6話 魔王の日常

 ハルトの極魔術きわみまじゅつの正体が分かり、学院の生徒達はたちまちハルトを褒め称えた。


 ーーーーーーーーなどということはなかった。


 まず第一に、ハルトの極魔術きわみまじゅつは詳細の確認のすべがない。


 あらゆる魔術が発動する故に相殺し合い何も起こらない魔術。


 それはハルトの魔素を目視する体質があって初めて証明できる。


 しかしながら、ハルトの体質はそれ自体が疑われているのだ。


 極魔術きわみまじゅつ、『無限の幻影スキルオーバー』はその名前を認められこそしても、魔術の効果が学院で認められる事はなかった。



 次に、『無限の幻影スキルオーバー』の二次的な効果が、ハルトに対する印象を決めてしまった。


 ハルト達は『魔術の先行権』の魔術理論を発表し、それを『無限の幻影スキルオーバー』を用いて実践して見せた。


 その結果、ハルトの極魔術は「魔術の発動を邪魔する陰湿で得体の知れない魔術」という印象を与えてしまった。


 結果として、ハルトは「他人の魔術の邪魔をする陰険な人物」というレッテルを貼られ、ハルトは以前と同じかそれ以上に生徒達から邪険にされる事となってしまった。



 最後に、ハルト自身が普通の魔術を一切使えなくなってしまった事も、生徒達からの低評価に大きく関わっている。


 現在、ハルトは『無限の幻影スキルオーバー』を自在に操ることができていないと言える。


 通常の魔術を発動しようとすると同時に『無限の幻影スキルオーバー』も発動してしまうのだ。


 そのため、『魔術の先行権』により、『無限の幻影スキルオーバー』が先に発動したと見なされ、ハルトがどんな魔術を発動させようとしても、『無限の幻影スキルオーバー』に掻き消されてしまうのだ。



 以上の理由から、ハルト=キルクスは学院の中で出来損ないの魔王の烙印を押され、褒め称えられるどころか、評価が最悪になってしまったのだ。


 しかし、ハルトのことをちゃんと評価してくれる人間もいる。


「だから!ハルトは私と一緒に魔術研究をするの!」


 マナがハルトの腕をぐいっと引き寄せる。


「エシャロット先輩ばっかりずるいです〜!私だって、ハルト君に手伝って欲しいことがあるんです〜!」


 サラが反対側からハルトの腕を引っ張る。


 この様子だけ見れば綺麗な女性2人に奪い合いをされている様にも見えるが、これはそんな色気のあるものではない。


「手伝って欲しいことって何?」


 ハルトはサラに尋ねる。


 元々はマナとの魔術研究が先に予定に入っていた。


 自分の『無限の幻影スキルオーバー』を解明してからというものの、ハルトは魔術に関わるのが楽しくて楽しくてしょうがなかった。


 だから、今もマナと一緒に魔術の研究をしようとしていたのだが。


 同じ魔王である少女、サラ=ハルクサトリ。


 彼女からの用件と言われると、気にならないと言えば嘘になる。



 サラは元気に話し出す。


「はい!用件というのはですね〜!」


 その用件は、ハルトにとっては意外なものだった。


「警戒区域で、魔獣の捕獲に協力して欲しいのです〜!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る