#これが読めるか勇者よ -破-

新登場人物

<王子>やばい

{新勇者}ヤバイ


1


[やれ、突然であるな…何故に我等が集められた?]*


[さぁ…王子が極秘に会議をするという話でして]


[ははん、さては、次の王位について先手を打つおつもりかな?]


[まぁ、現王は残り3日の御命と決まりましたからな、惜しい方を亡くした]*


[これ、大声で話すものでは無い!]


[急造勇者の失敗で既に失態を犯したのだ。丁度良い退位であろう?]


2


[皆様、王子が]


<皆の者、忙しい最中申し訳無い。非常事態について御相談したい件があってな>*


[おお、王子。して、やはり]


<うむ。魔王に放った切札が、なんのプレイミスか、相手の山札に紛れたのでな>*


[最強の切札が、我等に突きつけられた、と]


<御理解が早い。故に、その対策として提案がある>


3


[ほう]


<万が一、あの怪物が我等に復讐の意志をもって来た時を考えましてな>*


[…そ、そんな事が御座いますので?]


<魔王は学ばせると言っておったであろう?真っ先に吹き込むやも知れんぞ?>*


[復讐を…ですか?]


<無知が仇になった…会話さえも封じておくべきだったと言うべきか>*


[た、確かに…

やはり卑しき者に、我等の教養知識など与えるとろくなことになりませんからな]*


4


<多少、我等の都合もあったからな…が、致命的にも会話で勇者は敵に囚われた>*


[くっ、最弱魔王め、卑怯なり!*]


[そうだ!そうだ!呪いしか能が無い臆病者め!]*


[今一度、あの卑怯卑劣極まる魔王に我々の正義の鉄槌を!]*


<…御静粛に。我等の感情や感想を言ったり聞いたりに来たのではない。

よいか?…御相談だ>*


[ひっ!?]*


[…は、申し訳ありません、その、王子…]*


<…違うな、私は…王子では無いぞ…>*


5


[は?そ、それは…まさか]


[王冠、王杖、そして王剣!?]


[おっ、お待ち下さい、よもや王子…いえ、あなたは!]


<略式ではあるが、この場に置いて今より王となる。異論は不要。時間の無駄だ>*


[そ、それは、聊か勝手が過ぎますぞ!?]


<おっと、ゲストも来た…御相談はこれで御終いだ。後は処分について報告しよう>*


6


[処分!?何を処分…]


<国を喰い潰し、臣下の分際で我が父王を殺そうとする、敗北主義者ども…

叛逆者どもめ>*


[は、はは、まさか…]


<丁度、都合よくその役目を果たす者も出来上がっておってな。略式処刑としよう>*


[ごっ、ご乱心だ!王子は狂われた!]


[衛兵!騎士!王子を、取り押さえろ!あの狂人を止めろ!]*


[傷付けても構わん!おい!誰か、誰かおらぬのか!?]*


7


<…遺言は聞いた。では、皆皆、善きあの世を。さぁ、あれがキミの敵だ…>*


{■■■!!!!!!!}


<存分に遊びなさい、踊りなさい、姫、キミはいい子だ…>*


[ひっ!?な、なんだ、そのばけもッ]*


{■ッ!!!}


[ひぎゃっ!?]


{■!!■!!!}


[ぷぎゃっ!?]


{■■■■!!!■!!!}


[がっ]


{■■!■■!♪}


8


[お、王子、お助けッギュ!?]*


<王だと言っただろうに…。

ああ、姫、なんと素敵な…音楽に合わせて、華麗に舞っておる…>*


[ヒュー…ヒュー]


<まだ生きてましたか。

一撃必殺とするよう仕込んでいたのに…申し訳無い。心から詫びるよ>*


[ア…あ…く…ま…]*


<残された一族は、大事に生贄に致します。長らくの忠誠、感謝しますよ>*


[ヒュッ…ゴボッ]


