雨と太陽と

ぼくは窓から

雨の街を眺める

この雨の降っているどこかに

きみがいる


なんて冷たい雫

傘をさしていても

きみの指先を滑り降ちる


ぼくはきみの

お気に入りの席に

ティーカップを届けよう

きみのすきな

ロイヤルミルクティー

きみのすきな

アガサ・クリスティ

きみはここでゆっくりした

時間をたのしむ


水曜日と日曜日

きみは雨が降ると

ぼくの店にやってくる

ぼくは口下手だから

特に何を言うわけでもなく

きみに居心地のいい場所を

提供したくて気を配る


雨が降るとぼくは

心を込めて

ミルクティーをいれる

きみにおいしいといってもらうために


ある日きみはぼくの店に

男と一緒にやってきた

ぼくはどうやら失恋したらしい

それでもおいしいミルクティーをいれる

きみがカップを口元に

運ぶ仕草を見るのが好きだから


きみは男と

話し込んでいたね

正直お世辞にも

幸せそうな会話には見えなかった


やがて男は一人で出て行った

きみたちは別れたのか

雨の降る景色を

窓から眺めながら

ぼくはもう一杯

ロイヤルミルクティーをいれた


ぼくにいえる精一杯

サービスです、と


きみはぼくを見て

ありがとう、と

柔らかく笑った


それからぼくたち

取り立てて進展はない

だけどきみは変わらず

ぼくの店にきてくれる

雨が降らなくても

水曜日と日曜日は

きみがやってくる


きみのお気に入りの席に

ロイヤルミルクティーと

アガサ・クリスティ


雨も悪くないとおもっていたけど

最近はやっぱり

陽の光を背にして

入口に立つきみを

眩しく感じるのが好きなんだ




190611






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