1-2:探索開始

 「…さてと!とりあえず周辺確認しますか」

 

 何故転生したか、どうしてゲームのスキルやアイテムが使えるのか等は、考えても答えは出ないだろう。

 

 ならば、これからを考える。ワタシは開き直りの心境でそう決めた。

 

 そして周囲の探索に乗り出す。一見穏やかな森の中だが、どんな危険が潜んでいるかわからない。


 とはいえ、ワタシには斥候系のスキルは無い。植物やモンスターの鑑定なら出来るし、戦闘になっても大抵の相手には対処できるだろうが…相手が見付けられなければ話にならないし、そもそも後衛職が一人歩きとか自殺行為だ。

 

 ならばどうするか?

 

 簡単だ、召喚べば良い。

 

 ワタシは懐から漆黒の宝玉-造神核マキナ・コアを取り出し、呼びかける。


「さぁ、起動おきなさいウイ

 

 コアを放って指パッチン。

 

 するとコアに内蔵された魔力が解放され、人の形を紡ぎだす。


「おはようございます、マスター。ウイ、起動いたしました!」

 

 次の瞬間、ワタシの眼前に黒髪の美人メイドがにこやかに現れた。

 

 彼女-ウイ-はワタシが錬金術で生み出した最上位ゴーレム、造神人マキナだ。


 

 造神人マキナは、錬金術スキルの内ゴーレム系スキルを極めることで生産可能になる自我を持つゴーレムであり、プレイヤー同様に成長し自由にスキルを獲得できるという特性がある。


 造神人マキナより下位のゴーレムや、他職の召喚系モンスターが決められたステータスしか持たないことを考えると、育成の手間を差し引いてもはるかに優秀と言える。


 何せ、造神人マキナにはジョブによるスキルの習得制限がない。本来ならできないスキルの組み合わせによってゲームバランスを崩壊させることだってできてしまうのだ。やんなかったけど。


 育成には専用のアイテムを作成する必要があるが、造神人マキナを作れるレベルの錬金術師ワタシにとっては素材調達の手間がかかる、くらいの労力で済む。


 ゴーレム系スキルを極めた者に与えられる称号、人機の錬金術師マシンナリー・アルケミストの名は伊達ではないのだ。



「…おはよ、ウイ。早速だけど、ちょ~っと確認させてね?」


「はい、わかりまひひゃ!?」


 とまぁ、そんな凄い存在であるウイに、ワタシは抱き着いた。


 髪、ツヤサラ。肌、モチプル。服、ヤワスベ。あとめっちゃいい匂い。


 顔も体もファッションもワタシ好み100パーの完璧美女メイドなのは知ってけど、実際に触れてみた感触も完璧だった。流石ワタシ、素材にこだわって正解でした。


 あと声もイメージ通りなのも最高。ゲームではテキストのみだったし。


(ゲームでは抱き着くなんてことできなかったし、明らかに感情のある言動をしてる…やっぱり転生だなーコレ)


 と、感触を堪能しつつも反応を確認し、ゲームとの違いなんか考えてみるも、やはり転生の二文字に帰結する思考。


 これは本気で生存戦略練らないとマズいな、と結論付けた。


「あのぅ、マスター…。いつまで、そのぅ…」


 あ、まだ抱き着いたままだった。


「あら、ごめんなさいね。抱き心地良かったからつい」


 ようやくウイを開放し、ワタシは本題に入る。



「さて、ウイ。ワタシ達は今、未知の森にいるみたいなの」


「はふぅ。未知の森、ですか?マスターは全マップ踏破されたはずでは?」


 あ、プレイ内容も記憶してるのね。凄い優秀。話が早くて助かりそう。


「うん、そのはずなんだけど…地図作成マッパーを使ったら未探索だったのよ、ココ。どうやって来たかも分からないしね」


「ふむ…。何かしらの転移トラップに巻き込まれた、とかですか?」


「違うわねー。ワタシ、最後は工房にいたはずだもの」


「あ、そうでしたね。なら…なんででしょう?」


 さて、どうしよう?転生って言ってもこの子に通じるんだろうか?


 とか一瞬考えたけど、変に言い繕う必要もないと考えた私は


「多分だけど、いわゆる転生ってやつでしょうね。ワタシ、死んだはずだもの」


 と正直に伝えてみた。


「転生…って、マスター死んじゃったんですか!?ミカさんの蘇生は!?」


 ミカとはよくPTを組んでたヤンキー巫女のことである。彼女もトッププレイヤーで完全蘇生とか色々ヤバいこと出来るクチなのだが…そっか、皆の記憶もあるのね。


 今までの反応からして、ウイにとってゲーム=現実なのだろう。そこの認識を改めながら、説明した方がよさそうだ。


「んー…、そこなんだけど…。ウイ、落ち着いてきてね?」


 

 ~錬金術師説明中~



「…えっと、つまり私やマスターが元居た世界は現実じゃなくて、マスターは現実の世界で1度死んじゃって、でもなぜか今の世界に転生して、現実じゃないはずの私も現実に召喚できた…ということですか?」


 素晴らしい理解力、流石『人と同等以上の知性を持つ』ってフレーバーでも書かれてた造神人マキナの頭脳である。ワタシの長ったらしい説明をしっかり分かってくれた。


「そういうこと。分からないことだらけだけど、とにかくまずはこの森を出て人を探しましょ?そうすれば、いろんなことが分かるかもしれないわ」


「…そう、ですね。世界は違っても、私はマスターのお役に立つのが仕事ですから!」


 そういって、彼女は決意に満ちた表情を向ける。うん、そんな顔もカワイイ。


「それでマスター、まずは何から始めますか?」


「そうね…。まずは周囲を探索してみましょ。拠点になりそうな場所があると嬉しいわね」


「わかりました!なら、いつも通り私が前衛ですね!」


「ええ、いつも通り、ね♪」


 やる気十分な彼女を見て、ワタシも自然とワクワクしてくる。


 いつも通り。そう、いつも通りだ。


 ウイに前衛を任せ、ワタシが後ろからついて行くいつものスタイル。


 世界が違おうが、この黄金スタイルなら、例え龍皇が出てきても負けはしないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る