{■♪■♪■♪}


<おお…!姫、美しいぞ!>*


9


{■■!♪}


<…ああ。

お前こそが最強の切札、愛おしい我が勝利の姫、真の勇者…とても素敵だ!>*


{■…■■♪}


<ああ、いい、何も言わなくてよい、何も考えなくてもよい。

キミはいい子だからね>*


{♪}


<僕だけの最強の勇者よ、さぁ、次の舞踏会まで御昼寝だ。さぁ、お手を>*


{■■~♪}


<あとは…散らかった臭い汚物を片付けよ、衛兵達よ。

勇者が聊か粗相した、済まぬな>*


[は…、はひっ!]*


[ややや、やべぇよ…なんだよ、あれ…]*


[馬鹿野郎、貴族の御付みたいになりたいのか!さっさと片付けろ!]*


10


「…こんなふわふわして、この軽くて…この服、好きだな、俺」


【気に入ったようで、とても嬉しいですわ】


「これも、えっと…」


【好きに呼んでしまって構いませんわよ?】


「えっと…じゃ、じゃぁ…その、か…かあさん…って言って…良い?」*


【…ヒュッ】*


「…あ、あれ…!?大丈夫!?ね、ねぇ!?」*


【シュコ-シュコー】*


11


「あああ、溶けてる!?」


【サイキドウ…失礼、一瞬、存在証明まで吹き飛びそうな…】


「ああ、良かった、かあさんがまた死んだら困る…」


【ブシュー…アー…】*


「ああああ、また溶けてる~!?」


【カタカタ…サイキドウ…失礼しました、もう大丈夫です】*


「えっと、その…いきなり呼んじゃってゴメン」


12


【良いのですよ、私は全ての命に受け止める器、そう呼ばれるのは嬉しいもの】


「そ、そう。よかった。で、でさ、この服も、その…かあさんの一部…なの?」


【レジスト、タエロ、ワタシ…セーフ…ええ、その通りですわよ】


「大丈夫なの?その、痛いとか…」


【お優しいのですね、あなたは】


13


「だって…俺も…体の一部を持っていかれたり、違うもの入れられたり…」


【……………大丈夫。殆どは私が取り除きましたわ。本当に優しい…あなたは】


「わっ、わわ、どうしたの、ぎゅっと…」


【あまりにいい子なので御褒美です。いい子には御褒美ですのよ】


「…えへへ、ごほうびって、好き…」


14


【その好きというのは、嬉しいともいいますのよ】


「うれ、しい…うれしいって、ほんとうは、こういうものだったんだ…」


【私もあなたに会えて嬉しいのですよ】


「えへへ、俺もかあさんに会えて、すげぇ嬉しい!」


【…さ、お散歩の続きを致しましょう。もう少ししたら休憩しましょう】


「うん」


15


「んー…王子やりおるな。まじか」


《ぎゃお?》


「先手打ちやがった。我、王子に手際のよさと決断力に拍手、敬意示しちゃう」


《ぎゃーお?》


「ま、今だけだ…どっちにしろ、あれ、ヤバイなぁ。

 完全に勇者以上の戦闘能力および対我対策上位互換じゃね?」


《ぎゃおー》


「…どーしよーかなー」


16


《ぎゃお!》


「お、見つけた?勇者から荷物一式取り上げたやつら。生きてる?」


《ぎゃーお…》


「だろーな。我が居城にある罠、知恵ありゃ必中必殺の呪術!無敵の罠!

