絶句

 メモリアルホール内の2階事務室の一室に急造で作られた警邏隊詰め所お助け駆け込み室でジョナはケビンとコールズの報告を受けて事務机に肘をつき頭を抱えていた


「寄りにもよって……」


 2人は断罪隊の後を追跡して彼等の新たなるアジトを探っていた。


 あれからバスに分乗しロングアイランドを北上して高級住宅街で全米で屈指のエリア、ハンプトンに入っていく


 その高級住宅街を抜けて小型のフェリーで奥にある島、シェルターアイランドに渡る


 そのまま島内に入っていくと小さな浜辺があるこじんまりとしたホテルに到着した。案内した秘書らしき女はここが宿舎になると言って案内していった。


 しばらくして眼つきの悪い男が一人、車で来てしばらくの後、全員急いでバスに乗り込み出発するので再び距離を空けて付いていくとJFK空港に着き、またしばらくしてヴェラザノブリッジに着くと全員軽めの武装をして橋を渡って行った……


 この程度の報告なら全然問題はなかった。……ただ、彼らが見たのはそれだけでなかった


「追跡の途中、シェルターアイランドの真ん中に或る学校に物資運搬トラックが列を作り、何かを待っているところに出くわしたんですよ」


 物資の集積所が島の奥に置かれては手が出しにくく、ましてやシェルターアイランドは2か所の小型フェリーで繋がっている程度だった。また断罪隊の宿舎に近くて騒動を起こせばまず出てくると思われた。


 物資の強奪を狙うジョナが頭を抱えるのは無理もなかった。そこに無神経に問題点を指摘する2人組がいた。


「どのみちフェリー抑えられたら即終了だな」


「あんちゃん、道中も視線が痛いぞ? 高級住宅街に不審な警察車両ボロいピットブルは悪い意味で目立つ」


 その隣で話を聞きながらコーヒーを飲んでいたジョシュとホセがヤレヤレと言った顔で他人事のように問題点を指摘してつぶやく。ジョシュ達はアンソニーの動向や情報の入手の為、此処はホセと2人で中央執政庁はJPとアンナが担当していた


「おい、アンタ等のんきに茶啜ってないでなんか良いアイディアひねり出してくれ」


 そのゆったりとした寛ぎっぷりに少し苛立ったジョナが声を上げるとホセが手を上げて発言しだす


「んじゃ……まず、移動と運搬手段だ。確かにシェルターアイランドはぺコニック川に浮かぶ島でにフェリーで接続してる航路が南北の専用船着き場2か所でしかない。だが、ロングアイランドは音符記号のクレッシェンドの字の形になっており、真ん中のぺコニック川の両サイド、シェルターアイランドには港やハーバーが点在しているので他所からフェリーをかっぱらいそれを使い輸送船にする。潜入は一度、普通の車で移動して集積所に徒歩で潜り込み、置いてあるトラックに詰め込んで島内に点在するハーバーまで乗って行ってはフェリーで輸送する。そこまではOK?」


「OK、ただし、色々と問題点があるよね?」


 ホセの話を聞いていたジョシュが問題点を指摘する


「ああ、此処ニューヨーク近辺のフェリー……マンハッタンやジャージーシティから出ている航路は2か所以外皆小型だ、つまりトラックは1台程度しか載れない。何度も往復は効率が悪い、それでもって戦闘はまったくゼロにとはいかないはず……特に断罪隊と戦闘は必須になる」


 ホセは参ったねと言わんばかりに困った顔をするが、ジョシュは真剣みを増した顔をする


「物資もある、最強の手駒もそこに駐留とすれば、十中八九、シェルターアイランドがアンソニーの本拠地だろうね……地図を精査して、あと聞き込みもすっかね」


「ただ、アンソニーの本宅……旧邸だが、それはハンプトンにあった筈、シェルターアイランドにその手の豪邸や施設の類の情報はない……あれば即バレてスパイや窃盗団が押し寄せてくる」


 目標が定まりかけてジョシュは短い時間での特定と対策に入るつもりでいたが、ホセの助言を聞いて考えさせられる……


「いずれにせよ聞き込みしないとダメだね。ジョナさん、あそこら辺に詳しい奴、働いてる人知ってる

 ?」


「うーん、ケント・リチャーズがハンプトンのサッグ港の料理屋で働いてたはずだ。それとエリカ・ジョルスがハンプトンのデパートに勤めてたはずだ。両方ともクィーンズヴィレッジに住んでるはずだ……ケヴィーン! 案内してやれ」


 追跡して休憩してたケビンが不満そうにするとやんわりとフォローが入る


「それが終わったらドレビンを此処に呼んでくれ。ご苦労だったな。それで交代して1日休んでくれ」


 それを聞いたケビンは頭を掻くと荷物を取りにロッカーへ向かう


「それからコールズ、デニスとフレデリックを呼んで交代に入ってくれ」


 指示を受けてコールズも挨拶して退所していく……3人だけになった所でホセがジョナに尋ねる


「そういや、スタッテン島の区長はどうなんだ?」


「それがなぁ……ザ・政治屋な人物で曲者だったよ……マルティネスが必死に市民の為にと口説いていたが……決め手に欠けるな。それにマンハッタンの区長まで来て偉い騒ぎになったよ」


 スタッテン島区長、エラード・スタルヒンとマンハッタン区長ディック・フリードマンは犬猿の仲で支持政党の絡みもあり、協議会内では民主党のエラードと共和党のディックのバトルは名物とまで言われていた


「そうか……市民の為とかの建前でも動かんか」


 ホセが唸りながら考え込むと能天気にジョシュが呟く


「アンソニーに弱みを何か掴まれてんじゃねぇの?」


 その一言でジョナとホセが顔を見合わせる


「ありそうだな……」


「ああ、アンナとゲオルグに調べて貰おう。掴まれてなくてもそれをチラつかせてやれば動くだろ」


 ホセはスマホを取り出すとアンナに連絡をして動いてもらうと返す刀でエディに繋ぎを取りアンナの後詰めを依頼する。執務か研究中だとブチ切れそうなゲオルグにはメッセージを入れる


「よし、これで何か動きが出るだろ」


 ホセは手を打つと立ち上がり背伸びをする


「さて、それでは参りますかね」


 ジョシュも立ち上がり肩を回すとケビンが顔を出して準備ができた旨を告げる


「それじゃ行って来る。ついでにシェルターアイランドを見てくるわ」


「ああ、気を付けてな」


 ホセはジョナに告げると手を上げて挨拶しながらジョシュを連れて出て行った。


 適当な車を見繕い、ケビンの車に先に行かせながら後を追いかける


「万が一、ケビンが捕まっても素知らぬ顔でトンズラできるし、逆もありだ」


 ホセはそう嘯くと運転しながら周囲を観察して呟く


「道端の兵士にマジャール人系が多い……東欧本拠地からの援軍が来たな」


「マジャールってハンガリーとか東欧の?」


 指摘に驚くジョシュが尋ねるとホセは頷き


「連中はスラブ系とモンゴロイドの特徴を併せ持つ、丸い目とそれに近い位置の眉にそんなに彫りの深くないがシャープな鼻……モンゴル系遊牧民が進軍して来て血が混ざったからな」


 そう薀蓄を垂れながら臨時に作られた港に次々に到着する輸送船を横目に車をクィーンズヴィレッジに向けて走らせて行った……

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