26.アビリティ
「結論から言おう。小僧はACCだ。それも先天性の」
NT研究所内の診療所のような施設の部屋で、中沢美亜が告げた。
「そして、
「それって、どんな能力なんですか?」
名前からはピンと来ず、加賀瑞樹は質問した。
「無生物の動きを止めるのに優れているアビリティだ。だが、生き物には効果がない。そうだな、口で説明するより実際に体験した方が早い」
部屋の出口の方向を視線で示すと、中沢美亜が歩き出す。
「小僧、ついてこい」
☆
入った部屋は何もない広い会議室だった。
天井は高く、普通の建物の2階くらいの高さはありそうだ。
入口の脇の倉庫からパイプ椅子を2脚持ち出し、部屋の中央に向かい合うように並べ、そこに座った。
そこで30分程度、中沢美亜からアビリティの使い方について言葉で説明を受けた。
頭では、一通り理解できた。
「―――というわけだ。それでは、実際にアビリティを発動させて、能力を使ってみろ」
中沢美亜は足を組んで座っていた椅子から立ち上がると、鬼教官のように言い放った。
加賀瑞樹も立ち上がり、足を肩幅くらいに開いた。
まぶたを閉じ、大きく息を吸う。
「静止のアビリティ、発動!」
加賀瑞樹の叫びと同時に、全身に力が満ちあふれる。
目を開けると、身体全体を覆うように漆黒の光が包んでいた。
「よし。次は鎌を出してみろ」
加賀瑞樹は右手を斜め前方に掲げた。
「レオズシクル!」
その右手から弓を引くように、左腕を動かすと、黒い光が線になる。
そして、右手で大きな円弧を描くと、自分の背丈ほどもある黒い光の鎌が完成した。
「アビリティを発動している状態なら、運動能力が飛躍的に向上しているはずだ。今度は、この椅子を空中で斬ってみろ」
中沢美亜が、先ほどまで自分が座っていたパイプ椅子をつかむと、天井に向かって勢いよく投げた。
「行け!」
加賀瑞樹は跳び上がると、天井付近の高さでパイプ椅子に追いつき、鎌を斬りつけた。
手ごたえがあった。
しかし、椅子が真っぷたつになったかと思いきや、刃が当たったにもかかわらず、全く切れ目がつかなかった。
加賀瑞樹が床に着地する。
「上を見てみろ」
中沢美亜の声を聞いて見上げると、天井付近の位置にパイプ椅子が浮かんでいた。
むしろ、微動だにしない様子は、浮かぶというより止まったと表現するべきだった。
「鎌で斬った物を、その位置に静止させる。これが小僧のアビリティだ」
そう言うと、おもむろに中沢美亜が右手のそでを腕まくりした。
そして、右腕を真っすぐ横に伸ばした。
「最後の課題だ。その鎌で、この腕を斬ってみろ」
「え……。いや、いくら生き物に効果がないからって、実際にやるのは怖いですよ」
万が一の最悪のシナリオを想像し、加賀瑞樹は慌てた。
「もし、本当に斬れちゃったら―――」
「小僧、黙れ……」
中沢美亜が厳しい表情で叱った。
「失敗など恐れるな。戦いの場では、一瞬の迷いが命取りになる。……やれ!」
「……はい!」
加賀瑞樹は意を決して鎌を振り上げると、「うぉりゃあー」と叫びながら全力で素肌があらわになった中沢美亜の右腕を斬る。
鎌を振り下ろし、床に着地した後、すぐに振り向いた。
そこには、変わらぬ中沢美亜の姿があった。
「合格だ」
中沢美亜の顔は、いつの間にか優しい表情に戻っていた。
「最後に、ひとつだけ伝えておく。アビリティは体力と精神力を大幅に消耗する。いざという時以外は、なるべく能力を発動させるな。いいな」
「はい、わかりました! 美亜さん」
加賀瑞樹は思わず敬礼のポーズを取った。
☆
「そういえば、アルファレオニスの皆の衆には、事件の時にアビリティを使ったことは話したのか?」
帰り際の雑談の中で、中沢美亜が尋ねた。
「いえ、話してないです。僕がアビリティを使って戦ったことは、誰にも言ってません。今日までは、あんな能力が使えたことを自分でも信じられなかったので」
加賀瑞樹は苦笑した。
☆
それから3週間近く経った金曜日の朝。
日本に激震が走った。
なんと、一夜にして、極東軍に北海道全域が占領されてしまったのだ。
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