ショートショートの段ボール箱

須藤二村

26.ホンマにあった怖い噺



いやー、夜にタクシー運転しとったら、やっぱり変わったお客さん乗せることがあるんすわ。こないだも深夜ひと気のない道でえ、女の人がこう手を上げて立っとるんすわ。

ほんで俺うわってなってもうて、そんでもしゃーないからキイー止めてガァー行ったんすわ。


——いや、なにを言ってるのか全然。


髪の長い女の人やったんですけど、どこ行きます? 聞いて、まあ駅や言うことでぶわー行きまして。


——ははあ、乗せられたわけですね。


ほんで、しばらく走っとったら突然……

バンッ! て音がしたんで、ビックーなって後ろ振り向いたんすわ。

ほしたら、女がおらんなっとって座ってたシートがグッショグショに濡れとるわけですよ。


——うわー、怖いですね!


無賃乗車ですわー、ションベン漏らしてドアから飛び出して逃げよったんすわ。

うわぁーまたや! いうて引き返したんですけど


——え、またや?


この時期は飲み会多いやないですか?

あるんすわ、こういうの。あいつらションベン漏らしたらシャッと飛び出して逃げよんねん。


——蝉かな?


逃すかボケー言うて、ガー戻ってぶわー行ったら、なんと! 白い服の女が道の傍におったんすわ。

そいつの前いってね、こう顔の前で指さして、ビシー言うたったんです。お前なんしとんねんと、人としてやったらあかんことと、したらあかんことの区別くらいつくやろと。


——やったらあかんことしかない。


ほしたら、その女、目ぇ回して倒らはったんすわ。


——今度はトンボだ。絶対トンボ。


うわ、どないしよーなって。とりあえず車乗せな思て持ち上げたんですけど。もう、力が抜け切ってぐにゃーなっとるもんやから、重おて重おて。


——警察に突き出したんですか?


家に持って帰って飾っとるんすわ。白い女ばっかり五体目。


——やっぱり蝉だった。蝉の抜け殻コレクション。小学生か!



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