消耗
吸血鬼陣営の砲撃を切っ掛けに教会と吸血鬼陣営との小競り合いが水路やハドソン川沿いで散発的に行われたお陰で、スタッテン島に住む一般市民へ応急処置としてブルックリンエリアに疎開することになった。
既に空気は秋を通り過ぎ寒気が肌を刺して染みてくる……それを防ぐように厚手のコートや風を通さないジャケットを着こんだ市民たちがZを川に叩き込み綺麗にしたヴェラザノナローズブリッジを渡って向こう側に避難していった
それに紛れてアニーも移動しようとするがゲートが見える所まで来ると後ろに群衆を掻き分けて追いついた厚手の鼠色のフードを被ったリカルドに肩を掴まれ制止される
「何よ!?」
いきなり制止させられてアニーが声を上げる。直ぐにでも橋を渡りマーティ達の捜索を始めるつもりだったからだ。
フードで顔を隠しつつリカルドは前方のゲート前を不精髭だらけの顎で指す
避難民達が通り抜けるゲート前のストライカー輸送車の上で監督しながら市民をチェックするキリチェックとその周囲の見慣れない夜間戦闘服の男達が物珍しそうに市民を眺めていた
あれが例の
「待って、アニー! 所長と連絡が取れたの!」
そこにやっと追いついたジュリアが再び制止にかかる
「所長にはお世話になったけど、こればかりは譲れないよ……」
「援軍が……ジョシュとシューが来るの! 私達と合流して……」
そこまで言う前にアニーが畳みかける
「それまで待てないよ……早くしないとマーティが……」
すでに精神的に追い詰められて来たアニーに正常な答えが導き出される事が困難になりつつあった
「
リカルドが横目でキリチェックを気にしながら説得に入る……奴らに動いたら即座にグレゴリーの車で逃走に入る手筈になっていた
「それにね……ここでは言えない話もあるけど……それ聞いてからでも良くない?」
ジュリアが機転を利かせつつとにかくこの場から立ち去る事を目指した。
そこに爆発音と微かな銃声が聞こえだすと避難民が一斉にゲートに殺到する
「はい! 皆さん慌てないでッ! ここまで弾もロケット砲も飛んでこないから!」
手に持ったマイクでストライカーに据え付けられたスピーカーを介しキリチェックが制止する
(チャンス!)
その隙にリカルドは振り切ろうとするアニーの首筋に手刀を打ち下ろし、当身をして気絶させると介抱する振りで抱えるとジュリアと一緒に逃走に入る
目立たないように建物の裏で待っていたグレゴリーのバンに乗ると速やかだが静かにその場を立ち去る
そして現場である橋からかなり離れたレモンクリークパークの隠れ家に連れ込む
スタンが外を見張る中、アンナが活を入れて目を覚まさすと飛び起きるアニーにジュリアの張り手がその頬を景気よく鳴らす
「アニー、聞いて、アンタの弟がヤバイのは知ってるけど、落ち着いて準備しないと助けられるものも助けらんないよ?」
黙って聞いているアニーに諭すように話をする
「まず1つはジョシュ達とJP隊が潜入作戦にこちらに向かってるそうよ、かなりの訓練と重装備でホセも納得の出来だって」
「それで?」
それがどうしたと言わんばかりにアニーが聞き返すとため息交じりにジュリアが話し出す
「あまり言わないでと言われたけど、エリクソンさんが3重スパイになってここの統治者とその上のCEOとうちの所長の間でやり取りしながら情報を獲ってて……それで分った事があるの……」
「分った事って?」
「通信ログの解析でここの統治者には本部や自宅の他に本宅ともいえる施設が存在するらしいの」
「ならば……」
二の句を継ごうとしたアニーを今度はアンナが制止するように割って入る
「そこを知っているのは直属の部下、例の
グレゴリーの仕事に相変わらずの感心をみせるスタンに話を振る
「正直、ドラガンは生け捕りは難しい……引き分けに持ち込むのが一杯だ。但し、キャロルは捕まえるのが難しいだけで捕獲すれば何とかなるかもしれない」
「それじゃ速攻で捕まえてくる!」
アニーが席を立とうとするのをリカルドが苦笑しつつ止める
