計画

「あ! ジョシュだぁ! こんにちはっ!」


 エリクソン達への聞き取りが終わり、一旦研究所に戻るマーカスを見送ると昼の休憩がてら海が見える突堤に出てきたジョシュをフレディの娘、シリルがデッキから見つけ、手すりから大声で挨拶する


「やぁ、シリル! こんにちは!」


「あれ? アニーにシュテフンは?」


 一瞬、戸惑うが振り切るように大声でジョシュが叫ぶ


「ああ、シュテフンもアニーも元気でやってるよ。 シリルはどうだい? 元気かい?」


「うん! 元気! お勉強もしっかりやってるよっ!」


 笑顔で答えるシリルに頷きながらジョシュは手を振り


「後でお仕事終わったら遊ぼうね!」


「うん! それまでお絵かきして待ってるねっ!」


 懸命に手を振りながらシリルが返事をするが、手すりから落ちるんじゃないかとジョシュは気が気でなかった。


「シリル! まーた、授業抜け出して……」


 探しに来た教員らしき女性に見つかると手を引かれながら退場していった


 それを見てホッとしたジョシュを3バカ強盗団ことハワード3兄弟がやってきた


「おー、ジョシュ、ここに居たか……ところで仕事終わったんか?」


 先頭のカイルが汗を首にかけたタオルで拭きながら聞いてくる。


 着ている作業着はボロボロだったが顔には充実した笑みを浮かべいた。


 どうやら弟分2人を連れてランチバッグをぶら下げて遅めの休憩を取るところだった

 

「お、御疲れさん、今からが本番だ」


「そかぁ、それと客がいたから聞けなかったんだが、今後どうなるか聞きたくてな……」


 ジョシュの分らしいランチバッグを投げて寄こす。中はアメリカ人のキラーコンテンツであるピーナッツバターサンドが3つにリンゴが2つ、コーヒーのカップが入っていた


「お、ありがとう。んー、俺が聞きたいぐらいだが……多分、このまま船に避難、頃合いを見て研究所再建じゃねぇかな……」


 考えながらジョシュはありがちな答えを返す。


「俺ら前科者がここに居て良いのかな……今は仕事や飯にありつけるが……」


 ジョシュ達は突堤に並んで腰を下ろし、バッグを広げサンドを頬張るとナッツの香ばしさが舌と鼻腔を満たす。そこに油まみれの作業着姿のマークが不安を口にする。一生懸命仕事したのだろう顔も天然のカールが掛かった茶色の髪も油が点々としていた。


「今は気にしなくて良いんじゃねぇか? 出て行けと言われたら考えりゃいい。つーか雇用権限もってそうなフレディさんに聞いたら?」


 ジョシュは少し考えた後にそう答えた。


 レイを雇ったり、元ゼラルゼスを雇うぐらいだ……3人ぐらい混ざっても大したことはないと踏んだ。


「そうかぁ……アニキ達と離れた職場は寂しいけど、筋がいいって厨房長とゲオルグ所長に褒められたらうれしくてね。このまま仕事ができたらいいなぁ」


 いつものようにヘラヘラ笑いながらホイが呟く、ケャップかドミグラスソースかわからない染みを付けたコック服姿が新鮮だった


「お? あの所長から? そりゃすげぇな」


 それを聞いたジョシュは驚いて振り向く、あのグルメで偏屈のゲオルグに褒められるのはそれなりの実力かセンスがなければならない……本人はあまり分かっていないみたいだったが……


「なぁ、ジョシュ、お前さんも上に言っといてくれよ」


 カイルが懇願するとジョシュは笑いながら


「分かってるとは思うが、今後もがっつり働いてくれよ。推挙するのはいいがそれだけしっかり見られてるからな? 特にホイ、料理修行を怠ると所長が速攻でつむじ曲げるからな……気合い入れろよ」


