第8話 消えた!? 忘れてた!? 消せない!?

「消えた。」

「キャアアアアアア!?」

 部長の恐怖の一言に、幽霊が怖い完璧主義者のカロヤカさんは悲鳴を上げて小さくなって震えている。

「ここまでやって、絶対無敵のカロヤカさんにもギャップがあるというものだ。ワッハッハー!」

「笑うな!」

「ギャアアア!? おまえ殺す気か!? 血が出てるぞ!? 血が!?」

「殺す気です!」

「失礼しました。」

 麗が天の頭を本の角で叩く。

「私の実力からすれば、こんな200字のアニメで1分くらいのライト文芸部の日常の風景は簡単に書けてしまう。」

「部長、コンテストの落選の傷は癒えたんですか? ニコッ。」

「ガーン!」

「笑!? それは聞いちゃダメ!? 部長が死んじゃうよ!?」

「あの世に行ってきます。」

「キャア!? 部長のお化け!? 怖いよ!? 嫌だ!?」

 笑を止める大蛇。天の幽体離脱に怯えるカロヤカさん。

「気分転換に過去作を1つ消してきた。」

「何を消したんですか?」

「1話完結の「主人公の条件」というものだ。」

「どんな内容だったんですか?」

「NHKの朝ドラの話で、半年と長い朝ドラなので、視聴者が飽きないように、主人公は真面目ではなく、アホに描くらしい。もちろん流行語大賞も狙ってるアホキャラが主人公らしい。」

「じゃあ、カロヤカさんは完璧だね。」

「私? 私のどこが?」

「絶対無敵だけど、幽霊が怖いというおもしろいギャップ。「カロヤカにお任せあれ。」で流行語大賞にもエントリー。もちろんNHKの朝ドラにも採用されるでしょ。」

「されない、されない。」

「もう、カロヤカさんたら、照れちゃって。カワイイ。ニコッ。」

「カロヤカさんで遊ぶのは面白いかもしれないな。キャッハッハ!」

「大蛇、おまえの肉の皮を削ぎ落してやろうか? 蛇皮のハンドバックを作ってやるぞ。」

「じょ、冗談ですよ!? カロヤカさん!?」

「カロヤカさんは、何事にも本気だから、言葉選びは慎重にね。」

「カロヤカにお任せあれ。」

 つづく。


「忘れてた!?」

 部長の叫び声がライト文芸部の部室に響き渡る。

「どうしたんですか?」

「今、執筆中の「あなたを食べてもいいですか?」の初期設定が見つかってしまった!?」

「良かったんじゃないですか?」

「バカ者!? 初期設定には主人公のアップルは音痴な女の子設定になっているのに、既に8万字書き終えているのに、今更、どうしろというのだ!」

「見なかったことにすればいいんじゃない?」

「ナイス!」

 麗が天にアドバイスを送る。

「スキルは書いてしまえば公表になるが、アイデアは非公開にコピーして貼り付けておこう。NHK朝ドラ用の議事録と共に。エヘッ。」

「可愛く言うな。」

 部長はずる賢い女だった。

「これで1作分、異世界ファンタジーのシナリオができた訳だが、結局、有名作も無名作も同じだな。ポイントは、世に出たか出なかったか、また現代は、せっかく世に出たのに売れなかった愚策の山。逆に良作でも世に出ないので売れない良作の山。悲しいな。」

「本が売れないから、次々と出版できない時代だものね。」

 部長の天は、ライト文芸部の部長として、本を愛している。

「いつか! いつか私の本も出版されますように!」

「私利私欲かよ!?」

「そうだよ。」

 部長は、こういう人間である。

「カロヤカにお任せあれ。」

 カロヤカさんはスマホでメールを打ち込み始めた。

「カロヤカさん、何をやっているの?」

「部長のくだらない小説を書籍化してくれるように、出版社にお願いにメール。」

「偉いぞ! カロヤカさん! 君だけが私の理解者だ!」

「ダメー! 絶対にダメよ! カロヤカさんが出版社にメールを送ったら、本当に部長のくだらない作品が書籍化されちゃうでしょ!?」

「人の作品を読んでもないのに、くだらん、くだらん、言うな!」

 さりげなく部長は傷ついていた。

「そうよ。放っておけばいいのよ。天の作品はくだらないんだから、書籍化されることはないわ。イッヒッヒ。」

「悪魔だ!? 麗は悪魔だ!?」

 ふざけて書いているのだが、ふざけた日常が、妙にリアルな会話だ。共感するレベルの人間も多いはず。


「4話で、446アクセスー!?」

 またまた部長の叫び声がライト文芸部の部室に響き渡る。

「どうしたんですか? 部長。」

「過去作のビックリするような擬人化という作品が、たったの4話なのに、400アクセスを超えてるんだ!?」

「すごいですね。」

 これは実話である。

「まったくだ! 書籍化のためとはいえ、10万字書くのがバカバカしくなる!」

「結論からいうと、本離れの現代人は、短編を好み、書籍なんて買わないし読まないから、10万字みたいな長い作品は嫌だ。と言っているんでしょうね。」

「ガーン!? 私の書籍化の夢が!? 私の夢が崩れ去って行く!? あああー!?」

「カロヤカさん、天に結論を言っちゃあダメよ。」

「すいません。」

 部長で遊ぶだけで、十分、テープの尺が稼げる。

「部長って、悪魔なのに天なんですね。」

「そうそう、口から毒を吐かなければ、天使に見えるのにね。」

「そうか。ありがとう。やっぱり私はエンジェルだったんだ。アッハッハッハ。」

「天使の着ぐるみを着た悪魔ね。」

「うんうん。」

 ライト文芸部の部員全員の部長に対する認識は一致した。

「いいな。部長は。」

「部長ばっかだ。」

 笑と大蛇がいじけている。

「どうしたの?」

「まだカロヤカさんは主役だから分かるよ。麗先輩も話の流れの補填をしてくれているのも分かります。でも悪魔なのに天という名前だけで出番が多い部長に納得がいきません!」

「そうだ! そうだ! 私と笑の出番が割愛され過ぎだ! もっと出番がほしいよ!」

「あなたたち、そんな泣き言を言っちゃあいけません!」

「麗先輩!?」

「あそこを見て!」

 ライト文芸部の部室に入っていいのか、入ってダメなのか、悩んで立っている顧問の伊集院苺先生がモジモジして待機していた。

「ゲッ!? 伊集院先生!?」

「苺ちゃんのことを忘れていた!?」

 部室の出入り口に出番待ちをしている顧問の伊集院苺先生がいた。

「私の出番は、まだか!?」

「ギャア!? 怪獣だ!?」

「誰か!? 苺ちゃんを止めてくれ!?」

「カロヤカにお任せあれ。」

 苺は、部室に乱入し暴れまくった。

「もう、収拾がつきません。さようなら。ウラララー!」

 麗だけが最後の砦のライト文芸部だった。

 つづく。

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