「まてまて、あいつは変幻自在に相手の知ってる人物や与しやすいキャラクターの姿の幻覚を自分に投影して見せて警戒心を緩めたり、油断を誘い相手の懐に入っていく工作員、怪盗の類の能力持ちだぜ?」
「あんた達なら捕まえられるでしょ?」
今度はリカルドに変わりスタンが解説する
「まず無理、任務中はほぼ能力発動してるから隣でナイフ振りかぶってても分からん女だぞ、香水の香りか彼女が認知してない外部からの影響でもないと大概捕まらん」
「じゃぁどうすんのよ!」
「ジョシュ達を待つ間にエリクソンさんの手腕に懸けるしかない。あの人もお嬢さん拉致られてるから必死だろう……」
そこにいつの間にかコーヒーを全員分淹れたアンナがカップを手渡しながら話す
「前の奥さん、ソフィアの母親がアンソニーの所に居るらしいの……おかげでソフィアは比較的安全だと思うよ。 ただ、あのソフィアがマーティの危機に黙ってるわけがない……できれば二人とも大人しくしてほしいけどね」
コーヒーを一口飲みながらボロッちいソファに腰掛けてアンナがそう分析する
「いずれにせよ物資や武器弾薬集めに精出さんといかんか……」
染みだらけのカーペットにじかに胡坐をかきコーヒーを膝に置いてスタンが頭をかいてボヤく、強盗ぐらいは出来そうな弾薬しか手持ちになかったからだ
「ジルには連絡とったのか?」
「ロードアイランドにアジトを作るのとそこまでの足を用意すると言ってたが……例の特務チームの方が到着が早そうだな……」
黙って話を聞いていたグレゴリーの援軍、補給の問いにスタンはそう返すと独自に集める手立てを探すことにした
事実、スタッテン島には現在は軍隊と警邏隊とごく少数の住人しか居ないので、武器や物資を送ろうにも見つかってしまう公算が高かった
ただ、地元警察や州軍基地、店舗と一般家庭に武器弾薬が置いてあるかもと期待し、リカルドと出かけることにした
「グレッグ、アンナ、ヤバそうならとっとと逃げろ」
スタンはニット帽にマスクといういかにも怪しげな変装で、リカルドはスエットにジャンパーにジーンズと言った変装の体を成してない姿でそう伝えた
グレゴリーは頷きながらリカルドに野球帽を渡しながら
「ああ、くれぐれも気を付けてな」
そう言ってスタン達を送り出したグレゴリーは見張りをアンナ達に任せ車の整備に入った
一方、殺到する群衆を捌き切ったキリチェックは周囲でリハビリがてらに連れ出した断罪隊をつれていスタッテン島側に降りた先にあるフォート・ワズワースの保養地に来ていた
仮の駐屯地としてホテルも想定したが最新鋭機器に囲まれた安寧な生活は18世紀から無理やりバートリー家の伝統の血の湯浴みをさせられて延命されてきた時代遅れの男達にとって苦痛でしかなかった
保養地には沿岸警備隊や米陸軍の福利厚生施設があり、昔ながらのシンプルなゲストハウスや独立戦争時代の砦、娯楽施設がそろっており駐屯地としてうってつけの場所と言えた
保養地の管理事務所で借り受けの手続きを済ませた秘書に断罪隊一行の案内を任せたキリチェックはこの近くに或るアメリカ陸軍事務所……コロニー防衛隊支所に向かうとスマホでキャロルを呼び出す
「キャロルか? リカルドらしき男を群衆の中に見つけた。多分まだスタッテン島に潜伏しているはずだ」
やはりばれて居たが突発的な避難民の暴走を抑えているうちに姿を眩ませたのだった。となればやることは1つ、キャロルが指示を仰ぐ、待遇は互角だが追跡者としての技術や戦闘にも明るいキリチェックに従うのは自然であった。
「どうすんの? 狩り出す? ……断罪隊も使う?」
「ああ、ワグワースに居るからかなり大勢連れて来てくれ、見つけ次第確保する。断罪隊は使わない……若の部下だからな」
スタン達を放置すれば後方でかく乱されたり、一足飛びでアンソニーに危害を加える可能性もある。
何とかして捕獲して若の真意を聞けばスタン達も分かってくれるだろう。
キリチェックは事務所から周辺地区の地図を借りると机に広げ、潜伏先になりそうなエリアの建物を調べ始めた
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