『おう!』


 三人が声を上げる。更生の道を歩み始めた三人を手助け出来れば何も言うことはない


 すると上のデッキからシリルの母のジャニスが呼びかける


「あー、いたいた。 ジョシューっ! フレディが会議室で呼んでるわよ!」


「はーい、行きますよ」


 3人に手を上げ、ランチの感謝と後は任せろと言いつつ小走りで会議室に向かう


 会議室に入ると中央の長机には変に真面目な顔をした3人、ゲオルグ、フレディそれに百地が沈黙を守りじっと座っていた居た


「お疲れ様……です?」


 その奇妙な空気を感じ取り、そそくさと向かって右側の席に座る


(なんだ? どうした? この3人は……)


 観察をそれと無くしながらも内心その雰囲気の原因を探ろうとする


 そこにエリクソン達も入って来るがその雰囲気に何らかの異変に気付きスッと前を通り過ぎ右側の席、ジョシュから少し離れた場所にに座るとジョシュに目配せをして尋ねる


 〔何があった?〕のと


 ジョシュは首を竦めて手を上げお約束の さてね。わからない とゼスチャーをする


 しばらくして廊下が騒がしくなり、エメを先頭にJP達がガヤガヤと雑談しながら入って来る。その集団にはシュテフィンも居た


 各々が散らばり好きな場所に陣取る、エメは沈黙するゲオルグに何か気が付いたらしく黙って席に着く


 JP達はジョシュの向いに陣取るとJPは向かいに座るエリクソンとマルティネスに会釈をして挨拶を交わす


「おい、ジョシュ! 置いてくんじゃねぇよ!」


 それを見ていたジョシュに開口一番、文句をぶつけながらシュテフィンが横に座る


「いや、すまんな……予定がない時に緊急の誘いだったからな」


 返事を聞くとすぐに小声で尋ねてきた


「教授、どうかしたのか?」


「分からんが、何か話があるのかもな」


「ほーん」


 シュテフィンは修行がキャンセルになるなら何でも良いや、ラッキー程度しか思ってないらしく


 椅子に胡坐をかき背もたれに体を預けリラックスしていた


「全員集まったな、それでは始める。レイ! 見張りしてろよ!」


 ゲオルグが宣言すると同時にレイに指示を出すと廊下からレイの声が聞こえる


「はーい!」


「うむ、これでいい……さて、今後の話をする前にだ……そこにいるブース秘書官が持って来られた貴重な告発データを精査した結果とんでもない事実が判明した」


 ゲオルグが静かにこの数時間で分かった事を説明し始めたが、ジョシュ達やエリクソン、JP達も緊張の面持ちで話を聞いているが、唯一、高を括った顔をしたホセがじっとゲオルグの顔を見ていた


「それはここから持ち出されたデータやサンプルを使って作られたウィルスが今のこの黙示録状態の原因であるZを生み出した元凶である事を確認した」


 そこには絶句が作り出した間……という名の沈黙があった


 それは自分の仕事を汚された挙句、人類滅亡の片棒を担がされた事実は十分にゲオルグやフレディ達研究者を完膚なきまでに打ちのめす事実であった


「ゲオ、それはなぜわかったの?」


 慈愛を湛えた表情でエメが優しげに尋ねる。


「盗まれたデータ類がジェルマンの調べでアンソニー傘下の遺伝子研究所に運び込まれた事がわかった……」


 無表情でゲオルグは淡々と説明し始めた。


 元々研究施設は長寿、如何に若さをそのままで永遠に生きられる方法を模索する機関でスポンサーであるカート・クレメンタインやアンソニーの為に研究する施設であった。


 その後、新進気鋭で名高いジェイク・ダンカン博士の研究チームによりゲオルグ達の研究データは分析解析される……それはV-P1、ヴラド公のデータを含む膨大なデータを分析や解析に懸けただけでなく、急遽採取されたもう一つの系統のデータを比較や対象させられ、より精度を高められたモノが仕上がった。

 エリザベス・バートリーの系譜のデータがそこに加味され、データの解析が進んでより理解が深くなった……


「そこで奴らは人工的にP1ヴラド公P2ババアのサンプルを培養し、人工的に吸血鬼、それも原種・真祖級の存在を作り出そうとした。また従来の眷属や最下級の吸血鬼でも真祖になれるように重複した感染が可能になるように品種改良を始めた……それが最初の彼らの目的だったからだ」


