためかせて、ホバリングの要領でアクシアから一定の距離を置く。
(赤竜王陛下よ――我らが主にどのような用件があるのだ?)
体長が十メートル程もある最も大きな黒竜が、前に進み出て問い掛ける。
その黒竜は三百才を超える成竜だったが――体長二十メートルを超えるアクシアの前では、まるで子供のように見えた。
(確か貴様は……)
アクシアは言い掛けるが――名前が出てこなかった。
(……侍従長のオルベウス・ガッシェルだ!)
黒竜オルベウスは苦々しい顔をするが、アクシアは気にも止めなかった。
(おお、そうであったな……オルベウスよ、我はハイネルの版図に住む獣人どもを蹴散らすことにしたから、その断りを入れに来たのだ!!!)
(ヴォルフガルド陛下の版図には、確かに沢山の獣人が住んでいるが……いかに獣人風情だろうと、陛下の臣民を勝手に殺すなど許されぬ!)
(だから……断りを入れに来たといっておろうが!!!)
アクシアの思念が怒気を帯びる。
(本来であれば我が何をしようと、ハイネルの小僧などに文句など言わせぬところを……わざわざ此方から出向いてやったのだ!!! 貴様もつべこべ言わずに、さっさと通せ!!!)
赤竜王の迫力に――オルベウスは完全に気圧されていたが、他の黒竜たちの手前、簡単に引くことはできなかった。
(しかし……そうは言ってもだな……)
時間稼ぎをするように言葉を連ねるが――それがアクシアの怒りをさらに買った。
(ほう……つまり貴様は我に、通りたければ実力で通れと言っておるのだな?)
無慈悲な金色の双眼に見据えられて――オルベウスは言葉を失う。
(……もう良い、オルベウスよ! アクシア殿を私の元へ通せ!)
別の力強い思念が割って入る。
それが誰であるか――アクシアには一瞬で解った。
(ハイネルよ……おまえは初めから聞いておったのであろう? このような回りくどいやり方を我は好まぬ!!! 色々と言い聞かせてやるから、そこで待っておれ!!!)
アクシアは攻撃的な思念を送るが――返答はなかった。
「まあ、そのくらいにしておけよ? おまえも喧嘩を売りきた訳じゃないだろう?」
話が着いたことを察して、カルマはレジィを連れて転移してくる。
金色の力場は、少なくとも見た目では解除したように見えた。
アクシアのすぐ隣に浮かぶ二人の姿に、黒竜たちは攻撃すべきか迷っていたが――
(この二人は我の連れだ!!! だから無礼な真似をすればとうなるか……解っておろうな?)
アクシアにひと睨みされると、黒竜たちは完全に沈黙した。
(それでは……赤竜王陛下! 我らが主の元に案内しよう)
オルベウスの後に続いて、アクシアは城塞へと移動を始めた。
カルマも平然と付いていくが――
二十体を超える黒竜に囲まれているのも理由の一つだったが、一番大きな原因は――
(やべえ……俺は竜の女王様に喧嘩を売っちまったのかよ!)
宿屋でアクシアの襟首を掴もうとしたことを、レジィは死ぬほど後悔していた。
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