第34話
「なるほどねぇ……色々あったんだな」
翌日の昼休み。
修は平田と空き教室にいた。
修は平田にも自身の過去のことをすべて話した。
平田は相槌を打ちながら真剣に最後まで聴いてくれた。
「じゃあ今日からバスケ部ってことだな。大丈夫か? 女子ばっかの中に男子が入るなんて、かなりやりにくいと思うぞ?」
「ああ、それは覚悟してる。でも今は何より、宮井さんの力になりたいんだ」
「ふぅ~! 熱いねぇ」
「なんとでも言えよ」
平田が茶化すが修は笑って返した。
「平田も本当にありがとな。相談乗ってもらったり、それ以外にも……。平田には助けられてばかりだ」
「ん~? 俺なんかしたっけ?」
平田は首をかしげてとぼけるが、平田にも感謝してもしきれない。
「少しずつ恩返ししていこうと思ってるから」
「ジュースでも奢ってくれりゃいいよ」
平田は微笑みながら右手を顔の前でぶらぶらと振った。
本当にいいやつだ。
「っとまずい! もうこんな時間か」
修はこの後汐莉とバスケ部の顧問に挨拶しに行く手筈になっていた。
「ごめん平田! 俺職員室に行かなくちゃ!」
「お~行ってこい。急ぐなよ、ゆっくり行け~」
「ああ!」
修はやや速歩きで空き教室の出口に向かう。
「修!」
その途中で平田に声をかけられたので、足を止めて振り向いた。
「話してくれてありがとな」
「……こちらこそ。聴いてくれてありがとう」
職員室の前に着くと既に汐莉が待っていた。
「ごめん、お待たせ!」
「ギリギリセーフ! 永瀬くん、ちゃんと忘れずに持ってきた?」
「もちろん」
修は胸ポケットに小さく折り畳んで入れていた紙を取り出し、汐莉に開いて見せた。
『私は バスケットボール 部に入部することを希望いたします。
1-A 永瀬 修』
「うん、完璧だね。じゃあ行こっか」
そう言って汐莉は職員室のドアを開き、「失礼します」と声をかけて中に入った。修もそれに続く。
「そう言えば、女バスの顧問て誰なの?」
目的のデスクに向かって歩きながら、修は今さらながら小声で汐莉に質問した。
「あれ? 知らないの? 先生は永瀬くんのこと知ってたみたいだけど……。ほら、あそこに座ってる人」
修は汐莉が指を差した方を覗いた。
こちらの気配に気づいたのか、その顧問の教師が振り向く。
その姿が修にも見知ったものであったので、修はとても驚いた。
「こんにちは先生!」
「やぁ、宮井さん、永瀬君」
「ええ!? バスケ部の顧問って、川畑先生だったんですか……!?」
そして放課後になった。
職員室前で川畑と合流し、体育館へ向かう。
もう新入部員が加わるには遅い時期であり、なおかつ女子部に男子が入るという珍しい案件だ。
修一人で行くのは不安であろうと川畑が配慮してくれ、一緒に行くことになったのだ。
「さ、準備はいいかい?」
体育館の入口で川畑が柔和な笑みを浮かべながら修に声をかける。
「はい。大丈夫です」
修は少し緊張していた。
部員8名の内知った顔は汐莉と優理だけであり、ほとんどが先輩だ。
自分をすんなり受け入れてくれるだろうか。
「ちゃんと僕がサポートするから安心するといい。じゃあ行こうか」
修が頷くのを確認すると、川畑はフロアへの扉を開いて中へ入って行く。修も後ろに続いた。
バレー部が練習している手前側のコート端を通り、ネットで隔てられた奥側の、女子バスケ部が練習しているコートに向かう。
川畑が来たことにポニーテールの先輩が気付き、「集合!」と声をかけた。
練習を中断し川畑の元に部員が集まる。
どうやら顧問が来たらまず集合して挨拶というのが慣例のようだ。
「気をつけ! 礼!」
「「「お願いします!!」」」
部員達は川畑が見知らぬ男子生徒を伴っていることに気付き各々不思議そうな顔をしていたが、キャプテンの発声に続き元気な声で挨拶をした。
「はい、お願いします。今日も頑張っていこう。練習を再開する前に新入部員の紹介をしたい。永瀬君」
川畑に促された修は「はい」と返事をして少しだけ前に出る。
「あの……一年A組の永瀬修です。えっと……」
部員達の目線が自分に集まるのを感じる。
驚いている顔、怪訝な顔、無表情。歓迎ムードとは言い難い空気に緊張感が更に増す。
ここに来る前に考えていた挨拶の言葉が一瞬でどこかへ飛んでいってしまった。
と、そこで汐莉と目が合った。
汐莉は心底嬉しそうな顔で修を見つめていた。
これからのことに期待と興奮で溢れている、そんな風な表情だ。
それを見て修は落ち着きを取り戻した。気持ちは修も汐莉と同じだ。
「マネージャーとして皆さんのサポートをしたいと思っています! これからよろしくお願いします!!」
修の二度目のバスケ生活が、これから始まる。
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