始動
オーウェンとの組手が終わってシャワー室の脱衣所でコーラを飲みながら汗をタオルで拭くジョシュに廊下を通りかかった武装を持ったマーカスが呼びかける
「お、御手透きかい? 今、救助要請が来たから出張るんだが……遊びに行かね?」
軽い口調で誘うマーカスにジョシュはニヤリと笑う
「ああ、この後は夕方からエメの装備の最終調整だけだから延期してもらって行くよ」
「そんじゃ、駐車場で待ってるぜ。武器は
頭を拭き終わったタオルを籠に入れると服に着替えてジョシュがその後を追う
駐車場に出ると整備員がジープに乗り込む肩を三角巾で釣ったエディとマーカスに連絡事項を伝えていた
「えー、連絡の車種はGT-Rで搭乗者は男性2名で重要なデータを保持してるので教会からもNYからも追われているそうです。」
車種を聞いて目を輝かせるエディに呆れるマーカスが後部座席に乗る。
荷台には固定銃座の基礎の柱と幌の骨組みだけが残っていたが、そこに別の作業員がジョシュやマーカスの武器を運んでくる
「へぇ、
追いついて後ろに乗るとジョシュは立て掛けたM107CQを手に取り、作業員との会話に割って入る
「後ろの蠅を潰せばいいのさ、後は良い車だけに軽くぶっちぎってくれるからね」
運転席のエディがいい加減に作戦の意図を解説する
「了解、ほんじゃ行こうか?」
呆れ果てて苦笑するマーカスがエディに出動を急かすと作業員が待ったを掛ける
「目標は州道90号、マサチューセッツターンパイクをボストンに向け疾走してますが、此処からならウースター市近郊のオーバーンで捕捉できると思います」
「了解、ほれ、さっさと助けんとGT-Rを触れる時間が少なくなるぞ?」
カーマニアのエディがうずうずしてるのを悟って煽るとエディは返答代わりにタイヤを鳴らしてジープを発進させる
文字通りのロケットダッシュで研究所を出ると目の前にいたZの一団をジープのテールを滑らせ纏めて弾き飛ばすと一路オーバーンに向けて走り出す
街中は前回の戦闘の為、所々の家々が焼け落ちていたり、トラックや車両が突っ込んでいる状態だった
すると運転手のエディが沈黙してるのが詰まらないと感じ、ジョシュに話しかけてきた
「なぁ、ジョシュ、修行上手い事いってんの?」
「ああ、技量的な底上げはボチボチな……そっちはどうだい? 今日最終調整だったが……?」
「こちらもほとんど目途が立ってるってエメが昨日言ってたぜ……」
エディが少し自慢したかのように胸を張るのを見てジョシュは苦笑する
初めて使った際は両足のローラーの回転数が違うとか、センサーが狂って高速回旋しだしたりしただけでなく、筋力衝撃サポート機構がおかしくなって完全固定して動かなくなったり、明後日の方向へ作動して関節が脱臼しそうになったりと調整の度に散々の目に逢っていた。
しかし、その裏ではエメ達、装備部が一丸となって他の部署も巻き込み、結局は研究所の総力を挙げての設計開発とエディの
「まぁ、パワードスーツも良いが最終的には肉体勝負だかんなぁ……俺らの今後もどうなることやら」
後部座席に積まれた切り札のロケットランチャーを確認するとマーカスがボヤく、今日も朝まで呑みながらJPとホセとで今後の目標について協議していたのだった
今後の目的が定まらないのは稀にはあったが今回のは重症だった。
チームの大番頭であるホセがNY参戦に反対だった
何故ならアンナは簡単に合流できるとしても、その後に報復や腹いせがてらにアンソニーや教会を攻撃しても何の利益にもならない……ゲオルグがアンソニーの対抗馬として立てば外郭部隊として雇ってもらえるかもしれないが……
当面はジョシュ達の手助けはNY市内まで、ゲオルグが契約をオファーすれば乗るだけだが、今はアンナを迎えに行ってバックレる簡単な任務のみとの結果に終わったが、マーカスは内心驚いていた
常に先を読んで仕事を得る姿勢はマーカスのチームにはない発想だったからだ
(場当たり的だったもんなぁ……アンリの時もNYでの仕事に契約金良かったけれど後、散々だったしな)
数か月前、オファーを小躍りしてゲットしたのを思い出してマーカスは自分に対しげんなりした。
「お? 早速ドンパチやってらぁ、お二人さん一つド派手にお願いします」
遠くの銃声を耳にしてエディがアクセルを踏みつつジョシュ達をあおる
「了解、標的ばっかじゃ少々飽きてきたからね。訓練の成果も見たいしさ」
「それじゃインターチェンジの出口で待っていようぜ……」
マーカスの提案にエディが頷き、猛烈な勢いで車を走らすと数分足らずで目的のポイントに到達した
