失踪

9歳の正月に父親が帰らぬ人となった。


色々と噂はあったが

最期のことはいまだ定かでない。


村の大切な祭事のことで

山頂にある神社へ向かったきりなのだ。


父は優しく穏やかな人で

まだ流暢でない私の話すことを

よく聞いてくれた。


私の理想の人間像だった。


幼い私は漠然と父の背を見て育てば

立派な人間になれるのだと油断していた。


その父を失った時の私の狼狽ぶりは

余程のことだったのだろう。


近隣の縁者が入れ代わり立ち代わり

慰めに来てくれた。


有り難いことなのだが

その誰もが父の代役など務まるはずもない。

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