エスパー問答

シゲ

エスパー問答

今日はいつもより少し肌寒い。部室の窓には凝結した水蒸気により曇りが薄く広がり、天井の電球と共にボードゲームをしている俺と目の前のエスパ-の影をぼんやりと反射している。ハルヒは朝比奈さんを連れ回して例の如く何かをしでかそうとしているようで部室にはまだ来る気配はない。それよりも珍しい事に、窓のそばの定位置にあるパイプ椅子には長門の姿がみえない。

ただでさえ放課後の薄ら寒い部屋に、野郎二人だけでは何とも寂しいものだ。

――

「あなたは普通の人間ではありますが、それは一般的かつ平々凡々とした人間と言う意味とは異なります」

そんな事を口走る古泉。

「お前らが散々調べつくしてノーマルパーソンという結果が出たんじゃなかったか」

どの様にして調査したか大して興味はないが個人情報のへったくれもありゃしない。

――

「今では同じ部の団員として共に日々過ごしてはいますが、それはあくまでSOS団の仲間としてなのです。というのも、涼宮さんにとって僕は謎の転校生かつSOS団副団長という存在でありそれ以上でもそれ以下でもないからです。もっとも今では転校生という属性すら消えていそうですがね。涼宮さんが自身のパートナーとして選んだのはあなたです。団員その1である以上に、おそらく無意識ではありますが、彼女はあなたを彼女にとって特別な存在として認めているのです」


「こうして与えられた能力でこの世のほんの一握りの人間でさえ体験しえない非日常を過ごせるだけでも実に役得です。これ以上願っては、いささか罰当たりでしょう。

僕には物語の主人公は務まりませんよ」


昼夜問わずあんな無味乾燥な灰色空間で飛び回る仕事は傍から見たら立派な罰だ。報酬のない24時間営業のサービスなんざどこぞの悪徳企業と大差ない。俺は単なる使いっ走りの平団員であって何か特殊な力があるわけでもなし、危機的な状況に瀕したときに一番迷惑を被るのは主に俺と朝比奈さんだ。情報の制限された未来人は普通の人間と同じだからな。禁則事項の鎖に縛られている彼女は場合によっては俺以上にか弱いお方だ。

「そういう意味での普通ではないのですがね」

フッと息を漏らしながら笑う古泉。

「僕もあなたのように絶対神たる存在の横で共に歩くような仕事に憧れがないかと言えば嘘になりますが、如何せんとても荷が重い。それはやはりあなたの役割だと言えるでしょう」

お前たちの所は相変わらずハルヒを神だと考えているのか。

「我々はなにも盲目的に彼女を信奉しているわけではありません。恐れ多くも多感な時期の繊細な女神の機嫌を損なわないように祈っているというわけです。古の時代から日本人が神々を恐れると同時に崇め奉っていたのと同じ事ですよ」

神だ何だという話や古泉のうさん臭い営業スマイルも相まってますます新手の宗教勧誘の様になってきた。

「何が女神だ。あいつの横暴な要求を聞いていたらそんなことが言えるか」

岩の中に隠れるような性格だったらどれほど楽だっただろう。むしろスサノオかシヴァだ。破壊神や疫病神の類だぞ。

「おや、本当にそうお思いですか?確かに多少強引な所は見受けられますが、涼宮さんが他者を害することは決してないでしょう」

そう言いながら可笑しそうにこちらを凝視してくる。

そんなことはお前に言われんでも分かり切ってる。どれだけ馬鹿なことをしても人を傷つけることはしないやつだ。

「そんな怖い顔をしないでください。そうでしょう、あなたはそこを見誤るような方ではないですからね。涼宮さんの一番の理解者はあなたです。あくまで神というのは便宜上、我々非力な人類では到底及ぶことのできない奇跡をいとも簡単に起こせる、そんな万物を超越した存在を呼ぶ呼称です。人間が定義づけした名前であり何も僕は、涼宮さんが神話に登場するような神々と同列だとは思っていません」

――

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エスパー問答 シゲ @Shige-Nagato

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