覚悟
キリチェックは怒りと闘志に滾る視線を接岸するフェリーに向けながら川に向かう風に背後から吹かれながら立っていた。
最初はアンソニーについて忙殺されている秘書の代わりに
(こいつ等舐めやがって……)
搭乗者達の不遜な表情を見て憤りを感じつつ、不審な車がフェリー乗り場に向かうとわかり先回りしたのだ。
このアンソニーの領地たるこの
森の茂みの中、今にも飛び出して襲撃せんとクラウチングスタートのように全身を屈めて怒りと力を脚に充填させる。
上目遣いに標的を見ると上官らしき年輩の男が若い男に運転を代われと指示する。その男が場所を変えるといきなりこちらを向き、自分に気が付く。
(……年輩の男は前から自分に気が付いていたのだ……その上で心肺機能をコントロールして自分のスキャンを躱し、逆に出方を観察していたのだ)
そしてバレた事が分かると挑発的な笑みを浮かべ、眼は殺意に満ちた目でキリチェックを射抜く。
そしてフェリーが離岸した時、ゆっくりとキリチェックは茂みから道路に降り立つ。
自分より上の実力者の存在を目の当たりにしてキリチェックは怒りを抑えつけて相手をジッと見据えて、瞬時に何百通りの戦闘手順をシュミレートしていくがどうやっても苦戦する状態になる。
昔、ゼラルゼスに入る前に護衛対象を
ましてやあの若い男はゼラルゼス級のセンスらしい。
殺意が向けられた事で自分が攻撃されることを把握するやいなや心臓が強く拍動するもその後は非常に緩やかで、それはどう攻撃されても切り返して反撃出来るように見えた。
フェリーが向こう岸に渡り、2人組を乗った車が出ていく……
キリチェックは警戒を解くとスマホでモニター室のキャロルを呼び出す。
「ドラガン、敵は?」
「偵察だけらしいが……かなり手ごわい。マッキンタイアさえ圧倒する化け物だ……断罪隊は今どこに?」
連中が部隊を引き連れ戻って来るまでに配備を済ませるつもりでキリチェックは速足で来た道を戻りながら通話をする。
「今、
「手当てを受けたら至急戻ってくれ。それとライバック司令にシェルターの警護に本拠からの一個師団寄越してくれとオーダー入れてくれ」
「了解」
やり取りを終えると邸宅に入り、生活臭のかけらもないキッチンの奥に冷蔵庫として偽造してある隠しエレベーターで地下に降りるがそこで力尽きドアが開いたと同時に膝から崩れ落ちる
「ドラガン! 」
エレベーター前で待っていたキャロルがその身体を間一髪で支える。
直ぐに救護スタッフを呼び、メディカルルームでスタッフが手際よくキリチェックをベッドに乗せて点滴の準備に入った。
「まぁ、過労だと思う。今日しっかり休めば体調は戻るさ」
メディカルスタッフにそう言われてキャロルは一度は安堵するもののキリチェックの性格を知って居る為、目が覚めれば直ぐにでも起き上がって仕事に入るだろう。
「それじゃ、血液製剤と導眠剤でも使ってしっかり休ませてあげて、後の仕事は私が引き継ぐから」
キャロルはスタッフにそう頼むとアジトの最奥にある司令室に向かって行った。
白い通路の先に警護の兵士が立つ部屋に行くとドアが開き、幾つものモニターが各地の現場を映しており、その中央にはアンソニーが司令席に座ってモニターを見ていた。
「ただいま戻りました」
キャロルは静かに伝えるとアンソニーは振り向いて笑顔で尋ねる。
「ドラガンは?」
「医務室に運びました。過労で休息が必要です」
キリチェックは怒るだろうが、万全でなければアンソニーの要求を満たせないと判断したからだった。
「ふむ、それは困ったがドラガンをここで長期離脱されるともっと困るね……」
「若様、ドラガンは敵ゲリラの襲撃を予想し、この島に一個大隊の警護を要請しておりました。そこで……」
「主要な出入り口に警護を……か……」
先読みするようにアンソニーが呟くと被せるようにキャロルが頷く。
「まぁ、配備は任せるよ、それとドラガンの枕元にこれを差しておいてくれ」
その場で何かメモを走り書きしてキャロルに渡した。そのメモには達筆でこう書かれていた。
”2日の休息を厳命する しっかり休んで忠勤に励んでくれ アンソニー”
そう書かれており、さしものキリチェックも従わざるを得ないものだった。
「ありがとうございます。それでは」
「うん、なんかあったら来てくれたまえ」
アンソニーの元を下がり、キャロルは司令室を出ると同時にアンソニーは受話器を取る。
「ジェイクかい? 一つ頼まれてくれないか?」
―――――――――――――――――――――――
キリチェックの枕元にカードを差すとキャロルはあてがわれた私室に入る、私室と言ってもベッドとシャワールームに事務机があるだけの仮初めの私部屋である。
「ふーっ……」
溜息をつき、ベッドに横になる……キリチェックや自分が必死になって働いても状況は悪化していくばかりでとうとうキリチェックまで倒れてしまった。
「何とかしなきゃ……」
一瞬、意識が遠のくと鼻に独特の臭気に目が覚めるもすでに体内には空調から催眠ガスを気付かれないよう低濃度で流されては十二分に体内に浸透させられ昏倒する。
その数分後、ドアからガスマスク被った男達が現れキャロルを担いで連れ去って行った。
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