 だったんだがなぁ…。

 あのごり押し勇者には意味をなさないとか、対策ガチすぎじゃ?」


《ぎゃおん》


「まー、別の対策にすっか」


17


《ぎゃおーぎゃお》


「ん、これか、呪術対策仕様の兜…。

 まー、被ってても、狂った味方にやられちゃ意味なかったな、あわれ」*


《ぎゃお!》


「…いかにもな、見た目だけの盾だな。装飾は凝ってるが、値打ちはないが…。

 これも、あいつの事だ、大金で買わされたやつだろうな」


《ぎゃおー》


「はぁー」


18


《ぎゃおぎゃお》


「んー…金目のものはそこそこ、か。どこかに預けているか、使い込んだか。

 とりあえず、先立つものは必要だからな、ま、役立てさせてもらおう。

 どうせ、勇者が稼いだ一部だろうし」


《ぎゃお》


「何せ、我、既に赤字なもんだからな…魔王も金欠はつらい」


《ぎゃおぎゃおー》


19


「さて、後はまずはあいつに何を学ばせるか…。

 それと、王子の奥の手に対する備え…やれ、問題は山積みか」*


《ぎゃおん》


【魔王様、戻りましたわ】


「ナイスタイミング。ここらの金目のもの、全部回収したい。お願いできるか?」


【御安い御用ですわ。あとの遺体は?】*


「あ、うん、お任せする。必要だろ?」*


20


【全ての命は私の子、骸となるとも、私は抱擁いたしましょう…。

 善き夢を、死せる子ら…】*


「…あいつには見せられんな」


【刺激が強いでしょうね】


「で、どう?何か記憶か残っているか?」


【…どれも、勇者を利用して魔王様との相討ちを狙う企み。

 その漁夫の利として財宝栄誉を目論んでいる欲深い思念。

 そして、理解し分かるが故に、防ぎようの無い罠への恐怖と絶望のみ…】*


21


「勇者に対する扱いはどいつも同じか。

 やれ、少しは同情しているやつがいりゃ、ちっと面白い事もできるのだが」


【相変わらず悪趣味ですこと】


「ちげーますー。勇者について勇者本人以外の貴重な話を探りたかっただけですー」


【頭だけ修復して、生きている首状態で聞き出すおつもりでしょう?】


22


「おーっと、これ以上はいけない!こんなの、あいつには聞かせられん。

 何が切っ掛けで、暴走されるか、今のところ分からんのでな」


【…やはり、何か仕込まれておりまして?】


「たとえ拠点統率サーバントさんの治療でも、治せない…手を出せない。

 いや、根本的に治してはいけない部分ってあるよね?」:*


【…そこに、まさか?】


23


「…術あたりで直接探ろうにも、ピンポイントに罠が仕掛けられていそうでな。

 ちょっとした魔力による干渉が引き金で、最終暴走のスイッチ、では流石にな」*


【脳、そのもの…に】


「手を出さなかったのは正解。常に魔力を帯びたあなたが懸命でよかった。

 恐らく、直接物理的に、仕込まれた罠を引っこ抜く必要がある」*


【となると…外科手術を?】


24


「我的には、出来ればその道のプロを探したい。

 そうだな、腕は神の領域と言われるが、若いか出が低いために冷遇されてて。

 で、何かに恨みを持っていて、大金を積めばやってくれる凄腕がいればなー」*


【都合良くそんな方、いますでしょうか…? 

 おとぎ話や、絵本のお話にはいそうですが…】*


「だよなぁー」


25


【…もしかして、私に、そんな子をつくれ、と申しませんわよね?】


「過去から保存している遺体情報から上手いこと構築してくれるかなー?

