第35話:ギルドマスターに呼ばれました

 翌日、昼まで爆睡していた俺とゼノア、フィアは辺りを散策していた。

 出て行く際に「ギルドの人がギルドマスターが呼んでいる」と言われたが無視した。

 そして、見つけては食べをひたすら繰り返していた。


「あれ美味しそうなのじゃ!」

「いい匂い!」

「行くぞ!」

「うむ!」

「うん!」


 駆け出しまた食べに向かう俺達。

 それからたらふく食べた俺、ゼノア、フィアはベンチで休憩していた。


 昨日あんな事があり一部では片付け作業を行っていた。俺はギルドに呼び出されていたが、面倒臭いので無視していた。

 見ると喫茶店があったので入って見ることにした。

 カランカランという心地よい入店音。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「三人だ」

「こちらへどうぞ」


 店員の後に付いて行き着席すると、隣の人と目が合った。


「「あ」」


 名前が出てこない。

 赤い髪に燃えるような瞳。そしてその凛々しいその姿はたしか──


「バインさんか!」

「ネインだ!! 間違えるな!」


 間違えたようだ。


「あっコーヒーを一つと果実ジュースを二つ」

「わかりました」


 去って行く店員さん。


「傷はもういいのか?」

「あ、ああ。平気だ。それよりもそっちこそーうん。大丈夫みたいだな」

「ん? 当たり前だろ。あんな奴等の攻撃はダメージすら受けないよ。なっ、ゼノア」

「うむ。お主もあんな攻撃でダメージを受けるとは軟弱じゃのう」

「あれは誰でもああなるわよ!」


「お待たせしましたー」

「あっどうも」


 怒鳴り散らすネインをよそに、店員が持ってきたコーヒーを飲む。

 おっ、これはいい豆を使っているな。

 良い深みがある。


「むむ! これは美味いのじゃ!」

「こっちも!」


 笑顔でこちらを見てそう言う二人に俺は和む。


「だから私を除け者にするな!」


 ネインが五月蝿いので構ってあげることに。


「なんだよ。こちとら食後の一服をしているんだぞ」

「そんなの知らないわよ! それよりもギルドに行ったの? 朝そっちに職員が行ったみたいだけど?」

「いや。行ってないな」


 そう言った俺の発言にネインは「なんでぇ!?」と言う顔になり行くようにと言われる。


「だって面倒臭いじゃん。そろそろ別の所に行こうとしたから別にいんじゃね?」

「行かなきゃダメだろ!?」


 ネインの突っ込みは絶好調のようだ。


「五月蝿いのじゃ……」

「お姉ちゃん五月蝿いよ?」

「五月蝿いな」


 引き攣りピクピクと痙攣させるネイン。

 そうとう頭にきているらしい。

 なにかしたのだろうか?


「飲んで落ち着いたらどうだ? 他の客に迷惑だぞ」


 ネインが周囲を見渡すと、こちらを迷惑そうに睨む姿があった。


「そう言う事は早く言わないか?」


 流石に不味いと思ったのか声量が小さくなった。

 それに早く言わないかと言われても俺には関係ない。


「関係ないだろ。そうだフィア。何処か行きたい場所あるか?」


 ネインを無視してフィアに聞くも、返って来たのはフィアからではなくネインだった。


「いいからギルドに行け。呼び出しなんだ。何かあるに決まってる。大方昇格の件じゃないのか?」

「何かあるから行かないに決まってるだろ……考えろよ」

「あのな……」


 我慢できなかったのか、ネインは大声で叫ぶ。


「いいから早くギルドに行ってこい!! 行かないと言われても無理矢理連れて行くからな!」


 どう考えても無理そうだ。

 出て行っても付いて来るのは確実だろう。なんなら早く終わらせるに限る。


「わかったわかった。行きますよ。行けばいんだろ」


 ため息を吐く俺を見て疲れた顔をしているネイン。

 ゼノアとフィアもネインの事を面倒くさそうに見ていたが、ネインは気づかなかったのだった。


 場所を移動し俺達はギルドに向かったのだが、何故かネインも着いてきていた。


「……なぁ、なんで来るんだよ?」

「逃げないためにだ」

「「「……」」」


 コイツ、完全に俺の思考を読んでいやがる。


「さて、着いたぞ」


 ネインがギルドの扉を開け、俺を引き摺るようにして中へと向かう。

 視線があちらこちらから飛んで来るもどうでもよい。

 そのまま受付へと行くと、


「ギルドマスターのザガンを呼べ」

「ね、ネイン様! は、はい直ちに!」

「恐喝すんなよ……」

「お主も大人じゃろうに……」

「大人気ない……」


 三者三様に言われたネイン。

 拳を強く握りしめ振り返って俺へと拳を振り抜いた。


「おいおい。そんな事でキレるなって。もう少し大人になれよ」


 ガシッと受け止められたネイン。

 それを見ていた冒険者達からは戦慄の眼差しを俺へと向けた。


「あ、アイツネインさんにあんな言葉を……」

「だがあのネインさんの攻撃を片手で受け止めるなんて……」

「ありゃ関わっちゃいけねー存在だ」

「だな」


 そう言って視線を外し飛び火しないようにと再び会話を続けていた。


「何を騒いどるんじゃ。ってネインか。何か用か?」


 少しして、昨日会ったギルドマスターが二階から降りてきてネインにそう言った。


「何言ってるんだ。コイツを連れて来たんだ」


 ネインの言葉を聞きよく見ると俺がいることに気づいたギルドマスター。


「やっと来たかお主!」

「何言ってるんだ。私が連れて来なかったら絶対に来なかったぞ」

「……本当か?」

「ああ」


 頷くネイン。ギルドマスターの視線が俺に来たので、


「勿論だ」


 胸を張って言い切った。


「てめぇが言うな!」


 ネインにバシッと頭を叩かれる俺を見たギルドマスターが口を開く。


「取り敢えず話がしたい。二階の執務室に来い」

「断わる。来いと言われたから来ただけだ。それに話もしたから俺達は帰るぞ」


 背を向けて帰ろうとする俺達に慌てて声を掛ける。


「だからなんでそうなるんだ! いいから来い!」

「……それが人に頼むやり方か?」

「うぐぐっ……き、来てください。お、お願いします」

「頭を下げないのか?」


 ゆっくりと頭を下げるギルドマスター。


「これでいいだろ?!」

「はぁ? そんな頭の下げ方あるか?」

「ないのじゃ」

「村でもみんなしっかり頭を下げてたよ?」


 フィアにまでそう言われたギルドマスターは顔を赤くしながらも、


「お話がしたいのでどうか来てください。お願いします」


 そう言って頭を下げるギルドマスター。


「うむ。まあ、50点ってところか」


 何様だよ!? と、それらの会話を聞いていた冒険者達は思うのだった。

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