転生して魔王を倒したけど、クズが多すぎるので復讐代行屋をやります。by必殺勇者

@daimonji2019

プロローグ

暗い広間、中央には巨大な玉座が据えられている。

玉座の前には10メートルはあろうかという巨大な鎧を着こんだ怪物が立ち、目の前には1人の人間が対峙している。


「この魔王ベリアスの前まで来たことを褒めてやろう。しかし我にはいかなる攻撃も効かぬぞ。この暁闇の鎧がある以上貴様には…」


ズンッ


「あ 話してる途中にごめんなさい。ちょっと早めに帰りたいので、腕もらいました」


魔王は目の前にいたはずの小さな人間の男が、いつの間にか背後に回っていることにその言葉で気づいた。

男が頭の上に掲げるように持っているのは、間違いなく魔王自身の左腕だった。


「んなッ!?馬鹿な!うぐ!」


そこまで言ってようやく腕をもぎ取られた痛みに気づいたようだ。


「く…どんな手を使ってこの鎧の力を…」


「どんなって 右手ですけど…」


「そういうことじゃなくて…うぅ おのれぇ…死ねぇ!」


魔王は男の3倍はあろうかという剣を残った右手で振りかぶりその巨体に似つかわしくないスピードで突進しながら剣を振り下ろした。


ドォン


何かが爆発したかのような衝撃音。


人間の男は微動だにせず、そこに立っている。


「あ 床が割れちゃった…」


魔王の剣は男の肩と首の付け根あたりで止まっていた。

男の言葉どおりその衝撃が足から床に伝わり10センチほどめり込んでいる。


男が不意に魔王の剣を下から左手で振り払う動作を行う。


金属がはじける甲高い音と共に魔王の剣が中ほどから折れた。


「ぬおお!剛魂の剣がぁあああああ!こぉの下等せいぶっふぅーー!」


言い終わる前に男の拳が魔王の腹をとらえた。

その威力で魔王の身体は後方に吹っ飛ぶ。


広間の壁に激突し部屋全体が激しく振動する。


「あ 強すぎましたよね…ごめんなさい。どんどん部屋が壊れちゃいますね」


男は心底すまなそうな表情をしながら魔王に謝っている。


「くふふふふ…なるほど ただの人間ではないようだな…面白い!我の力を見せてやろう!」


うずくまるようにして魔王は力を溜めだした。


「ぐうううううううおおおおおおおおおぉ」


咆哮と共に魔王の身体がドンドンと膨れ上がり鎧がはじけ飛ぶ。

天井を突き破りさらに大きくなっていく。

体の形も変化し四足に上半身は人型 羽根と角が生え、異形の獣が現れた。


羽ばたき上空へと飛ぶと空に向かって叫ぶ


「炎の星よ 我が命によって降り注げ!この地を焼き尽くすのだ!」


爆発的な魔法力が発せられ天空へと昇っていく。

空の色が赤く染まる。

燃え盛る炎に包まれた星が現れ、地上めがけて落ちてくる。

実際の速さよりもゆっくりと感じる。それほどに大きい。


「ぐはははぁ…愚かな人間よ!貴様は我の真の力を引き出してしまったのだ!この大地は消えぬ炎で包まれ灼熱の地獄として、生きとし生けるものを苦しめ続けるのだ!この魔王にキズをつけた貴様の罪はそれほどに重い」


「えーっと どうやるんだっけな…」


男は空を見上げながら 両手を目の前で組み合わせようとしている。

魔法を使うときの『印』を結ぼうとしているようだった。


「いまさら 何の魔法を使おうというのだ!小さき人間よ わが秘術『恒星落下(マーズアタック)』は一度発動すれば止めようがないのだ 終わりだ!」


「あ こうだ!下級氷結魔法(アイスボール)!」


印を結んだ両手から莫大な魔法力が放出される。

一瞬で大気が凍り、無数の氷の塊が空中に出現する。

1つ1つの大きさが男が立つ魔王の城よりもはるかに大きい。

一斉に無数の氷塊が炎の星へと殺到する。


一瞬の静寂の後、空飛ぶ魔王よりもはるか上空で閃光が走る。

辺り一面が白い光に包まれたと同時に轟音が大地を震わせた。


「まさか そんな…あんな下級魔法で…」


空をおおっていた赤は閃光とともに消え去り、何事もなかったかのような青空に戻っていた。


魔王の驚愕の瞬間は短かった。

なぜなら、人間の男は閃光と轟音の中跳びあがり、背中に背負っていた剣を抜くと、落下しながら魔王をごくわずかな時間で数百回にわたり斬りつけた為だ。


1回斬りつけるたびに最強であるはずの異形の魔王の身体は分割されていく。

細切れになっていく間、魔王の目は小さな男の振るう剣を追っていた。

超高速で振られる剣の柄の先に小さな紙の札が紐で括り付けられてる。


そこには確かにこう書かれていた。


「銅の剣 8ゴールド」


その意味を理解した瞬間、男の剣は魔王の命を砕いたのだった。




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