63.マチ(5)
目の前には信じられない光景が広がっていた。
両腕を広げたリゲルに向かって、倉庫の外から無人戦車と戦闘用ロボットがいくつも集まってくる。
それを片っ端から吸収しているのだった。
邪悪な赤い光がリゲルの全身を包み、髪の毛が逆立つ。
「なんか、ヤバイ雰囲気……」
マチは呟いた後、一瞬、天井に目を移した。
倉庫の天井裏の作業用の足場に、加賀瑞樹が目立たないような位置で待機している姿が確認できた。
「待たせたな」
赤い光を放つリゲルには、先ほどまでとは別人ような迫力があった。
「これが、このあいだ、炎の男と戦った時の俺だ。アイツは3分もったが、さて、お前は何秒かな?」
マチは身の危険を感じ、一度、アビリティで生み出した剣を消した。その分、全身を包むオーラを厚くして、防御力を高める。
一瞬だった。
距離を詰めたリゲルが目の前にいた。
腹部を右手の拳で殴られ、吹き飛ばされたかと思うと、その途中で背後から蹴りを入れられ、逆方向に跳ね返された。
倉庫入口付近の床に落下したマチは転がった。
追い打ちをかけるように、リゲルの右手から巨大なレーザービームが発射される。
寸前のところでマチは瞬間移動し、赤い光線を回避した。
そのビームは倉庫の向かい側にある建物の壁にぶつかり、そこに大きな穴を開けた。
「当たったら即死レベルじゃん」
あまりの威力にマチは驚愕した。
左手でお腹を押さえながら、体勢を整える。
オーラで防御力を上げていたとは言え、殴られた腹部と蹴られた背中に相当なダメージがあった。
だが、リゲルと自分の位置関係は、計算通りになった。
リゲルが数歩近づいてくれば、天井裏に隠れている加賀瑞樹の真下の位置になる。
―――瑞樹の真下に来たら、動きを止める!
「30秒は生き残ったね」
赤い光をまとったリゲルが、一歩ずつ近づいてくる。
「さて、次は―――」
マチは両腕を広げ、抱きかかえるような形で輪を作った
「止まれぇ!」
叫ぶと同時にマチはリゲルの目の前に瞬間移動した
なんと、リゲルの両腕の上から固く抱きしめた状態だった。
「なっ!?」
突然マチに抱きしめられていたリゲルは、予想外の状態を理解できず、一瞬だけ隙が生まれる。
その時だった。
「レオズシクル!」
リゲルの頭上の死角から、漆黒の大鎌が一閃した。
マチの着ていた軍服がコンクリートのように、ビクともしなくなる。
「……なんだ、これは……?」
自分の身に何か起きたのかわからず、リゲルがうめいた。
マチの予想通り、機械と生物の融合体であるリゲルの身体は、加賀瑞樹の『静止のアビリティ』の能力で動きを止めることができた。効果は抜群だった。
「マチだけ、解除するよ」
大鎌を消した加賀瑞樹が心配そうな顔で言った。
加賀瑞樹がマチの肩に触れると、全く動かなかった軍服が魔法のように元に戻った。
「ありがとう」
マチはお礼言うと、すぐにリゲルをにらんだ。
「瑞樹、ここから離れて。とどめをさすから」
十分な距離を取ったマチは太もものホルダーからグラビティガンを取り出した。
リゲルに狙いを定めて、引き金に指をかける。
「瑞樹のアビリティは、無生物の動きを静止させる。半分、機械でできているアンタの動きもね」
引き金を引いた。
弾丸がリゲルの胴体に直撃すると、着弾した箇所を中心に直径1メートル弱の暗黒の球が生まれ、それが一点に収縮していく。
黒い球が存在した空間には、ぽっかりと何もなくなっていた。
虫に食われた葉っぱのように大きな穴のあいたリゲルの身体は、肩より上と、ひざより下の2つに分断されていた。
「バカな……」
悲痛な表情のリゲルに、2発目の弾丸が当たり、肩より上の部分も黒い球に飲み込まれる。
3発目の弾丸は残った足に当たり、リゲルの全てを消滅させた。
倉庫の中は、何事もなかったかのように静かになった。
「すごい、威力……」
マチが、手に持っているグラビティガンをまじまじと見つめた。
「3発でエージェントを消滅させちゃった」
「マチ、やったね!」
安心した表情の加賀瑞樹が声をかけた。
「うん、瑞樹のおかげだよ」
安堵したマチは、自然と笑顔になった。
「一時は、どうなることか思ったけど―――」
その瞬間だった。
グサっ。
マチは視線を下に向けると、自分の腹部から赤黒い光の刃が生えていた。
背中から刃が貫通していたのだった。
「ぐぅっ」
とっさにアビリティを使い、加賀瑞樹の脇に瞬間移動し、振り向きざまにグラビティガンを撃った。
弾丸は狙いからそれて、倉庫の壁面に円形の穴を開けた。
狙ったところには、消滅させたはずのリゲルが五体満足の状態で立っていた。
右腕の赤黒い刃から、マチの血がしたたり落ちる。
「マチ!?」
加賀瑞樹が真っ青な顔で名前を呼んだ。
マチの腹部からは大量の血があふれて出ている。
握っていたグラビティガンが、力なく地面に落ちた。
「血が、血が止まらないよ……」
穴の開いた部分を手で押さえながら、痛みと不安に顔がゆがめた。
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