 しかしそこで研究が頓挫する。スポンサーが揉め出したのだ。


 最大出資者のカート・クレメンタインが遅々として進まぬ研究にイラつき研究の一本化、自身の目的である人工真祖化に比重を全てかけようと言い出したのだ。


「研究者のその当時の生々しいレポートにてクレメンタインの糞野郎が研究所スタッフを恫喝する様子をアンソニーに報告していたよ」」


 それからしばらくしてP3と呼ばれるサンプルが生み出される。吸血鬼の特性を残したまま感染力を高めたと称した中身はRタイプウィルス、それも眷属の真祖化目的とした中途半端なモノを……


 それは永遠の若さと生を求めた答えだった


 独特の感染方法を取るそれの情報を聞きつけて早速乗り込んできたカート・クレメンタインを最初の被験者とした


 性行為をウイルス摂取方法に取るそれは1日1人以上の異性の身体を求める性行為依存症のクレメンタインのとって好ましい方法だった


「その後、クレメンタインは世界を回り、ウィルスをばら撒くスーパー・スプレッダーとなりP3と呼ばれたVZウィルスをSNSで確認しただけでドイツ、モスクワ・キエフ・レニングラード、ロンドン、パリ、スペイン、NY、マイアミ、ラスベガス、上海、香港、シンガポール、今の滞在地オーストラリアにばら撒いてるのさ」


「それって奴を取り押さえて今までやった竿姉妹や穴兄弟を全員確保しろって今すぐ当局に知らせないのか?」


 それまで黙っていたホセが手を挙げて下品な表現で指摘する


「いきなり当局に伝えてもスルーか動けんし、僕らの同族もいきなり困惑することになる。友よ。君は今の人類に実は隣の人、吸血鬼ですっていうのか?」


「まぁ、そうだろうな……ジョークにもならん戯言だわな」


 シレっと答えるホセに苛立ちを見せながらゲオルグは一つの疑惑を指摘する


「元々P3はR系統を名前を変えただけの代物だった…唯一の特徴は程度の代物を……それを煙たい最大スポンサーに摂取する意図や中身を知らせずに放置する意図は?」


「ただ単なる暗殺とは違うって事か……」


 黙って聞いていたジョシュが重たくなった口を開く


「それならば世界規模のテロだとするとその目的は? 文明破壊か人類根絶か? そんな事を単一エリアの執政者がやって何の得になる?」


 そこでJPが介入するがすかさすゲオルグが指摘する


「これを実行したことで現在、世界各国、特に大国はほぼ自国のZへの対応で他国への侵攻や介入の余力はなくなり、物流や経済は破綻する。これならば単一エリア、農産業や水産物が豊富で工業力もあるエリアを掌握できればかなり強い力を持つことになる。それで武力まであれば言うことはない」


「まさか、アンソニーが計画して実行したと?」


 これはエリクソンが愕然とする


「確たる証拠はない、暗殺や贈収賄でアンソニーを内偵中のバートリー社内秘密監査役マホニーの突然死による内偵の打ち切りや東海岸で辣腕を振るい南北アメリカ大陸において絶大な支持があったレオニード公の突然の死去と全ての政敵が何故か全員沈黙して上での後任への就任、国内の反抗因子である我らへの教会の誘導とダメ押しの襲撃、中央軍隊の強化と親族たちへの内密の派兵要請……すべてが線と点で結ばれていればその計画は佳境に入ったと言える」


「と言いますと?」


 シュテフィンが分かったような分かってないような口調で合いの手を打つ


「不倶戴天の敵で、専ら防戦一方である教会を討ち、そしてその頂点である強皇を討ち取れれば名声と威光でレオニード公さえ超える人気、それも真祖に次ぐ人気でZの被害でボロボロの大陸を一気に掌握して大帝国を作れる……ん?!」


 そこまで言うとゲオルグはハッとっしてにやりと笑うホセを見ることになる









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