第3話 床下の悪いおんな

第3話

   床下の悪いおんな   乙音メイ


 天井裏からのゴソゴソ、ガタガタ、という音は人間が立てていると思っている。イタチやネズミではない。そのようなかわいらしい動物が立てる音ではない。


 姿から察するに上階402号室に暮らす、夫婦の妻の足音と思われるのだが、産前も産後も、かなり重量感のある足音で、いつも不機嫌そうな雰囲気が伝わってきていた。わざと大きな音を長時間断続的に立てることは、いつも機嫌のいい人には出来そうもない。それで、常々胎教のことを心配する私だった。天井裏で踏み板をあちこち移動させるなどの悪巧わるだくみ中の音も、その姿同様、重い。


「プイ~ン……」

という音も聞こえたところは悲しいかな、台湾イタチでもなく、女優さんでもない。やはり一般庶民だ。


 映画ハリー・ポッターの中に登場する、ホグワーツ行き専用ホーム「十と四分の三番線」というのがある。我が家の天井裏が、それに似た亜空間の「郵便番号391-4311、鹿児島県、熊毛郡、屋久島町、安房1718-14、恵○須団地E-3棟、302・5号室」になっているとして、2018年の今、そこに人が住み着いているのでなければ、それは上の世帯E-3棟402号室の住人が、302号室の天井裏に、不法侵入しているとしか思えない。


 その空間は、4階の床下兼3階の天井裏にあたり、建物の東の端から西の端まで、

「ずず、ずいー」

と、した広さがあり、ちょっとした

「殿のおな~り~」

といった感があるのかもしれない。でも薄暗いだろうから魔界座敷、或いは因果応報に直結して、魔界座敷牢のような感じかもしれない。だから、何度警察が来ても意に介さず、

(もう、私の人生、子供のころから周りの親や兄や親せき近所を見てきて、牢獄と隣り合わせの危ない橋を仕方なく一緒に渡らせられて、すでに牢獄セットでしたから)

と、犯行を続けているのかもしれない。それに加え、警察をなめているのかもしれない。「床下の帝王」気分に浸っているのだろうか。


 その床下兼天井裏の帝王は、ムシャクシャすると、自分の家の4畳半の敷物をめくり、半畳分の畳の入り口を「バン!」と引き上げ、次に、ギ~「バタン!」と特設の板製の二重扉をおもむろに開ける。または、洗濯機をバスルームに移動しておいて、本来の洗濯機置き場である脱衣所の一角の、白い洗濯機設置用ケースを取り払って改造した入口から、じめついた床下に潜り込むのだ。


 さて、ここからは音を立てるわけにはいかない。

(だって、ママ友には言えない趣味と実益。看護士業よりお手当てがいいの、口止め料込だから。母から受け継いだの。母も元看護士よ。この分だと、下の女の子もナースになるかも? 上の子も下の子も今日は母でなく102に預けたし。さ~てやるか!)

 4階住人と3階住人の、在宅中の部屋からの灯りが、たくさんの隙間からこぼれている(と思われる)。あたかも都会のサラリーマンがネオンに惹かれるように、帝王はその灯りの元へと、コソコソと這いつくばって進んで行く。その顔は自分だけの秘め事ワールドへの扉を目前にして、ゆがんだ笑顔になっているのかもしれない。そして今夜のターゲット住人がどんなことをしているのかを、隙間の穴に目を押し当て、じっくりと、見つめる。そこで床下の帝王は、床下兼天井裏空間を制したつもりになって、

(どうだ! 会話どころか、プライバシーも盗み見三昧! ついでに仲間の、これまで知らなかった趣味も知ってしまった。もう病み憑≪つ≫き! この恵比須団地全体は、建物も人間も我が物なり!)

と、心の中で言ってはいないだろうか。そうでなければどうしてここまで真に我が物顔で公共の建物を汚すようなことばかり出来るのだろう? 安房の目と鼻の先にある屋○島警察の警官を呼ばなければ命が危ないので、度々来てもらっているにも係らず≪かかわ≫らず、どうしてこんなに長い間犯行が続けられるのだろう。

「あきれるほどしつこいのは何故だろう?」

との疑問が、私の脳裏を離れなかった。


       *


 ミシェルはトイレで、床下の帝王とかち合うことが多いと嘆いた。ハッキリ嫌がっている。私も同じ体験を長い間していたが、ミシェルもそうだったとは知らなかった。階の上下で同時に、水を流す音がかち合うくらいなら、まだましだった。

 トイレに入ったときに、病院のアルコールの匂いや砒素の匂いのガスなど、これはいったいどこから漏れてくるのかと、トイレの天井を調べてみたことがあった。そうしたら、ドアを開けて右側手前の角に、覘き穴が開いていたことが分かった。塞いだら、また開けられていた。この件はミシェルには伝えていなかった。

 貴公子然とした多次元意識の存在然とした雰囲気でいることの多いミシェルには、あまりにも下世話過ぎると思い、話題にしたことがない。私のようなスカート姿の女子ならともかく、男子にはとても嫌な角度だろうと思われる。これはもう永遠に黙っていようと思う。

