53.砂浜の戦い(4)
白い砂浜に夏の太陽が照りつける。
極東軍神奈川支部主催のビーチバレー大会の準決勝、加賀・小泉ペアと山田・田町ペアの試合が始まった。
小泉玲奈は助走をつけて跳び上がるとジャンプサーブを打った。
しかし、ネットを越えたボールを山田が楽々とレシーブする。
続いてマチが、ダブルコンタクトの反則を取られないように指先をキッチリ揃えてオーバーハンドトスを上げた。
ビーチバレーでは、室内のバレーボールに比べてオーバーハンドトスでのダブルコンタクトが厳しくジャッジされるのだ。
「山田さん!」
走ってきた山田がアビリティを発動させてスパイクの体勢に入る。
ジャンプした山田は高い打点からボールを打ち下ろした。
水色のオーラで輝くボールが地面に向けて急降下する。
「瑞樹!」
小泉玲奈の声が上がる。
「
アビリティ発動状態だった加賀瑞樹は、右の手のひらから漆黒のオーラを放ち、ボールの真下に黒い光でできた三角形の板を作った。
ボールは三角形の板に触れた瞬間、表面にくっつくように停止した。
加賀瑞樹は、その空中に静止しているボールにゆっくりと近づくと、拾い上げるように丁寧にレシーブした。
それを、小泉玲奈がアンダートスでネット際に高くボールを上げた。
ジャンプした加賀瑞樹は右の手のひらにオーラを集中し、スパイクのタイミングで、そのオーラをボールに移した。
闇をまとったボールが山田の正面に飛んでいく。
山田がレシーブをした直後、加賀瑞樹は強く念じながら呟いた。
「止まれ」
「くっ、これは……」
苦い顔をする山田の目の前の空間で、ボールが静止していた。
「任せて」
後方から走ってきたマチが、アンダーハンドでボールを上げようとするが、宙に浮いたボールはビクともしなかった。
「何これ? どうなってんの?」
不思議そうな顔で、もう1回ボールにアンダーハンドで触る。
すると、審判の笛が鳴った。
「ダブルコンタクト!」
マチが2回連続でボールに触れたことにより、加賀・小泉ペアに得点が入った。
「やったね!」
笑顔の小泉玲奈が駆け寄る。
加賀瑞樹は両手でハイタッチをした。
「加賀くんのアビリティは、物の動きを止めることができる。ビーチバレーだと厄介な能力だねー」
山田がうらめしそうに加賀瑞樹を眺めながら、マチに言った。
「へぇ。それは面白い能力っすね」
マチの瞳が輝き出した。
点数は1対0で加賀・小泉ペアのリード。
再び小泉玲奈のジャンプサーブから始まった。
山田がレシーブをネット際に高く上げた。
「マチ、行け!」
空中に瞬間移動したマチがアビリティを込めてスパイクを打つ。
「必殺、消えるスパイク!」
橙色に光ったボールが、ふっと消えた。
次の瞬間、加賀瑞樹の足元にボールが突き刺さった。
ピー。
同点を告げる笛が鳴った。
「いぇーい!」
全身で喜びを表現したマチが可愛く踊る。
「さすが、マチ」
山田が微笑むと長い髪をかき上げた。
「オレに次ぐ天才と呼ばれるだけのことはある」
「えー、それ誰が呼んでんすか?」
照れながらマチが自分の帽子の撫でる。
「オレ」
山田が真顔で答えた。
「うーん、山田さんひとりかぁ。せめて日本全国の山田さんから呼ばれたいっす」
マチが拍子抜けしたような様子で、酸っぱい表情をした。
「まぁ、次のマチのサーブの番で試合を終わりにできたら、もっと天才って呼ばれるかもねー」
「まじっすか? 俄然やる気が出てきた!」
ボールを受け取ったマチがサービスゾーンに向かった。
位置につくと、試合を再開する審判の笛が鳴った。
「転送のアビリティ発動! 必殺、消えるサーブ!」
マチが橙色に光り輝きながらサーブを放った。
ボールが突然消える。
その時、加賀瑞樹は足元の砂に両手の手のひらを付けていた。
「