 …って、我、期待しておるのですがー」*


【ダメです。絶対にダメです。それだけは命への冒涜です。

 私の存在意義に反します】


「…勇者を呪縛から救えるとしても?」


26


【…っ!】


「…いや、流石に、我が悪いな、今のは。

 脅迫、そして侮辱であった。大地の女王よ、怒りあらば、我が首を捧げる。

 許しあらば、今夜の晩御飯は我、我慢する…」


【……ァ…!……ッ…!………いえ、晩御飯は食べて頂きます。

 首は不要。ただし今の言葉、二度は即刻、首を頂きます…たとえ魔王といえど】*


27


「おーい!まお…じゃなくて、がくゆー!おかーさーん!どこー?」


《ぎゃお!》


「お、いた!俺だけ一人にしないでよな、もう!」


【あら、これはごめんなさい。魔王様が意地悪するので】


「ちょ、我が原因!?」


「たくっ、困らせるなよな!」


【ほんと、まったく】


「ちょ、待ぁーてぇーよぉ!?」*


28


《ぎゃっ、ぎゃっ♪》


「精霊獣、お前もか…!我、孤立!つらい!」


「ぷっ、魔王、子供みたい」


【ええ、年を取ってもまだまだお子様なところが…】


「かあさんも、大変だな」


【これが私のお仕事ですもの】


「…いつの間にかあさん呼び…?」


「さっき、ねー?」


【ええ、そうねー】


29


「ほんと、仲良し親子かよ…世にはこれがトートイというやつか?」


「トートイ?」


「尊い。まぁ、あれだ、見るだけで幸せになれる、というやつかね」


【尊い…わかる】


「って、溶けてますよ拠点統率サーバントさん!」


「か、かあさん、しっかり!」


【ハートートイ…と、失礼致しましたわ…】


30


「しかし…ほんと、こんなのが、勇者ねぇ…」*


「こんな、って何だよ…」


「いや、なに、我の事を倒す!って言っていた、同一人物なのかねぇ、てな」


「そ、それはっ…その、あの」*


「いいさ、勇者と魔王、それは王道にして必然、いつしかは…。

 ま、それは後々でいいか」*


「??…まーたよく分からないことを」*


「はは、気にしなーい」*


31


「…そういや、思い出した、のだけど」


「ふむ?」


「これをよめるか、って聞いてきたよな?

 あれ、何が…その、とんな言葉なんだ」


「それは…」


「それは…?」


《ぎゃぉー…?》


「…それは、学んでからのお楽しみ、で!」


「えー!?おしえろよー!」


「知りたければ、学んで自分で読め」


32


「けちー」


《ぎゃおー》


「文字を明日からみっちり学ぶぞ。

 一つ一つ、しっかりとな。ま、我は既に知っておるので楽勝であるがなー」


「なんかずりぃなー。てか、俺に、文字なんて、分かるかな…」


【大丈夫です、あなたなら出来ますわ。善い子ですもの】


「そうかな?」


【ええ、善き善き子♪】


33


「さ、そろそろ夕方、我は久々の肉体労働で空腹、さー皆で晩餐といこう!」


「飯!食べる!かあさんの!」


【ふふ、ご飯は逃げませんよ。さ、行きましょう】


《ぎゃおぎゃおー♪》


「お前も楽しみか!俺も楽しみ!」


「…あぁ、楽しみ、だなぁ」


【…魔王様?】


「大丈夫、まだ大丈夫だ」


34


【…その、なにか】


「かーさん!はーやーく!」


「呼んでおるぞ、気にせず先に」


【わかりました。では、お待ちしております】


「ちょっと用事を思い出した。それを終わらせてから卓に向かう。

 先に食べてもよいぞ。精霊獣は少し用がある、残ってくれ」*


《ぎゃう?》*


【では…】


「うむ。楽しみだな、久々に楽しい晩餐の予感は。では…やるか」


35


《ぎゃお!》*


「精霊獣、しばし翼の封を解く。その背に我を乗せ、天を行け!」


《ぎゃっ…!GYAOOOOOOOOOO…!!!!!》


「ふむ、やはりその姿も良い、我には勿体無い位の雄姿!」


《GYO-GYOOOO-OOOO!!!》


「では、ひと仕事。

 今の所、一番勇者の事を知っている人物は、あれ、しかおらぬな…」*


36


「…?今、何か飛んでった?」


【魔王様が御用事を思い出したそうで、精霊獣と共にお出かけです】


「これからご飯なのに?」


【ええ。ですので少し、待つ事になります、ごめんなさいね】


「かーさんは悪くないもん。

 まったく…もう、あんまり待たないからなー!」


【…では、準備しましょうか】


37


[城の方で何か騒ぎがあったそうだな]


[大貴族の一派が粛清された…とのことだ]


[誰がそれを?王か?]


[王子…いや、今日から新国王であられるな]


[継承の義は?]


[省略したというぞ]


[…文句を言う大貴族が粛清されていない以上は…。

ま、誰も反対できんな]*


[我々兵士は従うまでさ]


[そうだな。明日の飯と命]*


38


[…ッ!?]


[どうした?]


