7 ムシャクシャしてやった

今俺は非常に後悔している。

エロい格好に、いや医者に惹かれて来てみたのは良いが、そこはゾンビの要塞と化していた。


「これどうしようか」

「お前なら突っ込んでいけるだろ」

「いや、あいつら血だらけだし臭いんだよ?」

「はい」


早見さんにティッシュを差し出された。

鼻に詰め物をしろと?

一応病院に来る間に早見さんにも俺の能力の事を説明しておいた。

何かキラキラした目で見られてるのは気のせいでしょうか。


「うーん、いっそのこと燃やそうか」

「それ良いかもな」

「病院まで燃えてしまいますよ!」


常識人がいて助かった。

でも燃やしますけどね。


「悠木。この近くに広い場所はないか?」

「南側に駐車場があるな」

「よし、そこにしよう」


俺は発電機用に積んでいた、ガソリンを入れたポリタンクをトランクから二つ取り出し、駐車場へ向かう。

そこへ持ってきたガソリンを満遍なく撒いて行く。

それだけだと足りないが、駐車場には車が沢山駐車してあるから引火して燃えるだろう。


「まあこんなもんかな」


辺りにはガソリンの匂いが充満し少し具合が悪くなった。

後はゾンビをここまで誘導すれば任務完了だ。

車に戻り悠木にマッチと防犯ブザーを渡してもらい病院へと歩き出す。

あいつは何でも持ってるな。

病院に近付いた所でブザーを鳴らすと、ゾンビ共は音に反応してこっちに近付いて来る。

ハーメルンの笛吹の如くゾンビを連れて歩き、大量のゾンビが駐車場内に踏み入れる。


「地獄へようこそ。パーティーの始まりだ」


ゾンビ共には聞こえていないだろうが、折角招待したのだから一声かけないとな。

マッチに火を付け駐車場の内に投げ入れる。

俺は全力ダッシュで駐車場から離れる。

次の瞬間、駐車場に火の手があがりゾンビ共を炎が包んで行く。

そこには言ったとおりの地獄が広がっていた。


「ヴヴヴヴアアアァァァァ」


声にならない声を上げ、ゾンビ共は炎に焼かれながら倒れて行く。

周りにいた奴も何故か炎に飛び込んで行く。

光に反応してるのか?

これはあとで検証だな。

ゾンビの腐臭と焼けた臭いで辺りは悲惨な事になっている。

俺はその場を後にし悠々と車へ戻る。


「本当に燃やすなんて何してるんですか!」


早見さんに怒られた。

めっちゃ怒られた。


「ごめんなさい」


ムシャクシャしてやったなんて言ったら酷い事になりそうなので、素直に謝りました。

悠木はその横でゲラゲラ笑っている。


「悠木さん。あなたも煽ったのですから同罪ですよ?」

「ごめんなさい」


それを見て俺は指を指して笑う。


「ふーくーやーまーさん」

「はい。調子に乗りました」

「わかればよろしいです」


ここに俺たちのヒエラルキーが出来上がったのだった。

それはそれとして、結果的に病院を囲むゾンビが減ったので突入の準備をする。

俺の持ち物は、さっきも使った防犯ブザーと無線機、暫く使い道のなかったバット、それに今回はポリカーボネート製の盾も持って行く。

今回は屋上まで行かないといけないので、誘導も上手くいかないだろうという理由だ。

道中ゾンビを倒す必要も出てくるだろうし。

何より早見さんの心配が半端なかった。

二人は車でお留守番だ。

まだ二人を守ってゾンビの群れに突入する自信はない。


「じゃあ行ってくるね」

「おう」

「気をつけて下さいね」


二人に見送られ、少なくなったとはいえ、まだゾンビが溢れている病院へと向かうのだった。

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