第3話

「なぁ君、これもなんかの縁だ。一緒に仕事受けないか?」

「いいですけど、宛はあるんですか?」

「あるってわけじゃないんだが」

 そう言って男が取り出したのが斡旋所の募集用紙。

 特殊な魔法で紙を増やすことができるので持ち出せるのだ。

「給料みるとあんま美味しい仕事ってわけじゃないっぽいけどさ。足と飯と宿があるなら赤字にはならねぇとは思うんだ」

「えぇっと、田舎のモンスター狩りの手伝いですか。冒険者から嫌われるやつですね」

「そうなのか?」

「手間と日数がかかるモンスター狩りはみんな嫌うんですよ。田舎だと対価もあんまり良くないし」


 冒険者家業は定給というわけではなく出来高制である。なので仕事を効率よく請けて数をこなしていくか、高単価の仕事をこなしたほうが稼げる。

 モンスター狩りなどは大物以外は手間がかかるが旨味がない。やるにしても「ゴブリン専業」「スライム専業」のような特定の種族に特化して業務を受けたほうが効率がいいので儲けは大きく、田舎の畑にでてくる害獣駆除のような複数混合型は利益率が小さくなる。なのでみんな嫌うし請け負うと馬鹿にされる。

 という旨の説明を魔法使いがしたが、剣士は気にせず

「なるほどねぇ。でもわがまま言えるような立場じゃないし、すごい技能を求められる仕事なんかできないから俺はとりあえず受けようと思ってる。時間が経てばなんか仕事がでるか、仲間を見つけてパーティーでも組めるかもしれねぇしな。でもこの仕事、二人以上求むって仕事で参加者が俺一人しか居ねぇと仕事が成立しないんだと。もう二週間はこのままだって受付に言われてさ。どうだい?窯の火を止めるよりはいいかなって思うんだが」


 窯の火を止めより、というのは帝国の慣用句。この場合の意味は「食えなくなるよりはいい」って意味合い。


「僕は正直戦闘はできませんよ」

「戦闘については俺がなんとかやるよ。それで食ってきたんだ。君は怪我をしたとか道中の食事とかそういうのをやってほしい。技能的にそういうことのほうが得意だろう」

たしかに前のパーティーではその手の事をやってた。


 窯の火を止めるよりは、嫌われ仕事をしたほうがいいか 。


「わかりました。今からお願いしてきます」

「よっしゃ善は急げだ。まだ空いてるから行こうぜ」

そう言って剣士は魔法使いをつれて談話室から出ていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る