夢でも、君に逢いたい。
藤代 一姫
プロローグ
僕には、この音楽の良さが分からない。
スマートフォンからイヤホンという細い管を通って僕の耳に流れ込むピアノの旋律、もの哀しげな掠れた女声は、僕の心を微塵も動かさない。
今、この音楽を嫌々聞いている僕は、本物の僕ではないような気がして、逃げ出したくなった。
「ね?いい曲でしょ?」
隣に座る女の子は、屈託ない顔で笑う。
「そうだね」
思ってもないのにそう答えてしまう僕のことを、余計に嫌いになる。
もし、こういう時にはっきりものが言えたなら。僕の人生も少し違う色を含んでいたかもしれない。
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