避難

 遊覧船の乗り場が併設してあるボート乗り場に見事な操船で輸送船は接岸し、タラップを下ろしたその目前に空港手前に居た近衛兵団が襲来した。


 そのままJPとホセは即席トーチカのコンテナに向かい、スタンとリカルドは桟橋の端で迎撃を開始した。

 簡易トーチカのコンテナが無数の弾丸を弾く、その音と気配を頼りにホセとJPは巧みに位置を変えては反撃を加えるも、その倍の追撃がホセ達を襲って来る。


「うひょー、流石近衛兵団、遠慮無し、手加減無し、隙無しでパンスカ撃ってきやがる」


 ホセのぼやきも最もだった。通常なら前面と側面からの攻撃されれば大概の兵士達なら怯むはずが、近衛兵団はその程度では気にせずに攻撃を続行した。


「多少は怯めば可愛げがあるが……相変らずめんどくせえ攻撃性だことぉ!」


 幾度か交戦経験があるらしいスタン達ゼラルゼスでも火力に押し負けまいと必死に応戦するが、手が付けられないレベルの攻撃が頭上や遮蔽物であるヨットに穴をあけて沈めていく。


 そこにクレーンで新たなコンテナが降ろされ宙吊りで固定された。避難民の盾代わりだが攻撃がそこにも加えられて火力がかなり分散される。


 甲板にはJPから借りたドラグノフを使いアンナが狙撃を始めるも焼け石に水であったが、そんな中にお構いなしにジョナ達が避難民を連れて走って来る。


「コルァ! 避難民誘導はまだ早えよ!」


 弾切れのマガジンを交換しつつホセが応援に駆け付けたジョナに一喝するが、その口からはとんでもない状況が語られる。


「そりゃワリィなぁ! 避難キャンプにも教会が攻めて来て教授とジョシュ達が殿ケツもちで防いでる。道中は部下達が支えてるが、いつ増援が来るかわからんぜ!」


 応射しつつジョナが伝えるとホセは舌打ちをして次の手を考え始めた。



 一方その頃 メドウズコロナ公園とシティフィールドを結ぶ地下鉄の車両所の陸橋の上、マーカス達と共にジョシュ達は迫る近衛兵団に銃撃を加えて足止めをしながらゲオルグとアニーに最後尾の避難民についていてもらう。


「なんだ! この攻撃性は! 全然怯まねぇ!」


 シュテフィンが目を剥いて怒鳴る。高い有利な位置で足止めの乱射をするジョシュ達に対する攻撃が下の草叢や林から絶え間なく続く、腕や脚が撃たれても血管と神経が無事なら止血して攻撃を継続させる。吸血鬼と戦う連中ゆえに同等の怪物性が顕在していた。


「しゃーねぇ! 車狙うぞ!」 


「あいよぉ! マーカス達は陸橋の終わりに行ってくれ!」


 ジョシュが腹を括り、ShAKからM107CQに持ち替えると意図を汲んだシュテフィンがマーカスに先行を頼む。


「分かった! 全員全力で走れ!」


 マーカス達が一斉に走り出すのを見たジョシュは、止めてあった複数の車両のガスタンクと思われる位置を連射して穴を開ける。そして一呼吸置いた後にシュテフィンがわざと車体と地面を掠めるように撃って火花を散らして引火させる。


 見事にガソリンに引火して階段周辺の公園を熱風と火が包む。それと同時にジョシュ達がローラーを後進起動させ撤退を始める。これで登ってきても即射撃出来る。……まず登っては来れないはずだが……


 陸橋を半ばまで来たところで陸橋の柱を登って来る兵士を見つける。それを陸橋の終わりに着いたマーカスが狙撃して叩き落すが、そこに周囲に気を配っていたエリックが警告を発する。


「ヤバイ! 駐車場の方に部隊が展開を始めたよ!」


「チィ! トーマスとダーホアは先に行ってくれ! ジョシュ、シュテ! 急げ!」


 前を向いて高速移動に入るジョシュ達を急かすとマーカスは駐車場の方を見る。そこには一団に向かってクレイモアを担いで走り出すゲオルグを見つけた。


「なっ? 教授ぅぅぅ!? もー、誰だよ! あんな狂戦士バーサーカー連れて来たの!」


 エリックが顔を手で覆いながら途方に暮れる。乱戦状態では援護もできないからだ。


「マヂか! 先に行く!」


 血相を変えたジョシュはそのまま高速移動状態で駐車場に駆け付ける。銃撃の中、ものすごい勢いでナイフと拳銃を駆使して攻撃するスレイヤーS3とチャンバラするゲオルグとそれを援護するトーマスとダーホアがいた。


「ナ……ナイフ風情でこの俺様の剣技を止める……何たる屈辱!……キィィィィッ!」


 ブチ切れたゲオルグがクレイモアを上段から対峙するS3タイプを真っ向唐竹割りにするべく振り下ろすが、スレイヤーはナイフで何とか受け流しながら拳銃で腹部を撃つ。


 ゲオルグは被弾に気にせず横なぎで払い切るも飛びのいて避ける。ここまで相性が悪い相手は久しぶりらしかった。


「むっかぁぁぁぁ、ちょこちょこ避けやがって……もう本気出す!」


 終始無言で無表情のスレイヤーに対し、侮辱されてると感じたゲオルグが片手で振り回していたクレイモアを両手の正眼の構えで握る。そこには意識を集中して刀身に気を纏わせ、裂帛の気合いと共に相手の喉元の中心を切っ先で抑え込むように高速で突き入れる。


 それを読むようにスレイヤーは姿勢を横に変えてナイフを突きに入る。だが、ゲオルグは身体を瞬時に回転させナイフの刃を躱し、片手に持ち替えて首を刎ねる。


「ふん! 俺が本気出せば一蹴出来るんだよ!」


 クレイモアを肩に担ぐと他のスレイヤーに苦戦するダーホアやトーマスのフォローに向かう……しかし、殺気を感じそちらを一瞥すると血相を変える。そして標的を確認するとそちらに猛ダッシュする。


 避難民の集団の最後尾に混じりながらレイとアニーが周囲を警戒しながら護衛に入っていた。じきに駐車場を抜け、交差点を越えて高速道路のガード下を潜れば輸送船は目の前だ。


「さぁ!もうひと踏ん張りです。頑張って!」


「もうそこに船見えるよ! もう少しだからね!」


 レイとアニーは交互に避難民を励まし合う、そこで行列の動きが止まる。船着き所の銃撃戦が激しすぎて動けないのだった。


「げっ! ここで立ち往生はヤバい……私が援護に行くからレイはここでジョシュ達を待ってて!」


 警護を頼むとアニーはバレットを持ってガード下へ走り出した。


「ちょっとー、アニーさーん!」


 置いてきぼりにされたレイが困惑して立ち竦む。そこに猛烈な勢いでゲオルグが走り込んで来る。


「え? 教授?」


その今までにない必死なゲオルグの形相に驚くレイをゲオルグの叫びが包む


「レェェェェィ! 伏せろぉぉぉぉ!」


 銃声と共にレイがゲオルグに突き飛ばされる……そして倒れたレイの目の前には頭部を撃たれたゲオルグが横たわっていた。

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