[なんか、すっげぇ耳に痛いほどの音が…耳鳴りみたいに…]


[オレもだ…何だ、この…ざわつく…つんざくような…]


[あっちの方から聞こえ]


GYAAAAA-OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO-OOOOOOOOO


[!?!?!?]


[?!?!?!]


OOOOOOOOOOOOOOO------


39


[   !   ?  !]


[!  ?   ! ! ?]


AAAAAOOOOOOOOOOOOOOO---


「我 も 耳 が 死 ぬ ! ! !」


GAAAAAAAA-OOOOAAAAAAAAA-


「分 か っ た か ら も う 叫 ば な い で ! !

 再 封 ! !」


《AA…ぎゃお…?》


40


「…わー…周囲の皆さん、とんでもない事になってるわ…。

 スマヌ、モブども…我、罪悪感、今だけ」*


《ぎゃー?》


「ま、結果オーライ、ということで…さっさと目的を果たしますかな」


《ぎゃおぎゃお》


「んー…こっちの方かな?精霊獣、待機せよ」


《ぎゃおっ!》


「ということで…突撃!隣の王寝床!邪魔するぜ~!」


41


[…ハァ…カユ…]


「どもー、王、というか前王、我、参上…って、えらい惨状で…」


[タスケ…カユイ…]


「地味な呪いとは言え、流石に陰湿極まれり、我、反省。

 次は加減注意しないと」


[ア…アア…カユイ…]


「…解呪、前王よ、汝は罰から赦されたり」


[…か…痒く…な…い…?]


「ども、前王」


42


[魔王…?]


「そうとも、我こそは最弱にして呪術特化の災厄の魔王。

 こうして対面するのは初めてかな?」


[…私を直接殺しに来たか]


「残念ながら、あんたには利用価値がある。といっても、その頭に」


[…兵は…騎士は…おらぬか。誰も来る気配が無いのぅ…]


「う、うん、そそそ、ま、まぁ、そ、そこは対策済みであるし」*


43


[…朧げながら、私は王の座を外され、責任を負わされたまま処分…。

病死と言う形になると…聞いておったわぃ]


「…お気持ち、お察ししますわな。

 あんたの息子、それを決めた奴等処分して、ちゃっかり王位についてるし」


[あやつが…か。大人しそうな顔しおって…。

流石、天晴れ、それでこそ王族じゃよ]


44


「で、だ。貴族や王子としては、恐らくあんたは…。

 我が呪いの影響下で衰弱して、ひっそりと死ぬ…予定だった」*


[魔王、お主が今、私の呪いを解いた事、私の頭…。

つまり、情報に興味がある、で、よいかの?それが原因で状況が変わった]*


「御明察で助かるよ、前王。ちっとばかし、我、困ってんのよ。勇者の事で」


45


[勇者は殺されておらんかったのか…そうか…]


「まぁね。兎に角、勇者に対して責任を取ってもらいたくてな」


[私に?…単に首を差し出せと?]


「…それをやるかはあいつに任せる。

 我は我で、協力を願いたい。その頭の中身、にな」


[…拒否して、自死する、と言ったら?]


「呪いで強制拘束する」


46


[いや、都合がよい…私も、少しばかり、勇者に一言…。

そう、死ぬ前に言っておきたい事があった…]*


「ほう?」


[どうせ死ぬ予定にされた存在不要の身、好きにせい]


「では、我が居城まで御案内を、御隠居」


[…血塗れ、傷だらけで、失礼する]


「精霊獣、来い。一人、滅多に無い賓客をお連れするぞ。

 粗相の無いように…封印の翼、解放!」*


47


GYA-OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO-OAAAAAAA


「一気に天を喰いちぎれ!万の路を駆け抜けろ!我が翼、精霊獣!」


[…これが、まことの、精霊獣の姿…]


「これに乗せた者の数はそう多くは無い。

 世界級の栄誉と思えよ、前王!」*


[死ぬ前によい土産となりそうじゃわい…]


GYAOOOOOOOOO!!!!


48


{■♪}


「げっ、やっぱ出た、か!

