捜索
ジョシュ達は角の曲がって正面にあるエレベーターを敢えて無視して向いの階段で移動する。袋のネズミにならないようにまた発見や待ち伏せに会わないようにゆっくりと音を立てずに降りて行く。
時折、遠くで銃声と兵士達が通路を走って行く足音が近づけば歩みを止め、その方向に銃口を向ける。過ぎ去ると銃を下ろし下へと移動する。JP達とスタン達が派手に陽動しているらしく、相手は全員階段を無視してエレベーターで急行しているようだった。
そして最初の目標である3階、研究エリアに到着する。
非常ドアを少し開けて周囲を確認し周囲の兵士の存在を確認する。ゆっくりと音も立てずにドアを開けて通路の様子を見る。
通路はライトに照らされ無数の部屋があり、奥の方には観音開きの大きなドアがあった。
後ろに合図をしてジョシュはP-210を構え、音もなく通路に出る。
どこかで機械音と何者かの吐息やしゃべり声が聞こえる……
後ろからシュテフィン達も入って来てキョロキョロ見渡すが、アンナだけは銃を構えて、音もなく歩き各部屋を確認し始める、そして1つの部屋の前で立ち止まり振り向くとその表札に親指をさす。
全員、息を殺しながら歩いて表札をみると「執務室」と書かれていた。
その前でアンナが室内の気配を読み、その鍵穴にピックを差し込み、一気に鍵を外すとジョシュが銃を構えて入る。
そして全員がそれに倣いスッと入る。
室内にはマホガニー材の執務机が置いてあり、ノートパソコンや事務作業ができるように整っていた。
「アニー、ジュリア、ドアで見張りを頼む。アンナは机の引き出しを片っ端から開けてくれ、シュテはパソコンを起動させてデータを調べてくれ、俺はクローゼットを見る」
全員が無言で指示された仕事を始める。アンナはたちまちのうちに全ての引き出しのカギを外し、最後には隠し金庫まで見つけて勝手に開けてしまった。
その金庫には金のインゴット10本と何かの資料とUBSメモリーを見つけ、早速ジョシュがその資料を読み漁る。
シュテフィンもモニターに張り付けてある付箋のコードが起動コードと見切り起動させデータを盗み見る……
『こ、これは……』
『さっぱりわからねぇ!』
この最中で同時ボケに緊張の面持ちの女性陣が一斉に柳眉を上げるが、ジョシュもシュテフィンがデータや論文を読んでも内容が高度過ぎてアンナはもちろん専門外のジュリアではお手上げなレベルだった。
「まぁいい、メールかドキュメントを見てみよう」
開き直って分かるところだけを調べるとノートパソコンの持ち主であるジェイク・ダンカン博士の私物であることが分かった。残っていた下書きを飛ばし飛ばしで読んでいく。
「
「お願いして入手して頂いたランバートのデータ、VP1の項目についてですがどうやら奴らはあのヴラド公と接触し、入手したデータらしいです。ご注意を」
「先の実験を踏まえて、若の血液データと適合性が極めて高い少年、少女は早々見つからず、引き続き献血センターや医療データを精査しております。ご容赦のほどを」
「ん?!」
最後の下書きだけアニーが反応した。そしてマーティを捕まえた理由もそこにあるのか? と推察した。
ドキュメントファイルに移行して調べていたシュテフィンが何かに気が付き、設定を操作し隠しファイルを表示するように変更する。
すると、巧妙に隠された日記と書かれたファイルが見つかった。
「ん? 悪趣味だけど読んでみるか?……」
ジョシュが躊躇いがちにファイルを開く、それは博士の日記で大学入学の頃から書かれていた。
学生の頃からある研究者に憧れて研究者になる事を志し、学費や生活費に苦労しながら時間と努力に努力を重ね博士号を取得する。そしてドイツで開かれたある学会会場にてその憧れの人物と遭遇する……ゲオルグ・ランバート教授であった。……
ところがゲオルグは握手とちょっとした激励をするとジェイクを置き去りにして黒服の男達と共に出て行った。
「あ、コレは所長が言ってた。そこで初めてダンカン博士に会ったって……その直後にバートリーの保安部に拉致されたとも言ってたな……それが黒服か……所長って異星人だったんだ」
そして全員、顔を寄せあいながら読み進めいく……
その日からゲオルグはジェイクの宿敵になった。自分を蔑ろにした奴は許せん! 奴に自らの才能を否応なく認めさせたい! その一念でランバート研究所から発表された論文の追試や検証を論文として纏めて論文内容におけるミスやデータ不足、反論を指摘して評価を集め、学会で名を上げたのだった。
そして新進気鋭の研究者として認められた頃、新設研究所に主任研究者として着任の依頼が来た……例のアンソニーとカート・クレメンタインが設立した遺伝子研究所だ。そこで初めてアンソニーとカートに対面することになる。
着任後、自分の心を見透かすような付け届けや新鋭の機材、追加予算がアンソニーから承認されると感謝や好意を抱く半面、恐怖を覚えた。
実に細やかに心尽くしの行為を誠実かつ確実に行うアンソニーに対し、常に先回り、先手を打たれる恐怖と薄気味悪さを覚えた。そして常に監視に置かれているのか? スパイでもいるのか? と疑心暗鬼に駆られるが、その内、徐々にアンソニー自身の弱さや取り巻く状況を見せられてジェイクは義憤を駆られるようになる。
そして、自分がこの人を支える、支えさせてもらう、支えねばならない、仕えねばならないように意識が変質されていく状況がありありと日々の日記に書かれていた。
また、日記は研究の日誌にも連動していたようで細かく研究データや数値についての記載もあった。例の血液適合者の捜索やVPウィルス改良に全力を注いでいた。
バートリー系ウィルス、VP2タイプには他にはない特徴があり、思春期の少年少女達に大量に分泌するヒト成長ホルモンがウィルスに感染した細胞のミトコンドリアを刺激して、その取り込むエネルギーや性能を大幅に増加させる事が分かった。
その際、捕食対象の血液適合が捕食者と非常に高く、また処女童貞で成長ホルモンに満ち溢れる対象の血を【輸血】し、直系眷族の全身にくまなく行き渡らせた時、その
そして日記の最後の日にはこう書かれていた……
”血液適合性が完璧に近いマーティンの血液を致死量まで採り、輸血すれば若は真祖に成れる! ”
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