「まったくもう! 上階住人、どれだけ……。そんなだから夫が逃げ出したの?」 


 それから他にもある。ミシェルはだいぶ前から、どういうわけか、入浴するときには着替えをバスルームに持ち込み、入浴後もそこで着替えてから出て来るようになった。これは、直観で、この家があきらかな被害を受ける以前から、その様にしたい何かを察知していたのだろうと思う。

 10月末、11時を回ってそろそろ就寝の準備をと思い、着替えのパジャマを持ってバスルームに向かった。そのとき天井上から、

「来たっ!」

という床下の帝王の声がした。

「脱衣所にも覗き穴があったのね!」

何となく、そうかな、とは思っていたけれど、1~2ミリの隙間でも見える胃カメラを使用していることがこれで明確になった。

 来た、と言う声で、何かの企みを感じたけれど、この人物は起きている間中、何かしらの犯罪行為を我が家目がけて、行っているので、いちいちかまっていられない。毒の染み付いた家にいるうえ、今日もまた、いつものように新たな毒の反復暴露を被ってしまったのだから、シャワー程度は浴びておきたいと思った。しかし、今夜ばかりは、毒の強風をバスルームに送り込んでいたため、バスルームに入るなりクラッとした。

 夜陰に紛れ、自分の自宅402号室のバスルームの窓からステンレス製の蛇腹のガスホースの先を直角に曲げたものを、真下1,3メートルほどにある(換気扇はないけれど)換気口に差し入れ、その柵のような横棒のカバーの隙間から、毒液を噴霧したのだと思った。

 この換気扇のない換気扇大の穴には本来ならば換気扇が付く予定だったのではないだろうか。ガスを使用する場所には、たいてい換気扇が付いているものだと思う。建設工事の際に、換気扇を戸数分発注したものの、どこかに横流しでもされて立ち消えになったのだろうか、と首を捻りたくなる。ガスの排気口の真上に一つある小さな窓は、バスルームの内側に斜めに開くタイプであるため、排気が戻って来たりはしないだろうかと思うような造りだからなお更考えてしまう。ここにきちんと換気扇があれば、上階の住人に蛇腹ホースを突っ込まれることもなかった。

 あっという間に全身に毒液がついてしまったから洗い流さなければならなかった。きれいに洗い流して脱衣所に出たら、ここで再び毒液の霧を浴びせられた。バスタオルと着替えをバスルームに持ち込んで、2度の洗い直しをした。洗ったタオルに天井裏や床下から撒かれた毒物が付着していた場合にも、肌がヒリヒリして、2度シャワーで洗い直さなければならない。そのようなことは我が家では多い。このような馬鹿らしい体験は初めてだ。


 2018年10月下旬の今日この頃、いつ寝ているのだろうと不思議に思うほど、GOON! ZGAAANE! と、毒の噴射と、レーザー砲の発射に余念がない。真夜中も、1時間半間隔でそれを階下の私たちの部屋に送って来る。2時間として眠ってはいなさそうな期間が、1か月近くあった。それに久しぶりに3階の窓から遠目で見た床下の帝王は、少し痩せて見えた。床下で暗躍しやすいように、元夫のようにすっきりした体型を目指しているのかしら? と、私もまたずいぶんと能天気なことも考えたが、でも、もしかしたらこの床下の帝王は、

「覚せい剤もやっている?」 

 その疑問を何とはなしに抱えていた三日後、ミシェルが「屋久島近海で白い粉が発覚!」というニュースをインターネット上で見たことを教えてくれた。

 以前は和歌山カレー事件の真澄容疑者似かなと思っていた上階の人物は、近頃再び目にしたのだが、化粧品を変えたせいなのか「オウム真理教の直子」という人にも似ている感じに思えてきていた。

 これはその白い覚せい剤によって、まとまって眠りもしないで犯行を続けて痩せ、化粧品も変えたのかもしれない、と思った。

 一端のキャリアウーマン気分で、こんなことをしているのかと思うと哀れを感じる。


 そういえば、ふたりの子供たちが床下の帝王を「マパ!」と呼んでいる声もそのころ聴いた。ママとパパの兼用だろう。この二人分の親の決意を、何かもっと屋久島と、大きく言えば、世界が明るくなることに使えないものかと、陰ながら思ったものだ。

 上の男の子や犯人グループの子供たちは、親が悪を行っていることを解っているようだ。遊んでいるときも、道を歩いているときも何かオドオドしている。かわいそうでならない。もういっそのこと、犯人グループのみんなで自首して、何もかもを白状し、刑期が軽くなるように気持ちも明るく軽くしたらどうだろうと思う。子供たちの毎日が、明るく爽やかになるよう気を配ってあげては、と思う。日本人とか中国人とか狭い考えで生きている人は減ってきているのだし、祖父祖母の罪を、引き摺ってますます罪を増やし、さらに第4世代に重石を肩代わりさせるのは、見ていて切ない。E‐3棟402号室の自分の娘を、この悪の道に誘った母親もひどい。