 精霊獣、まともにやりあうなよ!離脱優先!」


GAAAA-OOOOO-OAAA


{■■!■♪}


「我が呪いに溺れよ、汝は永遠の彫刻なり!」


{■■…???■!■♪}


「…やーな予感してたけど、やっぱりそうよなー!

 完全にガチ我対策じゃないですかー!やだー!」


49


[な!なんぞ!あのような存在は!?]*


「さぁな!化物じゃないかな!?我、大嫌い!

 で!喋ると舌を噛む!今から!超高速で!ものっそ揺れる!

 あと!酔うからな!エチケット袋は!自前で!シクヨロ!」*


[あいわかった!]*


{■!■!}


GYAOOOOOO-OOO!!!


「そのまま突き飛ばせ!

 精霊獣、我が呪いを受けよ!

 汝は無限の自由天空なり!」


GYA-O


50


[     ?!       ?]


「      !  !!」


{       !?    ■     ♪      !}*


GGGGGYYYYYYYYOOOOOOOOOOOOOOOOOO


{! ?   ■   … ■ … ■}


<我が姫よ、惜しかったな>


{!■…■}


<気に病む事は無い>


51


{♪♪♪}


<これでキミは魔王に一切干渉される事はない事が証明された。

それに無知勇者…知恵無き怪物はキミの下位互換、なんの心配もいらない。

キミこそが最強の勇者、真の勇者、出来損ないとは違う…

そう、僕だけの美しき姫>*


{♪!■♪■!♪}*


<ふふ…。しかし、父上を連れて行くとは思わなかったな…困った。

魔王の呪いの研究材料が減ってしまったぞ>*


52


{?■?}


<はは、大丈夫だ。

どうせ化物に復讐を果たさせるために持って行ったのだろう。

こちらとしては都合が悪い事でもあるまい。

処分を魔王側でやってくれるなら、こちらも大義名分がたつものだ>


{■?■♪}


<ああ、キミは優しいね、心配してくれるのか。

やはり僕だけの姫、理想の勇者だよ…>


53


「うーーーっす、ただいまんさー」


《ぎゃおー》


【お帰りなさいませ、魔王様、精霊獣…】


「遅いぞー!もう食ってるぞ!」


「げぇ、残ってる?あ、お客さん連れてきた」


【!…そちらは…王?】


[みすぼらしい姿で失礼する。

そしてもはや王位を奪われたただの老人じゃ]


「…お、おうさま!?」


54


[…その姿…やはり…可愛い童だっだの…勇者…]*


「おうさま、その傷…」


[報いじゃよ…勇者。

お主が受けた数々の行為に仕打ちに比べれば…]*


【…あ、あの】


「…話をさせてやれ、拠点統率サーバント」


[すまぬ…ではすまないな。

全て失った老い耄れであるが、お主に、この首を差し出しに来た]*


「な、なんで…?」


55


【…勇者、あなたは手を汚す必要はありません。代わりに…】


「黙れ、拠点統率サーバント。我は命じる、沈黙せよ」


【しかし】


「黙れ」*


【………はい】*


[…全ては私の浅き知恵、焦り。

また貴族どもを御しきれなかった無能、無力さ…。

それが勇者、お主を苦しめた。ゆえに、お主は私を裁く権利がある。

如何なる罪、刑にも従おう…お主の望みのままに]*


56


「おうさま…その、すごく、きっと大事な事を言っている…。

 と、思うんだけど…俺、殆ど、よく分からなくて…ごめん…なさい」


[…!]


「俺は元々…頭悪いみたいだし…。

 おうさまの言った事の半分も分からない」*


[…っ!?]


「ごめんなさい、おうさま。

 俺、これから沢山、勉強して、学んで…。

 そうすれば、今の言葉、意味が分かるかもしれない…」*


[…な…なんてことを…私は]*


57


「おうさま…?」


[すまぬ…私は…本当に…本当に…!

とんでもない…とんでもない…過ちを…!]*


「どうしたのさ、おうさま!?傷が痛いの?

