第26話:こうの行方


「こうはまだ見つかりませんか…。」


 大和田さんは頭を横に振る。隣には若い警察官が黙って立っている。


「何か事件とか事故に巻き込まれたとか…。」


「それらしい報告は入っていません。横山さん、何か思い当たる場所はありませんか?好きなものとか。」


「こうが好きなものは音楽と星です。きらきら星が好きでした。」


「それだとな…。音楽がある所でコンサートホールの辺りを探させましたが見つかりませんでしたし、星ということでプラネタリウムの辺りも散策しました。」


「こうは多分プラネタリウムもコンサートホールも知らないはずです。だって私の所に来るまでは家からほぼ出たことも無かったみたいですから。」


「なら完全に思い当たる節はないのですか…。」


「一応施設に行く時にICカードを渡したまま行かせたのでそこに数千円は入ってます。」


「それなら新宿は探しましたか?ここからなら片道1000円いかないので行ってる可能性はありますよね。」と響が言う。


「新宿となると親といたマンションですか?」


「はい。」


「歌舞伎町のあたりをそんな子供が歩いていたら補導していますよ。」


「そうですよね。」


 彼の生活圏は新宿と私と行った所だけだ…。


「私と行った所…?」


「詩?もしかして…。」


「松本だよ。」


「松本って長野県の?いやいやありえない。まだ5歳ぐらいの子供ですよ?」


「でもそれしかありえないです。」


「長野県警に連絡は?」


「してないですよ。普通に考えて東京から5歳前後の男の子が松本市に1人で行っているかもしれません、なんて誰が信じると。」


「詩、大和田さんの言う通りだ。松本までの交通費なんてこう君は持っていないだろう?」


「そうだけど…。」




「待って。こちら大和田。それらしき少年が新宿駅を使った形跡?分かった。」


「新宿駅を使った形跡ですか。こうはどこに行ったのですか?」


「横山さん落ち着いてください。」


「松本もありえるよ。新宿から大月、大月から甲府、甲府から松本…。」


「新宿に行って再入場した後に中央線に乗った。大月行きで大月に降りたのなら山梨県警の管轄。警視庁じゃ見つからないわけだ。」と響が鋭い目付きで2人の警官を見る。


「さっきから聞いてたら…こちらだって探してるんですよ!5歳前後の男の子が施設から抜け出して失踪して捜索願出てるわけですし!」と若い警官が強い口調で突っかかってくる。響が口を開こうとした瞬間―――


「小宮、山梨県警と長野県警に連絡してくれ。もしかしたら本当に…。」と考え込んでいた大和田さんが口を開いた。


「分かりました。」と小宮と呼ばれた若い警官は苦い顔をしながら奥の部屋に行った。


「私実家に連絡しておく。」


「いや、詩のお母さんがまた大変だろ。施設に渡した後までこう君に関わっていたのが知られたらまた何を言われるか分からないぞ。」


「確かに…。お母さん本当はこうが施設に入って安心したって言ってたもん。」


 お母さんはこうが施設に行った事を聞くと良かったと喜び、可哀想だけどあなたも良かったわねとお父さんと私に言っていた。


「警察が後は調べる。だけどここで静かに待っているのも詩は嫌でしょ。」


「うん。」


「帰ろう。松本でもこう君が行く場所なんてたかが知れてるだろ。」


「実家に行ってたら連絡が来る。松本で行きそうなのは…松本城と縄手通り。」


「縄手通り?四柱神社でも行ったの?」


「ううん。縄手通りって美味しいたい焼き屋があるでしょ?そこでたい焼き買って食べたの。あとこうに和柄のハンカチを買った。」


「分かった。とりあえず帰ろう。」


「うん。大和田さん、私達は私達で探してみます。なので見つけたら連絡します。」


「分かりました。気をつけて。」


 こう、本当に1人でどこに行っちゃったの?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る