第53話 家族愛をコンビニ経営で確かめる1

「クビー!?」

 彼の名前は、バーコード禿ではなく、安倍晋男。たった今、会社をリストラされた。無職になった。

「満期定年退職ではないので、退職金は300万円だけです。」

「な、なに!? 俺の退職金は3000万円のはずだ!? 俺は、この会社に30年以上貢献してきたんだぞ!?」

「さようなら。」

 ガチャっと、会社のドアが閉まり、会社から追い出される晋男。

「そんなばかな!? 俺の老後の人生はどうなるんだ!? 家族に何て言えばいいんだ!?」

 理不尽なリストラにあった晋男は、ただ立ち尽くすしかなかった。


「ただいま。」

 暗い声で晋男は自宅に帰って来た。

「おかえりなさい。来年で定年退職ね。退職金もいっぱいあるし、100万円で世界一周旅行に行きましょうよ。」

 安倍利子。晋男の奥さんである。専業主婦の利子は、晋男の退職金を楽しみにしていた。

「すまん! リストラされた!」

 潔く晋男は自分がリストラされたことを利子に告白した。

「はあ? 酔ってるの? 冗談ばっかり。」

「本当なんだ! リストラを言い渡されたんだ!」

「ギャアアアー!?」

 利子は悲鳴をあげて床に倒れる。

「大丈夫か!?」

「私の世界一周旅行が消えていく。」

 ひ弱な声で利子は体に力が入らない。

「そうだ! でも退職金はもらえたんでしょ? 今まで長い間、会社で働いてきたんだから。」

「退職金はでた。」

「やったー! 退職金で世界一周旅行に行くぞ! ワッハッハー!」

 利子は復活した。

「300万だけだ。」

「300万? 3000万円じゃないの?」

「300万だけだ。」

「ガーン! ヒュルルルルー。」

 利子は再び床に倒れ込んだ。

「ただいま。」

 そこに長男の安倍晋一が帰って来た。

「俺、会社を辞めてきた。明日から無職だから、よろしく。」

 晋一は、両親を見つけると自分が会社を退職してきたことを告白した。

「なにー!?」

「ああああ!? もうダメ!?」

 晋男と利子は、晋一の発言に混乱する。

「ただいま。」

 そこに次男の安倍晋ニが帰って来た。

「俺、就職できなかったから、就職浪人するから、よろしく。」

 晋二は、3人を見つけると、就職戦線に負けたことを告白する。

「おまえもか!?」

「私、死んじゃう。」

「晋二、おまえの発言におやじとおふくろがビックリしてるじゃないか。」

「そうなの?」

 こうして安倍晋男の4人家族は、収入なし家族になってしまった。

「ああ、私たちは明日からどうやってご飯を食べていけばいいの。あわわわわ。」

 母が崩れ去った、その時だった。

「家族みんなでコンビニを経営しませんか?」

 テレビのCMが流れた。

「みんなでコンビニでもやってみるか?」

 その時、晋男は呟いてしまった。

 つづく。

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