 ね、ねぇ、かあさん、どうしたらいいの!?」


【…ッ】


「沈黙せよ」


【…はい】


[我が謝罪が届かぬ事になろうとは…。

なんたる…因果応報…私は最悪の行為を認めたのか…!]*


58


「おうさま!ねぇ!どうして泣くのさ!?

 おうさまは、俺の事、あんなに喜んでくれていたのに。

 俺は…駄目だったの?魔王に勝てなかったから?」*


[勇者、そうではない…!

そうではないのだ…私はお前を裏切り続けた。

童たるお主に!苦痛をあれ程負わせ、幼い日々を台無しにした。

幸せある尊き一生を使い潰した!私こそが…災厄の魔王じゃ…!]*


59


「…おうさま…」


[今更、謝った所で全てが元に戻る訳が無い…。

勇者よ、討つべき魔王は私だ。

お主が倒すべき悪たるは私だ…私は何でも受け入れる…]*


「ねぇ、かあさん、魔王…」


【…!】


「…良い、よく耐えた。

 拠点統率サーバント、沈黙を解除する」


【あ…ありがとう御座います、魔王様…】


60


「かあさん、どうしよう…」


【王は…あなたにあやまりたい。

 どうすれば許してもらえるか、と言いたいのです】


「…あやまる…?どうして…」


【あなたが受けた辛い事、痛い事、嫌な事…。

 人は、それに憤り、怒り、憎しみとしてぶつける。

 それが普通なのです…しかし、あなたはそれさえも学べていない…】*


61


[大罪じゃ…魂まで磨り潰されても、致し方あるまい…]


【王よ、あなたに対する私個人の怒りはあります。

 ですが、私は全ての命が生きる為に尽くすあらゆる手段は…。

 やはり否定は出来ません…。勇者、あなたは王様を、どうしたい?】*


「…どうするって…」


【では、王様に何をしてあげたい?】


[…なんと!?]


62


「あ、それなら…傷の手当、してあげたい!」


[…っ!]


「それから、それから…一緒に夕ご飯食べよう!

 おうさま!かあさんのごはんは美味しいよ!」


[あ…あぁ…私は…私は…]


「前王、いや哀れな老人よ。

 我が呪い以上に、恐ろしい拷問の時間が始まるぞ。

 勇者の望む通り、せいぜい死ぬまで付き合うのだな」*


63


[あああ…ぁ…おおおぉぉぉ…!おおおおぉぉ…!]


「おうさま、痛いの?大丈夫かあさんが治してくれるから。

 俺も治してもらったんだ!すごいよ!」


【…さ、王、先ずは此方へ】


[すまぬ…本当に…すまぬ…おおおぉぉぉ…!]


「…さて、我が我と王の夕ご飯を盛り付けるとするかな」


《ぎゃおっ♪》


64


「精霊獣、お前もあちらに行ってて良いぞ」


《ぎゃお~》


「…本当にいきおった。我、孤独なり」


【少し失礼】


「お、どしたん」


【こうなる事を予想してお連れしたのですか?】


「いや、どうなるかは予測はしておらんかった」


【それで、前王は、いずれ処分するので?】


「勇者に任す、以上」


65


【しかし…】


「学んで知って自分で判断した時に、任せる。以上」


【分かりました】


「我思うけど…。

 あんまりおかーちゃんし過ぎるのも駄目だぜ?

 拠点統率サーバントさん?」*


【ええ、肝に銘じます。自主性も、大事ですわよね】


「自分の意志で、自分の足で、歩くから。

 そう、命が生きている意味はあるのだ」*


66


「おかーさん!おうさまのごはんまだー?」


【ええ、今、お持ちしますわ】


「あの勇者の、裏も無い心からの言葉こそ。

 罪の意識ある王にとって鞭の一撃。

 それを生きる限り無数にくらう罰ようなもの。

 丁度よいだろ?」*


【…本当に残酷ですわね】


「我、魔王ですから」


「俺もおかわりして、おうさまと一緒に食べるからー」


67


【はいはい、まだまだあるから食べて下さいね】


「魔王も早くー!精霊獣は俺の横!さ、みんなで食べようよ!」


《ぎゃおぎゃお!》


「しかし我…こんな展開、これが読めるか、魔王?

