姉と弟と【From:鯉子】

こんばんは!鯉子です。



さて、新居にやってきてからはや二週間ほど。


はじめは心配していた三人での暮らしも、心身ともにようやく落ち着いてきたところです。


ラメちゃんことヒラメキンは完全夜型人間で、私との生活リズムが見事にすれちがっています。けれども迷惑でない。防音がしっかりしているとはいえ、これは不思議なことのように思えます。亀さんが納得しない私を心配いらないとなだめて聞かせた事実はたしかなようですが、たいへん不思議です。まるで影と生活しているみたいに、いい意味で気にならない。


影と言えば、くらげちゃんはいったいいつなにをしているのか見当もつきません。家のなかで顔を合わせたのもまだほんの数回、かぞえるほどしかありませんし。


そういえば、エッセイもまだ更新していませんね。いや、せっつくわけじゃありませんし別にしたくないならしなくていっこうにかまわないのですが、あまりにも生活が聞こえてこないので、なんだか心配になります。あまり心を開いてくれていないようで。けれども亀さんはそれについても心配ないと言いましたし、きっとなにかあるのでしょう。


亀さんはすごいお医者様なのです。なんでもお見通しのようです。




今日は弟がわざわざ会いに来てくれました。弟は札幌で仕事をしています。むこうはとても寒いようです。来週には雪が降る予報だと言います。暖房を長く使うから電気代がひどくかさむのだとか。


私たちは銀座まででかけて、ウィンドウショッピングをしたり、お茶したりしました。弟の宿泊するホテルはとても立派なところで、ロビーに入るだけでも私はとても緊張してしまいました。偉そうな人が行き交い。手をあげてそのなかに紛れていく弟は、とても大人びて見えました。


不甲斐ない姉は弟にいつも心配をかけてしまう。立派な弟を持った姉は鼻が高くもあり、すこしだけさびしくもある。


母と父と弟との4人家族で、私はなに不自由なく、けれども過度な贅沢もせずといった家庭のなかで育ってきました。家族には感謝しかありません。決して裕福な暮らしではありませんでしたが、父も母も真面目な性分で、共働きで、食うに困ったりするようなことはありませんでしたし、兄弟そろって大学まで送り出してくれました。


私は地元のちいさな大学に進学し、地元のちいさな会社に就職先を決めたのですが、うまくいかず、細々と派遣で仕事をして、投稿サイトに小説なんか書いてみたりして、なんのかんのしているうちにいまの生活をはじめることになりました。

対して、弟は都内の一流大学に進み、立派な企業に就職。彼は突然変異体のごとく、いたって平凡な我が家系のなかに突如として頭角を現したのです。飛びぬけて優秀な弟。彼は一家の誇りでした。

私は弟には頭が上がりません。姉がこんな自分勝手なばかりに、弟はさらに家族の期待を負うことになるでしょう。


申し訳ないと思うのです。私は食事をしながら、ごめんよ!と主語を欠いた言葉を弟に言いました。弟は聡い。うなずくと、気にしなくていいんだよ、と言ってくれました。私は弟の聡明さにいつも甘えてきました。100のことを言うのに、100のことをきちんと言葉にせずに伝えようとする。これではいけませんよね。


別れ際に弟は引っ越し祝いとして、ちいさな紙包みをくれました。

開けてみると、それはプレイステーションストアカードでした。1万円ぶん。

まだゲーム好きなんだろ、と弟は言いました。いろいろ考えたんだけどさ、やっぱねーちゃんにプレゼントするならそれかなって。

ああ、弟よ!私が与謝野晶子のような偉大な才能であったならなにかとても気の利いた文句のひとつでも言えたでしょうに!

ちっぽけな私は感謝の気持ちを表す方法をほかに思いつかず、かなしいかな、恥も外聞もなく駅の改札前で彼に抱きついてしましました。弟はとてもうざったそうにしていました。


がんばるぞ!というちいさな気合とともに私は帰宅すると、メイクをすばやく落とし、髪を結いあげ、またいつものようにパルちゃんとフォートナイトをやりました。


見事にビクロイ獲得です!


……ああ。こんな姉でも姉と呼んでくれるかい、弟よ。



それでは、また。

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