白鳥

有形結

第1話

 あなたが好きです。

 私が呟いた言葉はTLにかき消された。まあいいだろう、どうせ彼女には届かない。

 私は先輩が好きだ。鳥のように華奢で羽のように走る先輩が好きだ。どんな日でも先輩がトラックで走り込み姿をいつもずっと近くで見ていた。そんな二人っきりのグラウンドは私にとっての世界の全てだった。

 だけど先輩を見つめていた二年間に、今日終止符を打たれる。

「明日、東京にいくわ。今までありがとう、またSNSでもよろしく」

 私は、少し考えて、

「卒業おめでとうございます。なんか先輩、凛々しくなりましたね。」

「凛々しいって...まあ嫌がらせのおかげかな」と苦笑いで答える。

 いじめの原因は先輩の上級生の嫉妬からだったらしい。先輩が入部した後、推薦でもないのにあっという間にエース入りしたのがよくなかったと言っていた。先輩達の虐めが終わっても皆から腫れ物扱いされて私が入部するまで1人でずっと走ってたという。私も人とは関わりたくないので、先輩といる方が楽であったしむしろ独り占めするのに好都合だったから、先代達がくれた二人っきりの時間に感謝した。

「大学での先輩のご活躍を祈っています。けど、先輩が遠くに行ってしまって私、寂しいです」

「そんな泣きそうな顔しないで。日の丸背負って帰ってくるよ!もし寂しかったら遊びにおいでよ」

「...そうですよね、はい!絶対遊びに行きますね、梨花先輩!」一瞬戸惑って言葉を選んで無難なことを言う。

『もし私が同じ大学に行けたら、彼女にしてくれませんか?』なんておこがましいし無理に決まってるから言わなかった。でももしサプライズ私が一緒の大学に通うことになったら楽しい楽しいかな?その時、先輩はどんな顔するのだろう。想像して口が綻びそうなのを我慢する。

「今度はなんの考え事?」

「大学生の先輩の姿を拝見するのがとっても楽しみだなぁと、早く見てみたいです!」

「早すぎだよー、そういえばGWって空いてる?その時においでよ。けど、受験生かぁ」

「大丈夫ですよ!一泊なら何とかなります!」

「ならおいで!あんまり無理をしないでね」

 と先輩は白鳥のように素早く東京へ飛び立った。



火葬場で白鳥は黒く散った。


「梨花のためにわざわざすいません。受験生なのに」

「いいえ、先輩の葬式に呼んでくださってありがとうございます。それより何よりも火葬場までいさしていただいてありがとうございます」

「いいえ、とんでもないわ。こんな慕ってくれる後輩がいて娘は幸せな子ね。でも無理はしないでね」

「大丈夫ですよ。お陰様で先輩との最後の記憶は塗り替えていただきましたし。先輩がとても良くして頂いた御礼ですよ」そうして、私は先輩の遺影に目を向ける。

 彼女は私の目の前で事故にあって亡くなった。彼女の遺体はむちゃくちゃで、でも、顔だけは綺麗でああ先輩は先輩だなと微笑ましかった。

「少し外の空気を吸ってきます」と私は火葬場の外へ行き先輩の煙を吸う。傷を隠した白鳥は、ようやく世界に飛び立てたのだ。ここは応援しなくてはならない。でも、その前に、「ようやく一緒になれましたね、先輩」

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白鳥 有形結 @Mamuponi

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