おお勇者よ、失恋するとは情けない

エミヤ

プロローグ

伝説と失恋

 魔物たちの主――魔王。それは圧倒的な力を持った怪物だった。


 魔王の存在は魔物たちにとっては救世主。人類にとってはこれ以上ないほどに明確な敵だった。


 元より人類と魔物は相容れぬ存在。二つの種族が戦争を始めるのは、当然の帰結だろう。


 しかし人間は能力面において魔物たちに遥かに劣っていたため、戦況は人類にとってとても不利なものとなった。


 このままでは人類は魔物に滅ぼされてしまう。


 誰もがそんな絶望を抱きかけた時、一つの奇跡が起こった。


 それは勇者の誕生。神が作りし聖剣に選ばれた最強の存在が生まれたのだ。


 勇者の力は凄まじいものだった。彼が聖剣を振るえば、千を越える魔物の軍勢はただの肉塊へと成り下がり、魔法を行使すれば塵一つ残さない。


 最強の称号を持つに相応しい、人類最後の希望。誰もが彼に期待を寄せた。


 勇者は人類の希望を背負い、数多の戦場を駆け抜けた。


 そして最後には、魔王討伐という歴史に残る偉業を成し遂げた。


 こうして人類は魔物との戦争に勝利。再び平和が訪れることとなるのだった。






 ――魔王討伐より一ヶ月後。


「ずっと好きだった! 俺と結婚してくれ、リーシャ!」


 ヴァンギス大陸一の大国、ブリュンデ王国王都の王城にて。魔王討伐を果たしたことを祝して行われたパーティーの場で、俺――勇者レオンは一世一代の告白をした。 


 お相手は共に魔王討伐を果たした仲間のリーシャ。頭に可愛らしい耳を生やした獣人の少女だ。


 ずっと前から好きだったが、流石に魔王討伐を果たす前に告白というのは難しいものがあったため、今日までは我慢してきた。


 しかし魔王討伐という大義を成した今となっては、俺の愛を阻むものは何もない。


だから今日この日、俺は魔王と戦う以上の覚悟で告白をしたのだが、


「バ、バカじゃないの!? 私のことが好きですって!? 冗談はよしなさいよ! 私はあんたのことなんか好きじゃないんだからああああああああ!」


 頬をトマトのように真っ赤に染めたリーシャの獣の咆哮にも似た叫びが、パーティー会場を震わせる。


 そして次に訪れたのは圧倒的な静寂と――俺への憐れみに満ちた会場内の人々の視線だった。


 ――こうして俺は初めての告白による高揚感と失恋の痛みを同時に味わうこととなるのだった。

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