 と、我、自問自答しちゃうのであった。

 …って、うおい我の飯の量少なっ!?」*


【お客様をお連れするから当然です】


「 」


68


「あはは、だから早く帰って来れば良かったのに!」


「ナンデ!?ナンデ!?

 我、ここの主よ!?アイエエエ!!??」


【不足は水でも飲んで足しにして下さい】


「鬼ィ!」


《ぎゃおっ♪》


「精霊獣はめっちゃ盛られてるのに…」


【先程、解放しましたわよね?翼?】


「はい、補うの大事デス…」


69


[…魔王…お主、以外と、最弱というのは…]


「ヤメテ言わないで。

 こんなんで最弱って我、認めたくないから。

 あはは、ご飯がしょっぱい…不思議ーィ」*


「え、しょっぱいの?」


「いいえー、これは喩えですー」


「喩え?」


[ものを説明するときの…表現かの。

たとえば、という使い方があってな…]


「へー」


70


[まぁ例としてあげるなら…この食事、この温かいもの。

これを別のものに置き換えてそれを表現するのが喩えでな…。

ふむ、喩えるなら、人の手の温もりのような、などとかな]*


「そっか、そういうのが喩える…そうか」


【あらあら、お勉強が始まってしまいましたか?】


「あ、ごめん、つい聞いちゃったから…」


71


「…王、いや無職となった老人よ、我に雇われてはくれまいか?」


[無職…よもやこの年で無職とは…して、老人を何として雇う?]


「当面の教師。いや、何せ我、勇者、今は学生なのでな?」


[…それが償いになるのであれば…そうしよう。喜んで受けよう]


「え、おうさま、せんせい?になるの?」


72


「おうともよ、我とお前の最初の教師だ。

 王族出自で学はある。やる気もある、うん!この上ない好条件!」*


「やったー!俺に、おうさまが教えてくれるんだ!すごい!」*


[もう私は王では無いからな、先生とでも呼んでくれると嬉しいかの]


「おうさまも、俺と同じように、せんせいにクラスチェンジだね!」*


「はは、まさに!」


73


[私の命が尽きるその時まで、この役目を果たすと誓おう]


「うむ、よろしく頼む」


「せんせい!はじめてのせんせいだ!俺、嬉しい!」


【ふふ、良かったですわね。

 私は兎も角、魔王だと邪悪な知識と知恵に偏りそうで心配でした…】


「え、我の認識そうなの!?酷くない!?」


「まぁ魔王だもんね」


74


<国の民に告ぐ>


{…}


<卑怯卑劣極まり無い魔王に裏切りを唆され従った…無能なる貴族ども。

国を売る敗北主義者、かつ大叛逆者たる大貴族どもを粛清した!

そして前王は貴族に魔王へ売られ行方知れず、その後消息も不明である事。

この状況を見て、例外的措置として王子である私が…。

この国の新たなる王として即位し、そして憎き魔王を討つ事を誓う!>*


75


<また魔王に戦いを挑んだものの…。

やはり卑怯卑劣なる悪しき魔王に囚われた勇者…。

残念ながら、魔王討伐の望みを任せるには無理であると判断した!

故に、新たなる勇者を、我々の希望をここに紹介する!

新たなる勇者、さぁ、皆に御披露目しなさい>*


{…}


<民よ。勇者は美しく、強く、華麗であるべきだと私は思う>


76


{…}


<佇むだけで清らかなる泉に白く光り咲く一輪の花の如し。

しかし、一度討つべき相手を見つければ、燃え盛る燎原の炎の如し。

一切の迷いも遅れもなく、この新たなる勇者が!

世界に光を齎し、魔王を討ち果たし!

世界に約束された平穏と富が我等のものになるのだ!>


{…}


<今こそ魔王を殺すべし!>




#これが読めるか勇者よ -破-


{終了、しばし続きを待て}

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