54.砂浜の戦い(5)
「
加賀瑞樹は渾身のジャンプサーブを打った。
マッチポイントを迎えており、これが決まれば加賀・小泉ペアの勝利だ。
無数の漆黒の球体が放出され、一斉にネットの向こう側を目指す。
「山田さん、やっと対抗策が思いつきました!」
マチが嬉しそうに言った。
「マチ、ナイス! 一矢は報いたかったんだよね」
山田がふっと笑う。
「一矢じゃなくて、ウチは、まだ勝つつもりっすよ」
マチも笑った。
「で、何をする?」
「コート全体にダイヤモンドダストをお願いします!」
「……なるほどね。それなら、可能性はある、か」
山田はアビリティを発動させ、全身に水色のオーラをまとった。
「
空に向けて両手を掲げる。
手のひらの上に自身の身長と同じくらいの大きさの氷の塊が現れた。
「ダイヤモンド・ダスト!」
その瞬間、大きな氷塊が粉々に砕け散り、ダイヤモンドのようにきらめく小さな氷のかけらがコート上の空間をおおった。
そこへ多数の黒く光る球体が突っ込んでくる。
黒の球体が通過した部分だけ、浮遊していた氷の粒がぴたっと動きを止めた。
だが、1個の球体だけは自ら静止させた氷の粒に次々とぶつかり、威力を失って、ふらふらと落下してきた。
「見つけた!」
マチが瞬間移動で落ちてきた本物のボールの位置に移動すると、レシーブを成功させた。
「ここまではいい。で、次はどうする?」
アンダートスを上げながら山田が尋ねた。
「ウチに任せて!」
マチは、一度サイドラインの外側に出ると、そこからボール向かって走った。全身を橙色に輝かせながら跳び上がると、あらぬ方向にスパイクを打った。
なんと、ネットと水平方向―――つまり、サイドラインの外側に向けて打ち込んだのだ。
「そうはさせるか!
マチの動きを見ていた加賀瑞樹は、地面に両手をつき、コートの表面全体を黒い三角形でおおった。
「転送!」
マチの声が響いた。
次の瞬間、バチっというボールが何かにぶつかる音がした。
直後、小泉玲奈の「きゃあ」という可愛らしい声が上がる。
すとっ。
見ると、加賀・小泉ペア側のコートの外にボールが落ちていた。
どうやら、瞬間移動してきたボールが小泉玲奈の身体に当たって跳ね返り、サイドラインの外側に落下したようだった。
山田・田町ペアの得点が入る笛の音が鳴った。
「よっしゃあー!」
ため込んでいたうっぷんを一気に吐き出すように、山田とマチが叫びながらガッツポーズをした。
そして、「いぇーい」とハイタッチをする。
点数は20対2。
加賀・小泉ペアの圧倒的な優位は変わらない。
しかし、お通夜のようだった会場の雰囲気は一変した。
敗退した極東軍の兵士たちの応援が一気に勢いづく。
「勝てる。これなら勝てるぞ!」
珍しく山田が興奮気味に言った。
「もちろん勝てます!」
マチは最高の笑顔を山田に送った。
「だって、ウチら天才ですから!」
次は山田のサーブだ。
鳴りやまない山田コールの中、ボールにアビリティを込める。
そして、ゆっくりと高くサーブトスを上げた。
「絶対に、勝つ!」
気合をみなぎらせた山田がジャンプサーブがさく裂した。
ボールを包むオーラが水色に光輝く龍となり、加賀・小泉ペアのコートに向けて突進していく。
「これは……?」
着地した山田が自身の放った龍に驚く。
「いっけぇー!」
マチが頭上を通る水色の龍に声援を送る。
一方、龍を迎え撃つ加賀瑞樹は、すぐさまアビリティを発動させた。
「レオズシクル!」
漆黒の大鎌を生み出し、両手に握った。
そして、走りながら高く跳び、ネットの真上に来た龍に対して、大鎌を振り下ろした。
鎌の黒い刃と、水色の龍の牙が、激しく衝突する。
「瑞樹! 頑張って!」
小泉玲奈の声が加賀瑞樹の背中を押した。
「うおぉー!」
加賀瑞樹が両腕を振り切った。
斬られた龍が粉々に砕けると、中からボールが現れ、その位置に静止する。
加賀瑞樹が砂浜に着地するのと同時に、宙に浮いていたボールが落下し、ネットの上端に乗った。
そして、そこから転がると、ぽとりと落ちた。
ネットより山田・田町ペア側の砂の上だった。
ピー。
笛の音が試合終了を告げた。
「やったぁ!」
喜びのあまり小泉玲奈が加賀瑞樹に抱きついた。
「……玲奈、ちょっと恥ずかしいよ」
加賀瑞樹の心臓は大きく震えた。
我に返った小泉玲奈が赤面しながら抱きしめていた腕を離す。
「……ご、ごめん」
視線をそらしながら、恥ずかしそうに謝った。
「決勝進出、おめでとう!」
コートの外から走ってきた伊達裕之が祝福してくれた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、すごかったよ!」
一緒に駆け寄ってきた木村小春が両手で握手しながら言った。
「ありがとうございます!」
加賀瑞樹と小泉玲奈は感謝の言葉を述べた。
そして、隣のコートで試合の準備を始めている山下拓と佐々木優理に目をやった。
「次は、拓さんと優理さんの準決勝ですね」
対戦相手は予想通り、金城龍・加賀菜月ペア。
加賀瑞樹の心中は穏やかではなかった。
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