砂の上に漆黒の三角形の光が現れたかと思うと、それが何枚もタイルのように敷き詰められ、どんどん面積が拡大していく。
一瞬にして加賀・小泉ペア側のコートの地面全てが、黒い三角形の板でおおわれた。
次の瞬間、瞬間移動してきたボールが黒の三角形の表面で静止した。
砂には触れておらず、地面から5センチメートルくらいは浮いていた。
「消える魔球、やぶれたり!」
小泉玲奈がしてやったりの顔をした。
「まさか、ウチの必殺技が止められるなんて!」
マチが感嘆のため息を漏らした。
「マチ。直接、砂の中にボールを転送できないのかい?」
山田が尋ねた。最初から地面に触れる位置に瞬間移動させれば問題ないと考えたようだ。
「それがですね。今のウチの力じゃ、砂とか土とか、元々固体の物質がある場所には転送できないんす。転送先にある物体を瞬間的にどかすっていうのは、相当なエネルギーが必要なんですよ」
マチが自分でも残念そうな顔で答えた。
「となると、マチのサーブでは点が取れないということか」
山田が厳しい表情で考え込んだ。
加賀瑞樹はボールの下に足の甲を潜らせてから、一気に蹴り上げてレシーブする。
それを小泉玲奈がアンダートスでつなげる。
助走をつけてジャンプをした加賀瑞樹は、再び、黒いオーラをボールにまとわせてスパイクを放った。
「レシーブしないわけにもいかないしね」
回り込んだ山田が上手くレシーブする。
すかさず、マチがオーバーハンドでトスを上げた。
アビリティを発動させて輝いた山田が、スパイクの体勢に入った。
「こうなったら、正面からアビリティで対決だ」
右腕に水色のオーラを集め、漆黒に光るボールを打ちつけた。
黒と青の2色の光が混ざり合ったボールがネットの上を越えようとする。
「止まれぇ!」
「凍りつけ!」
加賀瑞樹と山田が同時に叫んだ。
すると、上空でボールが一瞬だけ静止し、凍りついた。
すぐさま、ぽとっと地面に落下した。
落ちた場所は、ネットより山田・田町ペア側の砂の上だった。
加賀・小泉ペアの得点を知らせる笛が鳴った。
これで2対1。
「やったぁ!」
加賀瑞樹は小泉玲奈とハイタッチで喜んだ。
「オレのアビリティで打ち消しても、そこからボールは真下に落ちるのか。これは、ヤバイ状況かもね」
山田が唇をかむ。
対照的にマチの顔は活き活きとしていた。
「山田さん、これは燃える展開っすね! こんなピンチ久しぶりっす! ウチ、マジで本気出します!」
「その性格、羨ましいよ」
山田が苦笑した。
そして、次は加賀瑞樹のサーブの番だった。
「静止のアビリティ発動!」
加賀瑞樹は手に持ったボールに暗黒のオーラをまとわせる。さらに、右腕全体にも黒い光を大量に集めた。
そして、ジャンプサーブを打つ。
「
右手から、真っ黒な本物のボールとともに、ボールと同じ大きさの黒い光が大量に放たれた。
全ての漆黒の球体が、ネットを越えて山田・田町ペアのコート内に雨のように降り注ぐ。
「嘘だろ?」
ボールと光の球体の見分けがつかず、愕然とした山田が呟いた。
「ウチに任せてください!」
マチが瞬間移動を使い、降ってくる黒い球体を1個ずつ片っ端からレシーブする。
だが、全ての球体をレシーブし終える前に、本物のボールが砂浜に突き刺さってしまった。
「加賀さんって、すげー!」
砂の上のボールを確認したマチが、爽やかに腕で汗をぬぐった。
☆
その後も、『ザ・リーオニズ』は無敵の強さを誇った。
加賀瑞樹は順調にサーブで連続得点を重ね、20対1のマッチポイントを迎えた。
「瑞樹、あと1点で勝ちだよ!」
振り返った小泉玲奈がウインクした。
「うん」
サービスゾーンでボールを持った加賀瑞樹はうなずいた。
「これで終わりだ!」
ボールを高く上げ、駆け出した。
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