第32話

 二匹の怪鳥が上空から光る物体を見つけた。

 それに向かって一匹が上空から急降下。スライムを空高くから狙う彼らなりのやり方。

 外したと判断したすぐさま飛び上がる。これの繰り返し。


 とんでもない大きさの物体が急降下して地面と衝突した先のほんの隣に、Vとドーリーは伏せていた。

 敵がいない。あったのはきらきらと光る杖。Vの魔法。本来は闇夜の中で治療を行う際に、木や石を光らせて光源として使う魔法。そして怪鳥は急上

「させるかよ」

 昇の前に寝っ転がったまま構えたドーリーの弓から放たれる一発。

 怪鳥の風圧も、それを目の前にした恐怖もものともせず姿勢を維持する凄腕。そこから放たれる下から打ち上げる形の一撃は胸に的中。

「まだ」

 死んでいない。

 なので鳥も普段とは違う動き、つまり嘴でドーリーを狙う。

「やれ!」

 そしてこちらも普段とは違う動き。

 怪鳥がドーリーに気を取られているうちに立ち上がったVがドーリーの重たい剣を振るい、構えもなにもなく、ただ力任せに分回す要領で怪鳥の後ろに一撃。

 そして死んだか死んでないかわからないうちにドーリーもすばやく立ち上がり、無我夢中に手につかんだ矢を目の前の頭に突き刺す。

 Vも併せて体当たりの要領で剣を胴体に突き刺した


 この攻撃にはいい点と悪い点があった。


 いい点は怪鳥が死んだこと。

 構えもなにもなく、普段剣など振るわない、そもそも当人も振るとも思ってないような優男のVだが、冒険者なりに最低ラインの体力と力はあるし、ドーリーは長年の経験から武器の手入れと選別には余念がなかったので質も切れ味もいい剣だった。

 なので胸に矢が刺さり弱まった怪鳥の後ろから思いっきりぶったたけばさすがに死ぬだろう。少なくともドーリーが突き刺した矢のおかげで確実に死んだ。Vの突き刺しは完全なる余分。


 悪い点。

 まず剣がだめになった。なにもかんがえずに力任せでたたけばだめになる。なによりも胴体につき刺さって抜けない。Vは剣の使い方など知らないし、こんな作戦に付き合う度胸はあっても実際目の前に化け物のような鳥が現れたら冷静沈着など無理。なので無我夢中で剣がどうなるかなどきにせず刺した。

 そして弓がない。正確に言えば矢筒とともに地面に落ちている。こんな作戦を弓の達人や名人であり、こんな作戦を主導で考えるような度胸はあるが、実際に目の前に化け物のような鳥が現れて自分の命を狙ったら冷静沈着など無理。なので無我夢中で弓も持たず矢を手で突き刺した。

 そしてもう一つ。鳥はもう一匹いるということ

 その鳥が奇声をげながながら急降下し始めた。

 最後にもう一つ。この状態は作戦には入っていないということ。

 つまりもう何も打つ手がないのだ。

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