45. 情報戦は既に始まっている
第一試合に敗れたリッテだが、試合はあと四つ残っている。
あと一回は負けたとしても残り三回に勝利すればリッテ総合勝利することが出来る。しかし、奇しくも第一試合の段階で対戦相手のアズサが予想以上の強敵である事が判明した。
もう一切の慢心は許されない。
残る競技のうち一つでも多くを勝ち取らなければ、本当に負けてしまう。
「残る競技は料理、忍耐、教養、戦闘力……厳密にどんな内容の競技になるのかは分かんないけど、全部勝つくらいの勢いでやんないと……!!」
授業が終わるやいなや、リッテは屋上に人を集めて作戦会議をしていた。ジークは審査員側なので公平性を期すためにこのような集まりには参加できないとあらかじめ言われているが、今のリッテには機械同好会の他にも味方が出来ている。
一人は最近復学した同級生のアリアン。
「私に出来ることはあんまりないかもしれないけど、少しでも助けになれるよう頑張るねっ!」
もう一人は、前の試合がきっかけで親しくなったイートンボール部の応援担当、ベリルだ。
「応援代表ってことで協力しに来たよー!」
「流石はお姉様、もうこんなに味方をお作りになっていたとは……リップ感激です!」
そこにリップヴァーンを加え、作戦会議だ。
ライデルには無理矢理頼み込んでアズサが作戦を盗み聞きしないよう監視を押しつけた。大変申し訳ないとは思うが、これも勝利のためである。ライデルに「よっぽどジーク君を取られたくないんだね」と言われた時はついムキになったが、実際はその通りだ。
ジークが自分を捨てていくとは思えない。
それでも、不安だから意地を張るのだ。
まず、リッテは今後の戦略についての概要を話した。
「私としては次の料理とその次の忍耐は絶対に落としたくないの。だってその後に続く教養と戦闘力で勝てる自信があんまりないし、この二つの内のどちらかは確実に負けると思う。二連勝は無理」
「……アズサちゃん、体育の授業でも勉強でも明らかに優秀だもんね」
アリアンは同級生だけあってよく知っている。
アズサが他国から来たということで彼女に勉強を教えるついでにお近づきになろうとした男が相応にいたのだが、その殆どが知力の差で返り討ちに遭い、今では逆にアズサに教えを乞う光景がクラスでは見られている。王国の文化についてもよく勉強しており、教養勝負はかなり苦しくなるだろう。
また、戦闘力に関しても彼女はその片鱗を見せている。
『ハイランダー』の二人が彼女を見た瞬間に「武術をたしなんでいる」と断言したのをリッテは聞いたし、アリアンの言う通り体育の時間にはクラス女子トップレベルの動きを見せている。元々それほど運動も戦闘も得意ではないリッテはどう考えても不利だった。
しかし、料理に関しては母に習ってなかなか出来る方である自負があるし、忍耐力では誰にも負けるつもりはない。つまり、この二つは勝ち目のある戦いだとリッテは踏んだ。
ただ、リッテとは対照的にアリアンが不安そうな顔で懸念を示す。
「それはそうかも知れないけど、アズサちゃん料理もかなり出来るみたいよ……? お弁当も毎日自分で作って持ってきてるし、異国料理で味は分からないけど凄く綺麗に出来てるの。王国風料理も研究中なんだって」
「うん、それは正直気になってはいるんだけどね……」
リッテが素直に頷くと、ベリルも厳しい顔になる。
「マジかー……生活力があって文武両道で顔も美人とか、弱点なさすぎて逆にイヤミ~……」
「しかしお姉様、それでも勝算があるとおっしゃられるのであれば、作戦があるんですわよね?」
「まぁね」
リップヴァーンの問いに、リッテは真面目に頷く。
「まず、料理対決なんだから内容は絶対料理を作ることじゃない? どんな条件を突きつけてくるかは分からないけど、前回の試合を見るに観客をあまり待たせないように制限時間はそれほど長くないと思うの。きっとスピード勝負になるわ」
自分なりの分析に周囲がおお、と感心するのでリッテは少し鼻が高くなった。ただ、アズサが料理を得意とするなら時短料理のレパートリーも当然持ち合わせていると思われる。よって彼女を上回るためにリッテはあることを思いついた。
「それでね……審査員ってグリィ、ジーク、学園長の三人で確定じゃない? だったらこの三人の好みを把握出来れば、より有利な料理選びが出来るわっ!!」
普通の料理勝負であれば、この手は運営側が公平性を確保するために上手くいかないよう手回しは可能だろうが、今回はグリィが突発的に始めた勝負だ。審査員たちも別にその道のプロではない。そこに付けいる隙があるとリッテは判断した。
ベリルはおお、と感心した声を上げる
「なるほど! そーいうことなら私、グリィが普段何食べてるか知ってるよ!」
「リップはこんなこともあろうかと学園長にそれとなく情報を聞き出してきましたよ!」
「そして、この学園内で最もジークくんと親しいリッテは、当然ジークくんの好みを知っている……!!」
「……あー、まぁそこはちょっと曖昧なんだけど」
「そうなのッ!?」
予想が外れたアリアンが思わずこけそうになる。
そう、リッテは正直ジークの好みを当てる自信がない。何せジークは何を食べても割と同じようなリアクションをするからだ。一応ながらおおよその見当はついているのだが、もし予想が外れたらジークはもう片方の料理を選びかねない。
「ま、多分大丈夫っしょ。ジークだし」
「自信がないのかあるのかどっちなの、リッテちゃん……」
「流石はリッテ先輩、その大らかな精神の中にある揺るぎない確信が頼もしいですぅ!」
「確かに、不安とはいいつつもあんまり心配してない感じあるね……まぁ、不安がってるよりはいいか! ようし、じゃあグリィの情報だけど……」
ベリルは人差し指を掲げて周囲の注目を促し、説明する。
「あいつ、ああ見えて相当舌が肥えてるんだよ。高級スイーツとか高級レストランの料理とかいっぱい知ってるし、昼飯もよく見ると人気店のサンドとかばっかり食べてんの。しかも、味の感想の寸評が結構当たってるって評判よ」
「じゃあグリィの路線は捨てようか」
上質な料理には自信がないため、リッテはあっさりグリィを切り捨てた。
他の女性陣も別に異論はないのかさらっと話が流れ、必然的に残されたのは学園長だ。リップヴァーンの情報に注目が集まる。
「実はですね――学園長は身分を隠してホープライト卿の食学講習に参加しているみたいなんです! 噂によるとこの講習には実際に料理を実演する料理講習的なものもあるらしいですよ! お姉様はホープライト卿と繋がりがありますし、学園長の好みも知れてホープライト卿からアドバイスも貰えて、一石二鳥では!?」
「料理対決の為に州知事を利用するの!? そ、それは幾らなんでも……」
「幾らあの温厚そうな知事さんも怒るんじゃあ……」
「それで行きましょう!! 流石は私の可愛いリップ!!」
「「ええっ!!」」
彼の屋敷に行きすぎたリッテにとって、もはやロイズ州知事アモン・ホープライトはかなりフランクに接する存在になりつつあるのであった。
(リッテちゃん将来大物になりそう……)
(なんか、良い意味で第二階級っぽくないよね……)
(そういうところがジークノイエ様に気に入られたのかなぁ?)
(分かんないなぁ。ジークノイエくん自体も結構な不思議さんだし)
――リップヴァーンの頭を愛撫するリッテを見て、アリアンとベリルはひそひそと自分の色物な友達を語っていた。
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