あの夏の日に ~俺たちの透明な二週間~

加瀬優妃

プロローグ

 7月の夜の雨が、一人の少年の傘を冷たく濡らしていた。


 彼の名前は中平なかひら十馬とおま

 この春、地元の大学の教育学部に進学。大学一年生になった。

 彼は、自分と親友の高坂こうさかゆずるが暮らすアパートに急いでいた。

 借りてきたDVDのケースにも、少し雨がかかっている。

 ……とは言っても、二人は一緒に暮らしている訳ではない。同じアパートの隣同士だった。


「……よく降るな……」


 彼は暗い夜空を見上げて、溜息をついた。


 ――そのとき。

 夜空に不思議な切れ目が入り、そこから淡い紫色の光が溢れてきた。

 まるで、写真の真ん中だけ切り裂いたような、不思議な光景。


「……何だ?」


 トーマは自分の目を疑った。何回も目を擦る。

 しかし、切れ目は徐々に大きくなっていき、やがて……そこから少女が降って来た。


「えっ、えっ、えーっ!」


 トーマは持っていた傘を放り出すと、咄嗟に腕を伸ばした。


(地面に叩きつけられたら大変だ!)


 トーマの伸ばした両腕の中に、少女がふわりと舞い降りた。

 腕の中の横抱きにした少女を、トーマはまじまじと見つめた。

 ……どうやら気を失っている。


 長い黒髪で、多分10歳ぐらいの女の子。

 目を閉じたままだが……ちょっと見たことがないぐらいの美少女だった。


「な、な、何だこれ……」


 冷たい雨に濡れたまま、トーマは思わず呟いた。

 再び夜空を見上げたが、不思議な切れ目は――すでに消えてしまっていた。

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