第64話 カルマとクリスタの結論
「終わったみたいだな......」
上空に浮かぶ
二人の主導者が瞬殺されたことで、獣人たちの戦意が失われたことは明らかだった。
あれほど激しく暴れていた彼らが今は一切の動きを止めて、沈黙したままこちらの様子を伺っている。
「キースさんとの約束は果たしたつもりだけど。こんな感じで良んだよな?」
確認するまでもなく――できるだけ獣人を殺さないで欲しいというキースの願いは、ほとんどパーフェクトに近い形で叶えられていた。
「そうね――まだ終わってないけど、その……ありがとう……」
俯き加減で頬を染めるクリスタに――カルマはしたり顔で応じる。
「だったらさ? もう一つ提案なんだけど――熊の方もクリスタさんが仕留めるってのはどうかな? 一応、そのために生かしておいたんだけど?」
カルマが指差すのに従って、クリスタは上空に浮かぶ金色の
下からでも、熊の獣人が床に倒れたままピクリとも動かないことが解った。
この瞬間、クリスタの表情が一変する。
「……この状況で、あえて私に止めを刺せって言っているのよね? カミナギの目に私という人間がどう映っているか理解できた気がするわ!」
アイスブルーの瞳が冷ややかに見つめる。
「いや……そういうつもりじゃないんだ」
カルマには珍しく言葉を濁した――本当は、もう少しマシな状態でクリスタに引き渡すつもりだったのだ。
ギラウが何の策もなしに正面から突っ込んで来るとは思わず、まともにカウンターを入れてしまった。勿論カルマは相当手加減をしたつもりだが――結果として自分がやり過ぎたことくらい自覚している。
「悪かったよ――俺が責任を以て処理しておくからさ?」
「それって……カミナギが殺すってことよね?」
身も蓋もない言葉に、カルマは苦笑する。
「まあ……そういうことだけど。奴らの牙を完全にへし折るには、殺す以外の選択肢なんてないだろう? それに生かしておいたら、ギラウは同じことを繰り返すと思うよ」
本当のことを言えば――カルマは
『霊獣憑き』には二種類のタイプがある。『霊獣』を支配した者と、支配された者だ――ギルニスは前者であり、ギラウは後者だ。支配した者なら力づくで従わせることも可能だが、支配された者は『霊獣』の本能による殺戮衝動から逃れることはできない。
「……そのくらい、私だって解っているわよ」
獣人たちの旗印である『霊獣憑き』を無残に殺すこと以上に、彼らの戦意を砕く方法はない。また、ギラウを生きて帰せば、さらなる復讐に燃えて人間を殺すことは容易に想像できる――
次にギラウが襲撃に出たとき、その場にクリスタが居合わせるとは限らないのだ。それなのに――殺さずに済むならその方が良いと一瞬でも考えた自分をクリスタは恥じた。
「だったら……やっぱりギラウを殺すのは私の役目よ。獣人が復讐する原因を作ったは|王国の貴族(わたしたち)だし。それを承知で、私は村の人の命を優先するって決めたんだから」
かつてクロムウェル王国の貴族が獣人たちを殺して土地を奪った。それが復讐の元凶であることを知りながら、クリスタは獣人を殺して村の住人を守るという選択をしたのだ。
極力殺さないなどというのは詭弁であり、数の問題ではない。獣人を殺すことを選んだ時点で、クリスタはその業を背負うと覚悟を決めたのだ――だから今さら、汚れ仕事を他人に押し付けるつもりはない。
「ああ、そうだね……」
揶揄するでも諭すのでもなく。カルマはクリスタの覚悟を素直に受け止める。
「だけどさ――俺も自分の責任で排除するって言ったんだから。最後まで責任を持つよ」
漆黒の瞳に正面から見つめられて――クリスタは躊躇する。
「カミナギ……本当にそれで良いの? 貴方は私と取引をしただけで、責任を取る理由なんてないじゃない?」
「クリスタさんは俺のことを見損なっていると思うよ?」
クリスタを正面から見て、カルマは強かに笑った。
「俺はクリスタさんよりもずっと多くの人を殺してきた。だからと言って、殺すことに慣れたなんて思わない――
いつだって他にもっと良い方法がないか探しながら、結果として殺すという選択をしてきた。
その選択が正しいかったかは今でも解らないけどさ。結局は自分にやれることをやって、その結果を受け止めるしかないって俺は思うよ」
「……そうかも知れないわね……」
喜びとか悲しみとか悔しさとか……その他諸々の感情をごちゃ混ぜにして、クリスタは微笑んだ。
「……解ったわ。カミナギに任せる……だけど、今回のことは私の選択でもあることは覚えておいてね」
言葉だけが毅然とした感じで周囲の空間に響く――そんなクリスタの思いをカルマは理解していた。
「了解。それじゃ、終わりにするよ――」
カルマは上空に浮かぶ金色の
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