「おいおい、めちゃくちゃ飛ばすな……」
逆走してインターの出口の高架下にスピンターンして止めるとエディはわくわくした顔でマーカスに言い返す
「何言ってんの? 相手がGT-Rならこれでも遅いくらい……あれ? まだ来ない……」
高速道路上にはまだ影も見えないが無数の銃声だけが周囲に響いていた
「そりゃ幾ら日本の高級公道レーシングマシンとはいえ無理だろ……お? 来たぞ?」
「お? マジ? どれどれって……なにあのくそダサイの!」
南からやって来る無数の追跡車をくっつけて走る車は、話に聞いていたGT-R・R33タイプの外観には程遠い、どこぞのB級近未来SF映画撮影現場から持ってきたようなゴツイ装甲板を取り付けただけの質の悪い玩具の車のような姿で後方からバカスカと撃たれながら走ってきていた
その姿は颯爽と快走するGT-Rのイメージにはそぐわない代物だった
「ま、とりあえず追跡を削るか……ジョシュ、先頭2台潰しちゃって閉鎖してくれ」
マーカスの指示で本来室内用のM107CQに
数秒後、肉薄する先頭の追跡車両のエンジンルームがいきなり爆発し車体をその場で一回転させる
それを辛うじて避けた後続の車両もタイヤ毎エンジンルームが爆ぜ、コントロールをいきなり失いその場でスピンする
《イエェェェェェェィ、味方だぁぁぁっ!》
心なしかGT-Rのドライバーの叫び声が聞こえた気がする……
「移動するぜ、後方の攻撃よろしくねぃ」
GT-Rを誘導するかの如く走り出し前につけながらも応戦してくるタイミングを見計らって攻撃を加え数を減らす
するとGT-Rからクラクションが鳴り、大声で離れろ! と男の声で指示が出る
「あ? はいはい離れますよっと」
それを聞いたエディがスピードを上げた瞬間、GT-Rの
風圧に押しのけられるのを計算に入れられたそれはさながら蛹から蝶へ脱皮するがごとく車体中央部から割れ、銃弾を撥ね退けていた鉄板がパージされ、後続の車を巻き込んで大破させていく
そこには各部に焦げ付きがあるものの、装甲版の軛から解放され颯爽としたフォルムのR33がジープの横に付ける
「「アンタ等、アヴェラン嬢のお仲間かい?」」
助手席のエリクソンが大声で怒鳴るとマーカスが後方へ銃を乱射しながら怒鳴り返す
「「ああ、アンナは一緒じゃないのか?!」」
その言葉を聞き、一瞬ホッとしたマルティネスとエリクソンは続けて依頼する
アヴェランの名前は敵もデータ見てれば分かるが、アタシの名前を言って所在を確認してくるのがアタシの仲間だと教えてくれたのだった
「俺らをランバート教授に会わせてくれ! 命懸けでデータ持ってきたんだ!」
「了解だ、ジープが先導するから後ろに続いてくれ」
減速してジープの後に入り、銃を構えたジョシュが後方の車両を駆逐しだす
数分足らずで動く車は2台しか居なかった。
「ジョシュ、お疲れ、とりあえずドックまで行こうや」
マーカスに労われるとふっと息を吐き、座席に座り、この先に見える死んでしまった街並みを見る
あれから1週間、何とか傷は癒えたが事態はあまり好転していない
戦闘技術的な向上に体力、武器の習熟度はかなり上がったがそれだけではアニー達を救えない
焦りに似た苛立ちを押さえる為に出てきたが空振りと分かると余計に苛立ってくる
湾岸部が見えてくると同時に亡者の群れが所狭しと街に溢れかえる。
橋を保安部が爆破して大回りしなければ湾岸部に入れないようにしていたため音を感知してもここで止まり、未に溜まっている
回り込むようにルートを取ると速やかに湾岸部に入っていた大量にいたZの群れはたぶん保安部に駆除されたか内陸部に移動したのだろう……
そして湾岸部の隠しドックにはいると大事そうにブリースケースをもったエリクソンが降り立つ。
船は対防護用の装備を組み込むべく北欧たち率いる保安部が手を尽くしていた
「お? ジョシュじゃねぇか? どしたぃ? 修行さぼったんか?」
船内に入るデッキを探すジョシュ達を見つけた三バカ強盗団の長兄カイルが資材を運びながら尋ねる
「ちげーよ。客連れてきたんだ。そだ、カイル、船内への入り口何処?」
「付いて来い。ついでにシリルにも会ってやってくれ。ジョシュ達はどこ行ったの? って聞いてくるからさ」
「わかったよ。 お姫様に会って来るわ」
道すがら話しながら資材導入ハッチから船内に入るとカイルに別れを告げ、エレベーターで乗務員エリアの一角に着くとゲオルグの執務室に入って行った。
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