第3話 厄介な依頼・1

正体不明の声「もしもし、そちらにチャル・クランティックさんはいらっしゃいますか?あぁ、そうですかわかりました。あ、いえ、その必要はないです。ありがとうございました。失礼いたします。」(ガチャン)



部屋に入ると、ジャンジャからもらった本が青く光り輝いていたのだ。

「うわっ、まぶしっ。」

あまりのまぶしさに動揺してしまい、どうしていいのかわからなかったがとりあえず光がばれないように部屋のドアを閉めた。

「くそっ、あのおやじなんてものをくれたんだ。

しばらくすると徐々に光は弱まり、もらった時と同じ汚い本へと戻った。

もらってからまだ本を開いてなかったので、とりあえず開いてみることにした。

「んーなんだこの文字、まったく読めない。」

地上に人間が住めなくなってからまだ500年しか経ってないが、それにしても古い本だ。最初のページには文字がびっしり書いてあるが内容はさっぱりだ。

その後もいろいろなページを開いてみたが本に変化がないので今日は寝ることにした。


次の日の朝。


下の階へ降りるとすでにラインは朝食をとっていた。

「おはようチャル。僕今日あんまり時間がないから、おつかいをしてほしい。朝食が済んだら大通りを6ブロック降りたところにある、パープラティッカという本屋で、『工学大全』という本を買ってきてくれ。」

空中都市は巨大な蒸気エンジンを動力源としていて、それを機械に伝えることで動力を生み出している。都市のコアは各都市の中核に厳重に管理されている。

「ティナさんじゃなくて私ですか?」

「あぁ、ティナには別の仕事があるから、とにかく頼んだ。そろそろ電車の時間だから家を出るね。そのあとのことは多分わかるからよろしく。」

忙しそうに朝食を済ますと、ラインは風のように家を出て行った。

それにしても後のことはわかるってなに?雑じゃない?

心残りのある会話だったが、しょうがないのでご飯を食べることにした。


朝食を済ますと言われた通りパープラティッカという本屋に向かった。

店は他の大通りの店の景観をぶち壊すようなまがまがしい外装で、入るとところ狭しと本が山積みにされていた。

「いらっしゃい。」

ん?声が聞こえる。でもどこからかわからない。

「上じゃよ、上、上」

見上げると、汚い格好をした老人が高く積み上げられた古本の上を行ったり来たりしていた。

「お前さん。ラインのとこの子か、気ぃつけなよ、ラインは変わったやつだからな。それよりこの本だろほれ。」

そういうと老人は上から分厚い本を落とした。

ドサッ

大きな本なので、結構重い。

『魔道工学』確かにこの本だ。しかしどうして。私のことも知っているようだし。

「随分と小さいな、いくつだい。」

「16です」

「本当に16か?ん?お前さん、なにか変わったことがなかったかい?何か匂うな。」

「実は、昨日おかしなことがあったんです。」

「そうか、ラインのおつかいを終わらせたら話を聞かせてもらおうか。金はもう受け取ってある。さあ、いきな。」

「わかりました。ありがとうございました。」

礼を言い、店を出た。

しかしこの先どうすればよいのだろうか...

ヒントになるようなことも聞けなかったので、とりあえず一度家に帰って昨日の汚い本を取りに行こう。

歩き出した時、本から1枚のメモ用紙がでてきた。

『この本と昨日君がもらい受けた本をギルドマスターに見せてくれ。 L・F』

どうやらラインからの指示だ。でもなんで口頭で伝えなかったのか...めんどくさいことしなくたっていいじゃないか。

とにかく、おつかいを済ましてさっきの店に戻らなくちゃ。


家を通り過ぎてギルドについた。昨日の夕方とは違い、ギルドの中はガラガラだった。ギルド内のマップを見ると、ギルドマスターの部屋はギルドの3階奥の部屋だった。どうしてお偉いさんの部屋ってどこにいっても一番奥にあるだろう。行くのめんどくさいな...

愚痴を頭に巡らしながら受付に要件を伝えた。

すると、「現在マスターは不在でございます。申し訳ございません。」と事務的な反応が返ってきた。

「えぇっ。どこにいるんですか?」

「それが、秘書の方しかわからないのです。ですが秘書も席を外しておりますので、現在どちらにいらっしゃるのかわかりかねます。申し訳ございません。」

なんと、なんと、せっかくここまで来たのにわかる人がいない。こんなことあるっていいのだろうか。

ショックを受けていると、ある一つのことに気が付いた。

「あなた、秘書なんじゃないですか?昨日ここにいた受付員はそんな立派なバッジつけてなかってですよ。そのうえ、一見見た目は受付員の制服を纏っていますが、使っている道具はなかなかいいものを使ってますね。」

「...は~。さすがチャルさんですね~鋭い観察眼です。私の負けでございます。」

負けって、勝負をしていたつもりはこれっぽっちもなかったのに。

「私はバンバルディアギルドマスターの秘書のナーナ・クレイアットです。

今回の件、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。これも仕事なのです。そろそろマスターがお帰りになられるので、もうしばらくお待ちください。」

「あの、どういうことですか?」

「それは後程詳しくお話いたします。」

いったいどういうことなのか...

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