18.北斗の弁志郎

 屈強な出立ちをしたモヒカンの男たちが、めいめいに火炎放射器や釘バットを手に老人を蹴り倒していた。


「ヒャッハハーーーーッ!! オラァ! 食いもんをよこしな! ゴミめがー!」


「ひっ、ひいぃ! お助けを! それを持っていかれると、ワシらは飢え死にしてしまいます」


「駄目だぁ〜! 汚物は消毒だぁーー!!」


 モヒカンは火炎放射器のスロットルを噴かせて、マズルから発射された火柱が無慈悲にも老人に襲いかかる。


「待て!」


 その静止は黒い革ジャンの男から発せられていた。一同は穀物倉庫の薄暗い陰から現れた一人の男の姿に注目する。

 窓からの明かりが、ゆっくりと歩いて近づいてくる男の胸もとに差し込み、垣間見える分厚い胸筋と極限まで張りつめた腕の筋肉が見てとれた。ただ者ならぬ気配が漂いまくっている。

 突然の、思いもよらぬ部外者からの横やりに鼻白むモヒカンたち。


「なんだぁ? おめえは!」


「俺の名は弁志郎……。コンプライアンス的にお前たちを成敗する」

 革ジャンの男は、弁士郎と名乗った。


「なんだとぅ? おめぇよっぽど死にてぇみてぇだな」


「ほう? 俺を……殺そうと言うのか」


「ヒャッハハハ! だったらなんだって言うんだぁ! 死にたくなけりゃ今すぐ土下座して俺の靴を舐めれば勘弁してやってもいいぜぇ! なぁー?」


 モヒカンたちは下卑た笑い声で、目の前にいる革ジャンの男に罵声を浴びせた。


 すると弁志郎は落ち着いた動作で革ジャンを脱ぎ捨て、両手の拳を握り込み関節を鳴らしながら言った。


「お前たちは、殺すぞなどと言って被害者を脅迫したな……。脅迫罪だ」

「お、おう……」

「そして、土下座の強要……。これは強要罪にあたる」

「そ、そうなのか……」


「そして……、火炎放射器などの凶器を準備して集合し、他人の財産を奪う目的で殺人未遂、ならびに放火の疑い」


 弁志郎は目にも止まらぬ速度で電卓を取り出して叫んだ!

「ホアチャァーーーッ! チャッチャッチャッチャッ、チャーッ!」

 チャーのところで電卓のエンターキーを激しく叩きつけた。

「刑法108条、観念的競合の罪を突いた……。懲役150年。貴様は……(出所する頃には)すでに死んでいる」


「うっぎゃぁぁ! ゆるしてくれぇぇぇ! ムショはいやだァァァ!」

 モヒカンたちは地面に倒れ込んで命乞いを始めた。


「フッ……、地獄で裁判長にでも言うんだな」



「あっ……ああぁぁぁーー。あっ、ありがとうございます。これでわしらは……うぐっ」

 老人は涙を流しながら弁志郎の元へ這いずって礼を述べた。弁志郎は、その両肩を優しく掴んで答えた。

「もう心配するな。弁護料は50万円だ……。あっ、何をする暴力はやめろ」



つづく

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