第81話 仮面のヒーロー
「くけっ!」
ストーナンの口から、鶏が鳴くような声が洩れた。
両手で自身の喉を押さえた青年は、顔色がみるみる青ざめていく。
指がひき金に触れたのだろう、銃から発射された電極が天井に突きささった。
完全に【魅了】が解けたケイトが、倒れている堀田に駆けよる。
「あんた、しっかりしなさい!」
友人の肩に刺さった電極を見て、弾丸式の銃でなかったことに安心したケイトは、手錠をはめられた不自由な手で友人をそっと床に横たえた。
儀式台の上に横たわる少年にかがみこむと、黒いビロード越しにその胸に耳を当てた。
「よかった! 苦無君、苦無君!」
少年は無事だが、すぐに目を覚ましそうにない。
彼女は床でのたうっているストーナン氏のローブを探り、従魔トムが入れられたペットボトルを手にした。
「トム! 大丈夫?」
ペットボトルの中で、蜘蛛が二本の前足を挙げる。
どうやら小さな友人も無事のようだ。
「だけど、どうしよう!」
床に横たわったストーナンは、ピクリともせず白目をむき気を失っている。
ただ、意識のない苦無と堀田の二人を、自分一人で運べるとは思えなかった。
「お嬢さん、お困りですかな?」
背後から声を掛けられ、ぱっと後ろを振りかえったケイトが目にしたのは、プラスチックの仮面をかぶった三人だった。
なぜかおそろいの黒いジャージを着た彼らは、頭にフードをかぶっており性別は分からなかった。
ただ、今しがた声を掛けてきた人物は、声からして中年の男性らしかった。
「あ、あなたは?」
「説明は後で、今は二人のことを」
宇宙ヒーローの仮面をつけた小柄な男性は、ケイトの問いにそう答えると、横たわる苦無少年にかけられていた黒いビロードの布を取った。
「きゃっ!」
ケイトが悲鳴を上げたのは、苦無の全裸を目にしたからだ。
小柄な宇宙ヒーローがその苦無を軽々と背負った。
昆虫ヒーローの仮面を着けた人物が、背負われた少年に黒いビロードを掛ける。
魔法少女の仮面を着けた人物は、気を失って横たわり口から黒い毛を吐きだしたストーナン青年の股間をゲシゲシ蹴っていた。
ケイトは昆虫ヒーローの助けを借り、堀田を背負う。
気を失った二人とケイト、仮面の三人は、ストーナン邸を後にした。
◇
ストーナン邸の前、路上に停めてあった白いワゴンに乗りこんだ五人は、病院へ向かっていた。
その車内で、仮面の三人がケイトに自己紹介をした。仮面は、ストーナン邸を出る前に外していたのだが。
宇宙ヒーローは、なんとなく見覚えのある中年の男性だった。
「始めまして。苦無の父です」
「えっ! く、苦無君のお父様!?」
昆虫ヒーローの仮面をかぶっていたのは、三十くらいに見える女性だったが、京人形を思わせる美人だった。
「あなたがケイトさんね。話は苦無からよく聞いているわ。あら、紹介がまだだったかしら? 苦無の母です。聖子って呼んでね」
「お母様!?」
魔法少女の仮面をかぶっていたのは、高校生くらいの美少女だった。
「ハロー、ケイトちゃん。私はひかる、苦無の姉よ。弟を守ってくれてありがとう」
「い、いえ、私はなにも……」
「謙遜しちゃってー。おダンゴちゃんとケイトちゃんが時間稼ぎしてくれてなかったら、私たち間にあわなかったから。
ホントありがとうね」
ケイトの隣に座ったひかるが、彼女に抱きつく。
「あ、あの、どうして私たちがあそこにいることを?」
「あー、それ? リンコさんが教えてくれたんだ」
「リンコって、ぴょんちゃんのお姉さんの凛子さんですか?」
「ぴょんちゃん? かわいー! へえ、おだんごちゃんって、ぴょんちゃんって呼ばれてるんだ! あ、うん、そうだよ、その凛子さん」
「あ、病院、通りすぎましたけど……」
「安心して。懇意にしている病院があるの」
ひろしが運転する車は、下町へ続く路地に入っていった。
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