二話
この世界には三つの禁じられた行為がある。
それらを行う者は世界の秩序を乱す者として、その身の自由を奪われる。
此処で言う自由とは命だ。
奪われ方はその度に違う。
ある男は人も獣も居ない大地に釘付けにされ数十年を過ごしやがて体から芽が生え大木となった。
ある美少女は目に写しただけで吐き気がするような醜悪な男の家畜となり身も心も隅々まで汚され続けた。
またある女は両目を鳥の餌とされ抉り食われ足を狼、手を狐、胴を虎、胸を猿、頭を魚に………。
この物語のページを開く君も心して聞いて欲しい。
決して禁忌に逆らってはいけない。
これは禁忌の重さを知らない、星に心奪われた少年の物語。
「−−−−タ、−−−−−ナタ!!もう、早く起きてよ〜〜〜」
眠り。
それは色も音も匂いもない世界。
自分に
この世で生命を持つ者は皆消耗した生命力を回復、リセットする度そこを訪れる。
「ねぇ、ねぇってば!……もう次リンクスの番だよ?次がイオリでその次カナタなんだよぉ〜。この授業当てられるのわかってたのに、もう知らないからね」
今日は珍しく精神が揺らぐ。
音も聞こえる。
これはもしや禁き、
『禁忌だ!!!!!』
「ウヒャァァオぁおぁおぁぁぁああ!!」
本日二度目のリセットタイムを中断する大声に驚き机と椅子をひっくり返して立ち上がる。
まるで婚期を逃し、昇進の機会を逃し、毛髪までも逃した三重苦を背負ったような中年男性の声だった。
「おお、カナタ君。カナタ・アキヅキ君!今が何の時間かわかっているかね?えぇ!?」
エビみたいな口臭と年季の入った唾液を撒き散らしてる小太りの焦げパンが少年の前に立っていた。
握りしめたチョークにはヒビが入り、頭皮の脂がプチプチと跳ねそうな程の熱気を帯びている。
そう、目の前の男は怒っているのだ。
「あ、あはは、ミスター・エノキド。………
いい天気ですね!!」
わっはっは、と周囲が湧き教員エノキドの顔面はついに真っ赤になった。
「ああ、いい天気だな……。テメェの頭はいつでもいいお天気だろうな!!!今学期に入って何度目だナメやがって!!」
「一、二、三………五回目!!そう、十回勝負なら先生リーチ!負けないぞっ」
「七回目だ阿保!!!!!ああ、ワシの勝ちだ今日こそ縛り上げて説教してやる!!!」
大抵の女子なら落ちる爽やかウインクをキメたにも関わらず、寧ろ逆鱗に触れていた様で胸ぐらを掴まれ持ち上げられるカナタ少年。
少ない人生の内、数十回目のピンチ。
「やだなー先生、わかってますって冗談冗談。うわ臭っ、体ちゃんと洗ってます??冗談ですって。あはははは、………僕ちょっと急用思い出したんで散歩行ってきます!!!」
両手を万歳する様に上げて服を脱ぎエノキドから逃れると慌てて教室を出て行くカナタ。
「ちょっとカナタ!!どこ行くのよ!?」
「ちょっと走ってくる!!アカネ、次の天文学の授業ノートよろしく!!イオリ、俺の鞄頼んだ!中のへぎそばパン食っていいから〜〜〜!!」
授業時間中の静かな廊下を叫びながら走り去っていく。
教室は一瞬静まるも、次第にワハワハと笑い声が上がった。
「ええぃ、あの小僧め。もういい!!お前達、授業を再開する!!オオマエダ、次読め」
「はい!」
「イオリ・ヤクモ!あの阿保の席戻してやれ。それと荷物も。…へぎそばパンは後で食えよ」
「はーい」
笑いの止まない教室は生徒二人を除いていつもの様に時を進める。
一人の女子生徒は溜息を吐き、倍速で二人分のノートをとる。
「あのバカ。感謝しなさいよね……もう」
走り書きしながらも字は綺麗で、読み易く分かりやすい書き方。
少女の心の優しさと苦労がノートを彩っていた。
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