 更に、「白い粉」まで手渡して犯罪を続けさせる日当10000円の雇い主、徳○会屋○島病院も悪だ。


   *


 話は変わるけれど、我が家は二人とものスピリットであるハイヤーセルフ同士が、宇宙のビッグバン直後からの宇宙ファミリーであるため、阿吽≪あうん≫の呼吸で透知能力が発揮される。

「ナイス、ミシェル!」

と思ったことも一度や二度ではない。

 屋久島に存在する様々な毒が、各家庭などから洗濯の度に川や海に流されていく。私は、魚たちが屋久島に寄り付かなくなるのではないだろうかと、心配した。調べたら、屋久島で一番水揚げされるのはトビウオらしい。ミシェルが、

「トビウオは内臓が少ないのだってね」

と、何気なく教えてくれた。それなら、毒が含まれた海水も素通しで排泄されるのかと、トビウオにはよかったと思った。でもほかの魚は、やはり屋久島近海には近づきにくいだろうか? 今も少し心配だ。

「白い粉(覚せい剤)が屋久島の海で発見された」

というインターネットでのニュースもそうだった。いいタイミングで教えてくれた。悪いおんなのことは、胸が悪くなりそうで、ほとんど話題に上らない。覚せい剤疑惑のことも一言も話していなかったにもかかわらず教えてくれたので、ミシェルはシャーマンだと思った。


 昔、卑弥呼とひとりの男は、男が卑弥呼の用事を含めていろいろ活動していた。我が家は今は、その逆である。アニメで分かりやすく、またはオタッキーに説明すると、アニメのキャラクターにうまるちゃんという、外ではキラキラの美少女、家の中ではラフな着ぐるみに身を包み、ポテチとコーラが大好きなゲーマーがいる。

 着ぐるみは着ていないが、天然の炭酸水とシンプルなポテトチップスが好きなミシェルがうまるちゃんだ。いそいそテキパキと用事をこなすのがウマルちゃんのお兄ちゃん。メアリー、私はお兄ちゃん役だ。見た目で言うなら、そのまま、180センチ近いミシェルがお兄ちゃん、小学生か中学生に見えると言われるメアリーがキラキラのウマルちゃんでもいいのに、と思う。


 この様になった経緯≪いきさつ≫は、平和な日々の暮らしが戻ったときにでも、この『いちばん東の西のエデン』の執筆で多忙のため、中断中の『DOOL'S』に書きくわえておこうと思う。そういえば、いくつかあるUSBの中の、『DOOL'S』の原稿文だけが文字化けになっている。一体いつ、こんなことをされてしまっていたのだろう? 私がある大企業で働いていた頃のエピソードがほんの数章と、他はすべて、壮大な宇宙的規模の話であるのに、何が気に入らないのか? と不思議に思う。


 ミシェルは、長身の黒髪のロングヘアーである。白魚のような指の持ち主で、発光体? と思うほど透き通った感じの白い肌をしている。こんな人に毒の処理をさせるのは気が引ける。それで私が、せっせと今日も掃除に励んでいる。

 この関係を均等に均してくれるのは、2000年前に、私の夫だったイエスであり、私とイエスのふたりの子供だった、今はミシェルを演じているウイリアムの父(イエス)でもあったエスターである、とハイヤーセルフでマザーシップ上の夫でもあるサナンダから聞いている。


       *


 振り返ると、不審な物音が気になりだした頃、家の中の点検をしてみた。2か所ある押入れの天袋に、天井裏に続くベニヤ板があり、小型換気扇の取り付け口程度の正方形の穴が開いている。これも、とても気になった。それというのもずいぶん前に、左右の肩関節を外して換気扇の穴を潜り抜ける小柄な男性の様子を、テレビで見たことがあるからだ。

「ここから階上の人物が潜入してきたりはしないだろうか。床下に潜り込むことに慣れっこな人物なのだ」

 そこで急いで天袋にいろいろ詰め込み、何かあれば音がして隠密行動は出来ないようにしておいた。

 そういえば、団地建物の敷地で見かけた男性は皆どういうわけか小柄だ。

 

 この物語の『いちばん東の西のエデン・2』にも書いたように、2018年5月から9月の初め頃までは、手を変え品を変え犯罪行為をしてきた。一番初めに警察に電話した時には、マイクロ波とフロンガスの二重苦だった。調理の時間を狙ってフロンガスを天井板の隙間、天井と壁のつなぎ部分から多分、看板屋や画家が使うようなコンプレッサーで送り込んでいるのではと思う。または排気ダクトなのか? 


 ある日の午後、調理にコンロやオーブンを使っているとき急激に酸素が不足してきて、

「これは!? いったい私に何が起きているの?」

と、初めて体験した息苦しさに慌てつつ、窓を開けた。が、その時、

「あ~! あ~」

と残念がるささやき声が、キッチン廊下側の居間との境目あたりの一角隅、その天井裏つまり402号室の床下部分あたりから聞こえた。


「殺したかったの?」

と思った。この時が警察に電話をかけた2度目だった。





**************************************

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る